ラスボス討伐後の諸々
「こ、これは……」
「まじか……」
「……なんです?これ?」
俺たち人間組が目を見開く中、ラフだけが首を傾げている。
ラフが知らないのも無理はない。こいつは、地球の智慧の産物だ。剣と魔法の世界にあっていいものじゃない。
「パソコン……」
さっきまでいた、ホテルのような煌びやかな雰囲気とは打って変わり、落ち着いた仕事部屋のような場所だ。
黒一色で統一された机や椅子、壁はシンプルで近未来的だ。
「おーパソコン、懐かしいなあ……見なくなったもんな」
浩介が何やら感傷に浸っている。
見なくなった?見れないだけだろ?
ここで生活していた日本人のものだとして、召喚された時に偶然持っていたのか、こちらの世界で自作したのか。
「起動できるか?」
「おう、……ポチッとな」
……シーン……
「バッテリーがないんじゃないか?」
「でも、コンセントは繋がってるぞ?」
浩介の指差す方をみると確かにプラグがコンセントに繋がってる。
でもな、
「こんな異世界の洞窟の奥底まで電気通ってる訳ないだろ!自家発電かなんかが止まってるんじゃないか?」
コンセントの先をレーダーで辿ると、巨大なボックスがあった。……これがバッテリーか?
仕組みがよくわからないので雷を落としてみる。
バリバリバリバリバリーーーーーズガアァン!
「テレンテテン」
「うわ、ビックリしたあ!なんかパソコン?から音が出ましたよ!」
ディスプレイが表示しているのは、赤、青、黄、緑の四角が並んだロゴ。見慣れたあのロゴに見えるが、色の順番や縦横の比率など、細かいところが微妙に違う。
『ようこそ、冒険者よ』
いつのまにかプレゼン用ソフトが立ち上がり、ナレーションが流れる。
『よく、ジャファイアントを倒しダンジョンの最奥へ辿り着いた』
「おい、ナミト。なんかパワポが偉そうなこと言ってるけど」
「この世界の人間としてはビックリだろ。術者もいないのに魔法が発動した!ってな」
それこそ、神的な何かだとすら思うかもしれない。
『その実力を認め、褒美をやろう……ギルド証をこちらへ』
突如、空中に魔法陣のようなモーションが表示される。……芸の細かい奴だったのだろう。もしくはヲタクだ。魔法陣などというものは存在しない筈だ。多分。
「おい、ナミト。ここにギルド証を突っ込めってことか?」
「なぜ俺に聞く?……って、ちょっと待て!」
「うお?!」
俺の制止を聞かずに魔法陣に腕を突っ込んだ浩介が声を上げる。魔法陣が眩しいほどに青く輝いて、ギルド証を包み込んだ。
『褒美は、“称号:異物”の除去だ』
『称号は、身分を証明するのに使われることも多い。その時に“異物”なんて称号、邪魔だろう?』
……微妙だ。ジャファイアント、災厄の影との死闘の末の褒美が称号の除去。微妙すぎる。
確認すると、俺のギルド証からも“異物”の称号が消えてる。
『それでは、地上に送ってやろう』
真っ黒で何もなかった壁に突如、扉が出現する。
……今はまだ無視だ。
「浩介、そのパソコン、ちょっと調べてみよう」
「え?おい、人のパソコン勝手にのぞいたらダメだろう」
パワポを閉じてデスクトップに戻る。……ん?気になるアイコンを見つける。
Wi-Fiのマークによく似たアイコンだ。この世界にネット環境なんてあるはずもなく、しかし興味をそそられた俺はそれをクリックする。
『接続を確認中……』
『接続に成功しました』
『翻訳を開始します』
『翻訳が完了しました』
『エラーが発生しました』
『ウィルスを検知しました』
『ウイルスファイルを削除します……』
『ウィルスの削除に失敗しました』
『このPCは不正なブラウザに乗っ取られている恐れがあります』
『text他30のファイルを削除しますか? はい/キャンセル』
