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魔聖剣

 ヒュン



 今度は左前脚を刈る。俺の援護魔法が効いているのか、もともと具ている能力なのか、右前脚は既に修復されている。



「ギシャァァアーーーーー!」



 蜘蛛が尻尾のようなものを持ち上げる。

 糸でも出すのだろうか。どれ、売れそうだから受け取ってや……



 ーーーーーーゴアァア



 ……っぶねぇ!!

 とっさに避けたが、蜘蛛が放ったのは糸じゃなくて真っ白な炎線(?)だった。

 蜘蛛なら蜘蛛らしく糸吐いてろ!

 15cmはあるであろうその炎線を浴びた床は薄灰色から黒に変色し、煙をあげている。



「?!」



 俺はそっとその黒い部分に触れる。



 ーーーボロ……



 おい、ダンジョンの床って壁同様、魔含鋼石でできてて絶対壊れないんじゃなかったのか?

 なぜ指で突いただけで崩れる?



 魔含鋼石は、例え魔王でも、勇者でも、龍王でも、壊すことができないはずなのだ。

 それが、なんでこんな()()()魔物に破壊できるんだ?



 この世界に来てから初めて感じる悪寒が背骨に絡みつく。

 こいつは、もしかすると本当にただの魔物なのかもしれない。



 でも、魔術を中心に戦う俺にとって、これは天敵もいいところだ。



 魔含鋼石を簡単に砕く方法?そんなのさっき俺たちがやったじゃないか。()()()()()()()()



 あの炎線には魔力を奪う力があるのではないか。

 魔力が0%になった時、人体にどんな影響があるかはわからないが、少なくとも魔法は使えなくなるだろう。



 ……魔法を使えない俺に何ができる?



 ナメてかかってゴメンなさい、挑発なんかしてゴメンなさい、偉そうに援護魔法なんか掛けてゴメンなさい!



 ーーーゴアァア



 俺は今まで雑魚キャラの相手ばかりして、調子に乗っていたのかもしれない。

 とにかく、あの炎線は危険だ。

 だから…………対処する。



 一度、魔聖剣エクスカリバーを切り、印を結んでレーダーを発動する。



 ーーーーーーヴゥン



 俺の脳裏に映し出されたのは、立方体に近い形をした部屋と、その中にいる俺と蜘蛛。

 蜘蛛の尻尾が俺に向けられるのが見える。焦るな、焦るな。

 …………見えた!



