ダンジョン篭り
「やあ、また会ったね」
ギルドから出ると、本日のカモ……レミストがいた。
「これからクエスト受注しに行くんだけど、一緒にどうだい?」
「いや……もう帰ろうと思って」
「そうかい。残念だなあ」
浩介が持ってきた素材を売るとだいぶ金になったので、一度宿屋に戻る。
荷物を置いたらダンジョンにでも行こうと思ってる。まだまだ印と合わせていない魔法がたくさんあるから。
「それじゃあ、また」
「ええ。またいつか誘ってくださいね」
ま、誘われても困るけどな。
「おーい、ナミト、さっさと行こうぜ」
「はい!そんな男、放っておきましょう」
「……なんか僕恨まれてない?」
「……さあね?この前のクエストで損したのをまだ根に持ってるんじゃないか?」
今回はクエストを受注していないから、魔物の素材を売って金にする。
俺の十八番であるファイアー・ボールは素材を焦がしてしまうため使えない。
もともと使うつもりもないけど。まだ印と合わせていない魔法をメインに使う予定だ。
まあ、そこは売る素材の部位によって使い分ける事になるかな。
ダンジョンに着くと、先日来た時よりも冒険者で賑わっていた。なんでもスライムが激減してダンジョンの奥に行きやすくなったそうだ。
スライムはたいして強くないが、ブニブニして攻撃がしにくい上に数が多くて厄介なのだ。素材として売るにも価格が労力に見合わない。
その点はゴブリンも同じようなものだ。弱いがずる賢く、倒しても金にならない。
話が脱線してしまった。
奥に行きやすいということは普段会わないような魔物にエンカウントできるかもしれない。
それでも俺がやることは今までと変わらないが、ワクワクしていることもまた事実だ。
なんだかんだ言って俺も異世界に召喚されたゲームのような状況を楽しんでいるということだろう。
「ナミトー、そっちにスライム行ったぞー」
激減したといっても、まだまだ数は多い。俺たちはスライムを薙ぎ倒しながらダンジョンのさらに深い階層を目指す。
俺も浩介もラフも、この前のスライム狩りで倒しにくいとされるスライムを倒すコツを掴んだので、わりと省エネで倒せる。
20階層降ったところでーーーといっても、ダンジョンが建物のように階を連ねているわけではなく、時々ある階段や坂道の数で勝手に数えているだけだがーーー冒険者の姿はなくなった。
いつにもまして冒険者で混んでいたこともあり、スライム以外の魔物にエンカウントしなかったが、そろそろほかの魔物にも会えるだろう。
「ナミト、この辺で良いんじゃないか?」
「そうだな。よし、ラフはそっちを押さえててくれ!」
「了解です!」
今回は暫くダンジョン内にこもる予定なのでキャンプを設営する。
キャンプといってもダンジョンの壁をくり抜いた簡単なものだ。
ダンジョンの壁は魔力が長年に渡り溜まっているため非常に硬く、魔物の襲撃を防いでくれる。魔法で穴が空くこともない。
一応、“魔含鋼石”という素材名がついてはいるが、加工できない程硬い(というか切り出せない)ので全く出回ってない。
では、そんな硬い壁をどうやってくり抜くのか。俺の少ないこの世界の知識を総動員して思いついた方法がこれ。
ーーーーーースライム・シート。
放っておくと永遠に魔力を吸い続けるスライムを薄く伸ばし、シート状にした俺の発明品だ。
コイツを壁に貼ると魔力を吸って普通の岩壁に戻してくれる……はず!
後はシートの裏から浩介が壁を殴りまくる。今の浩介なら岩壁ぐらいなら破壊できる。
ーーードガアァァア!
ーーードガアァァア!
ーーードガアァァア!
結局、10分程でダンジョンの壁には5m四方ぐらいの穴が空いた。
わりと広いな。教室より少し狭いくらいか?
一番奥に四次元宝箱を設置する。
流石に空間収納系の魔法は難しいかなと思ったが、頑張ったらできた。
問題は質量が変わらないことだが、それぐらいなら魔法でなんとかなる。今回は暫くダンジョンに篭る予定なので、獲得した素材をコイツにしまう。
「ご主人様ー、早く行きましょうよー」
ラフが急かしてくる。
拠点の話はこれくらいでいいか。早速、魔物狩りに行こう……
ーーーザンッ
……の前に、拠点の前でたむろしていた肉兎の群れを処理する。
この魔物は確か、後足の付け根が高く売れる。他の部分は今日の食料にしよう。
学ランを脱ぎ、ラビックの血を手足や顔に塗りたくる。
これでにおいにつられて他の魔物も来てくれるかもしれない。
浩介やラフも同様に血をつける。なんだか真っ赤な化け物みたいだ。
「じゃあ、3時間後にまたここで集合、それまで自由行動。解散!」
「おう!」
「はい!」
浩介たちと別れ、俺はダンジョンの奥へと突っ走る。
スライム狩りをした浅い階層は迷路のように道が続くばかりだったが、深い階層に来ると部屋のような場所も増えてきた。
徘徊しているだけだった魔物たちに、縄張り意識が芽生えているようで、だいたい一部屋に1匹という感じだ。
部屋に入っては魔物を倒して次の部屋に入る。
魔物との戦いにもだいぶ慣れてきた。
浩介のように身体強化できるわけではないが、同じようなことを魔法でできるようにした。
風を使った素早い動き、熱を使った重いダメージなど。
動きはめちゃくちゃの我流だけど、今のところパワーで押し切ることができる。
部屋に入って遭遇する魔物はほとんどが地上にいる魔物が巨大化したもの。
さっきはデッカいネズミだったし、今目の前にいるのはデッカい蜘蛛だ。大型トラックほどの大きさがある。
「よう、蜘蛛公。お前は本日74匹目の獲物だ」
蜘蛛型の魔物の多くはその目玉がポーションの材料として高く売れる。
或いは糸が売れたりもする。俺が羽織っているマントも確か蜘蛛型の魔物の糸が使われていたはずだ。
「キシャアーーーーーー」
俺の声に反応して蜘蛛が目を光らせる。お目覚めのようだ。
今回俺が立てた目標は、1つの部屋から出る前に、1つの魔法を印と結びつけることだ。すでに73の魔法が印を持つようになった。
(俺はこれを結印魔法と呼ぶことにした)
「まずはこれを喰らえ」
俺は蜘蛛に援護魔法をかける。
一撃で死なれたらたまったもんじゃない。
「ヴゥン……」
俺は74個目の魔法を発動する。
組み合わせる印は、刀印。両手でチョキを作り、左手の薬指と小指、親指で右手の人差し指と中指を包み込む形だ。
ヒュン
軽い風切り音がして蜘蛛の右前脚が吹き飛ぶ。
斬れ味抜群。スピードも申し分ない。
蜘蛛は何が起きたのか分からないのか、キョトンとしている。
俺は振り下ろした魔法をまた振り上げる。
ヒュン
「キシャーーーーーーーァァア」
右肩を抉られて漸く蜘蛛も目の前の俺の仕業だと気がついたようだ。
いいね。もう一度援護魔法をかけてあげよう。
目ん玉と糸以外は売れなさそうだし、君はゆくゆくは俺の必殺魔法になるかもしれない、この魔法の練習台になって貰おう。
蜘蛛の目の光を反射し、魔法が一瞬赤く輝く。
俺が考え、浩介が名付けた魔法。陳腐だが、よく似合った名前の対個魔法。
魔聖剣