『sヴぁ885ツg気khdhf\、』」:。」>>。」¥。・いhb・m。、¥ml。」:。」>>』
次々と確認画面が表示されては消える。
……チッ。ファイルどころかパソコンまで駄目にされた。
「ご主人様、扉が消えそうです!」
「ナミト!もう行くぞ!」
「おう!」
エフェクトが消えかかっていた扉を開けて中に飛び込む。これもエフェクトなのか、それともそういう魔法なのか、目の前の景色が目まぐるしく変化する。
「クワッ」
「うお?!」
「痛て!」
急に視界が開けたと思ったら、体を地面に強かに打ち付けられた。
結局、日本人がいたであろう部屋について得たものは、“異物”の除去だけだ。元の世界に帰るための関連情報は一切なし。
「浩介、ラフ、帰るぞ」
「はい」
「おう……なあナミト、その剣はなんだ?」
「ん?この剣か?これは確か……」
「災厄の影の死骸から出てきた剣です!」
「ああ、そうだ……ドロップアイテムか?」
自分で言いながら呆れる。ドロップアイテムだって?そんなゲームみたいなことあるわけもない。
「それ、もしかしたら……ライザヌーンの剣かもしれません!」
「ライザヌーン?ああ、おとぎ話の主人公か」
まだ弱かった頃、ジャファイアントと戦い、剣ごと右腕を食われたという。
「その、失われた剣は名を……エクスカリバーといいます」
ふうん、エクスカリバーねえ。……って、それは困る。
「俺の魔法と名前被ってるじゃないか!浩介、どうしてくれる?」
「あ?なんで俺?」
「魔聖剣の名付け親は浩介じゃないか!」
「……エクスカリバーだってことを隠して売り払っちまえば?」
「おー、そうするか。あの武器屋は買取もしてくれるかな?」
ダンジョンは俺たちが潜った時とは打って変わって空いていた。なんでも、この前まで減っていたスライムが今度は大量発生しているらしい。
「ひとまずギルドに行くか」
「そうですね、素材も売りたいですし」
「……で、これ全部あなた方が討伐して得た素材ですか?」
受付嬢がカウンターに置かれた大量の素材を見て引き気味に尋ねる。
「いや、全部じゃない」
「え?」
「運びきれない分はダンジョンにおいてきた」
「あ、ああ、そうですか……ギルド証を見せて下さい」
《ギルド証:ナミト Aランク》
HP:80%
MP:40%
quest:nothing
monster:災厄の影
ジャファイアント
リンダイア
サムティガー
スライム・イーター 他▼
magic:ファイアー・ボール
unknown1〜300
title:魔術師
殺戮者
損失者
ダンジョンマスター
生き急ぐ者
money:69,140R
《ギルド証:コウスケ Aランク》
HP:82%
MP:70%
monster:災厄の影
ジャファイアント
リンダイア
キリキリマイリス
スライム・イーター 他▼
magic:ファイアー・ボール
身体強化
title:格闘家
殺戮者
ダンジョンマスター
生き急ぐ者
卵種
money:69,020R
「わ!……すごいですね、ダンジョンをクリアしたんですか。ランクも一気に上がりましたね」
ギルド証の縁は光沢のあるオレンジで囲まれている。Aランクのカラーは橙色のようだ。
「これらの素材を全て買い取るとなると……」
「この6倍はある」
「……会計長の許可が必要です。あ、それからこの前依頼されたクエストの違約金が出ています」
おー、すっかり忘れてた。100,000Rだったか。
「会計長は今日、不在です。明日はいらっしゃるはずなのでまたいらしてください」
じゃ、今日はエクスカリバーを売って帰るか。
あ、そういえば……
他▼←これは省略された項目を呼び出すマークです。
スマホで執筆なさってる方なら分かるでしょうが、
記号挿入 ∨←これと同じです