 ーーーーーーゴアァア



「ッチィ!」



 ギリギリで躱せたと思ったが、マントが炎線に触れる。

 マントは……3秒程を耐え抜いたあと、炎に包まれて灰と化した。マントの防御力もまた魔法によるものだから、仕方がない。



 俺は再び



 ーーー刀印ーーー



 魔聖剣エクスカリバーを構え直す。



 今度は舐めない。

 一撃一撃を必殺のつもりで斬る。

 俺は剣術なんて知らない。だから、俺が考えて考えて、一番良いと感じた方法で斬る。



 すなわち。



「ギシャアアアァァァァァアアアーーー」



 縦一文字に斬り上げる。そして。



「ギャオアアァァァァァァァァアーーー!」



 剣を返して横一文字に斬る。

 縦、横、斜め、縦、縦、斜め、横……。



 アクロバットなバトル?そんなもの知るか。大袈裟じゃなく、俺は、生き残るために戦う。

 そんな戦いで宙返りだの、ジャンプ斬りだの、そんな事してられるかって。



 蜘蛛公が隙を見せたらダメージを与える。隙を見せなくても無理矢理ダメージを与える。



 そうしてダメージを与えつつ目指す場所は、蜘蛛公の腹部。

 魔聖剣エクスカリバーを振り回して、そこに至るまでの道を切り開く。



 ーーーゴアァアア



 間一髪。咄嗟に蜘蛛公の背に乗って炎線を避ける。

 それでも余波で俺の中の魔力が吹き飛ぶ。5%といったところか。

 余波に掠ることすら、10回弱しか許されない。それ以上は魔聖剣エクスカリバーの維持に支障をきたす。



 せめてもの救いは炎線から炎線の間にある程度のクーリングタイムがあることか。

『だるまさんがころんだ』のように進む。



「ギシャアアァァァァァアアァーーー」



 背中の上には腕が届かないようだ。

 俺を振り落とそうと身体を激しく左右に振る。

 うっ……酔いそうだ。



 ーーパチンッーー



 魔聖剣エクスカリバーを頭上に放り投げて両手で指パッチンをする。

 発動される魔法は、焔玉ホムラダマ

 一つ一つの威力はファイアー・ボールに劣るが、数でそれを上回る。ゴブリン討伐の時に使ったものだ。

 発現した焔は8つ。それぞれが別々の動きをして蜘蛛の8本の脚めがけて飛んでいく。

 ほぼ同時に蜘蛛公の炎線が光る。



 ーーーーーーゴオオォォォオオ

 ーーーーーーゴアアァァァアア



 一瞬早く、俺の焔玉ホムラダマが蜘蛛公の脚を焼き切る。

 支えを失った蜘蛛は炎線をめちゃくちゃな方向へ飛ばしながら地に腹をつける。



「ギシャアアアアアアアアアーーーーー」



 蜘蛛公は痛みに叫ぶが脚が回復するまでは身動きを取れないだろう。



 バシッーーーグサッ



 宙に投げていた魔聖剣エクスカリバーをキャッチし、ーーー蜘蛛公の背中に突き刺す。



 魔聖剣エクスカリバーの本質は“斬る”ことではなく、“隔てる”こと。

 魔聖剣エクスカリバーが通ったあとの空間は、切り口を境に隣り合っているようで、隣り合っていない全く違う空間になる。空間的亀裂が生じるのだ。

 そういう意味では、物の通り道を“断つ”剣だ、ともいえる。



 俺が今斬ったのは、蜘蛛公の臓器の、炎線回路だ。炎線が発射される時、ここから炎が這い上がってくることをレーダーを使って発見したのだ。



「ギジャア゛アアアアアアアア゛…………」



 回路を断たれた炎線は蜘蛛公の体内をめちゃくちゃに跳ねまわり、



 ーーーーーーゴアァアアアアアァァァァ……



 頭から出ていった。

 ……あ、目ん玉…。やっちまった。唯一売れるかもしれなかった目ん玉は既に蒸発していた。



 残ったのは背中に刺し傷がある外骨格だけ。みたところ肉は目ん玉と同じく蒸発してしまったようだ。



 まあ、仕方がない。だいぶ時間も経ったし、一度拠点に戻ろう。





 浩介とラフは既に拠点に戻り、料理の準備をしていた。



 ん?ラフに少し違和感を感じる……?



 流石に食事中は魔物にもきて欲しくないので香りは抑えめだが、それでもいい匂いがする。



「おお、帰ったかナミト」

「おかえりなさい」

「ただいま」



 メシは……分からん。肉っぽいのと野菜っぽいのが鍋に入っていて美味そうだ、以上!



「さてと」



 浩介が切りだす。



「ナミトも帰ってきたことだし、情報交換といくか」

「じゃあ、まずは私から……」



 ラフ、浩介、俺、と順番に今日のダンジョンでの成果と課題を共有する。

 ダンジョンの中の様子を把握する目的もあるが、それよりも互いの戦力を確認する必要がある。そうしないとパーティーとしてまともな戦闘ができないからな。



 2人の話を掻い摘んで書くと、


 ・ラフは進化した

 ・浩介は威圧を獲得した


 という感じだ。…………進化ってなんだ?進化って。



「本当はもっと早いはずだったんですけど、群れから追い出されて進化が遅れていたみたいです」

「特に変わってないように見えるけど……そのトサカか?」

「はい!なんか、女王だと正式に認められたみたいです」

「……そうか……今後の活躍に期待してるぞ?」

「はい!」



 正式な女王?群れもないのに、どういうことだろう。

 そしてこっちもよくわからない。威圧、とは?



「威圧はな、気配を魔力で強化して実際より強く見せる技だ。存在感が増すんだな」

「それに何の意味があるんだ?むしろ実際より弱く見せて油断させたほうが合理的だと思うけど?」

「それもできるぜ。気配を無くすのもできるぞ?威圧すると、少し弱い魔物ならすぐ逃げてくれるんだ」



 なるほど、雑魚の処理が楽になるのか。少し羨ましい。



「ナミトの方はでっかい蜘蛛、だったっけ?」

「ああ。でもあの尻尾は今思えばサソリのようでもあったな」

「ふうん?魔聖剣エクスカリバーで倒したんだろ?」

「ああ。割とギリギリだったけどな」

「魔力がか?」

「いや、戦闘自体が」



 とはいえ、魔力の消費も激しかった。魔聖剣エクスカリバーはほかの魔法と比べ莫大な魔力を必要とするのだ。それも、使いどころを選ばなければ自滅するほどに。



「……何でそんなものを魔力を吸えるやつ相手にバカスカ使ってるんだよ?」



 今度から自重します。ま、刀印と魔聖剣エクスカリバーの結びつけもできたし、良しとしようじゃないか。



「それじゃあ、明日はもう少し深い所……」



 グララアガアアアアアアアアア゛ーーーーー



 話を終わらせようとした時、遠くからとてつもない遠吠えが聞こえてきた。



「うお?なんだ?」

「下だな」

「下でしたね……」



 どうするかな……。

 寝るか。


ナミトが直線的な戦いしかしないのはナミトの技量がないこともありますが、私の実力不足も原因です。

ナミトには申し訳ない。

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