表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/19

召喚、異世界の冷遇

 40もの瞳が、俺の顔を覗き込んでいる。

 皆、坊主頭で、黒い、ゆったりとしたローブを着込んでいる。漫画やアニメに出てくる、魔法使いのようだ。



「な、か、ぐぁはっ…………」



 なんなんだよ、おまえら、と叫ぼうとすると、強烈な頭痛が走った。



「成功したのか?」

「そのようだな」

「ああ。お呼びしてこい」

「うむ。」



  何を成功したんだ?というか、ここはどこだ?



  高校から下校している途中だったはずだった。いつものように、市立病院前のバス停で市営バスに乗って、そのバスに乗ろうとした途端、目の前が真っ白に光り輝いて――――――――いつのまにか、こんな所にいた。



「陛下!こちらです!」



  ローブの男が駆けてくる。後ろから、金ピカの服を着た男がついてくる。

  着る人によっては、その色は、黄金となるのかも知れない。

  しかし、全身から小物感を漂わせるこの人物が身につけると、黄金から金ピカに格下げだ。



「おお!遂に成功したのか!」

「 はっ!」



  黒ローブAがうやうやしく礼をする。金ピカが一番偉いようだ。



「おい!どこだよ、ここ!かえせよ!」



  また刺すような頭痛がしたが、俺はかまわず叫んだ。



「無礼者!陛下に向かってなんて口を……」



「よい。」


  黒ローブBが叫ぶのを、金ピカが止める。



「ここでの規則など知るわけがない」

  金ピカが俺の髪を無造作に掴んで持ち上げる。



「しかしな、2度目はないと思え」

「へ?」

「ここでのルールはこの俺だ。貴様が生きるか死ぬか決めるのも、俺だ」



  何言ってんだって怒鳴ろうとして、出来なかった。目が、放つ空気が、マジだった。マジもんの殺気だ。



「あの、ここは……」



  だから俺は、大人しくする事にした。

  マジな目をしたヲタクほど、危険な者はいないのだ。



  そう!彼らはヲタクなのだ。ヲタクが高じて、魔法使いごっこでもやりたくなったのだろう。



  ヲタクの行動力って凄い!と俺は感動した。一般市民である俺を巻き込んでしまうなんて!



  でも、やっぱりここからかえしてほしい。



  「ここは、リザニマの城だ。お前は、赤の月まで、この城にいてもらう」



  厨二病に付き合うには、まず設定を聞き出す必要がある。俺のクラスにもそういう奴がいたから、扱いには慣れているほうだ。



「リザニマ……だって?俺は、日本にいたはずなのに……」



  ずばりこのシチュは、"異世界召喚"だ。俺は勇者か何かとして、"リザニマの城"がある、どこかの世界に召喚された、という設定だろう。



「あまり、驚かないのだな」



  金ピカが呟く。

  なんだ?もっと驚いて欲しいのか。よし、付き合ってやろうじゃないか。



「リ、リザニマだって?ど、どこだそれは⁈に、日本じゃないのか?そ、それに、なんだよ、その魔法使いみたいな格好は!はっ、まさか、俺は異世界に召喚されちまったのか⁈」



「おお、召喚を言い当てたのは貴様が初めてだ。少しは魔法を使えるのか?」



  よしよし。金ピカが乗ってきた。



「いえ、魔法なんて……教えていただけますか?」



  さらに、コイツらが決めた設定を引き出す。



「魔法を教えろときたか‼︎道具の分際で、この俺に、魔法を教えろと‼︎」



  あれ、何かまずかっただろうか?



「いや、よい。もとよりそのつもりだ。その体に、直接、魔法というものを教えてやろうではないか!マツァーフォ‼︎」



「はっ」



  黒ローブBが何やらぶつくさと唱え始めた。

  まずい。どんな魔法か聞いていないから、アドリブができない……



「――――――サーブァント・チェイン!」

「ぐぁっ!つっ!かっ!はっ!」



  アドリブをする必要はなかった。

  マツァーフォと呼ばれた黒ローブが振り下ろした杖から、炎が噴き出て、



  俺の左腕をのみ込んだ。



  熱い。死ぬ。というか死ね。人の腕に何しやがる。え、もしかして、本当の魔法?嘘だろ?



  炎が消え、不思議なことに火傷ひとつない俺の左腕には、サソリのようなクモのような虫のシルエットと、見たことのない文字が描かれていた。






  出兵の日、つまり赤の月の日まであと10日ほどだ。

  俺は酒臭い息を吐き続ける仲間に眉を顰めた。



「悪りぃな、にいちゃん。酒は嫌いか?」



 隣の席のおっさんが声をかけてくる。

 異世界にも関わらず、ワイシャツにネクタイと、サラリーマンのような格好だ。そういう俺も、学ラン姿なわけだが。

 初めてあった日に自己紹介されたような気がしたが、名前は忘れた。



「でもな、こうでもしてねぇと、なあ?」



  この部屋にいる者は皆、異世界人だ。俺や、このおっさんのように、地球から来た者もいるし、また、別の世界から来た者もいる。



  俺たち異世界人は、リザニマ帝国の兵器として召喚されたらしい。

  リザニマ帝国は今、隣国のルルイ魔国と戦争をしているらしい。"今"といっても、もうかれこれ500年になるそうだ。



  約800年の間、両国は均衡を保っていた。人口がいくらか多いリザニマと、軍事力がいくらか高いルルイで微妙なバランスを保っていたのだ。



  しかし、やがて均衡が崩れる。ルルイが作り出した兵器によって、人口の差が無くなったのだ。

  リザニマは今まで、多人数で攻めるという戦術を妄信していたため、人口というアドバンテージを奪われたのは、痛かった。



「だから、他所から連れてくることにしたってわけだ」

「他所……つまり異世界ってことですね?」

「ああ。ただ、それだけじゃあねぇ。ここは確かに異世界人しかいねぇが、奴隷やら亜人やらも連れてかれるって話だ」



  異世界から兵士を連れてくる事を思いついたリザニマは、召喚魔法の研究を熱心に行った。



  リザニマの召喚魔法の研究は200年にも及ぶが、未だ成功率は高くない。それでも、二国間の均衡を取り戻すことには成功した。



「すごいっすね。なんでそんなに詳しいんですか?」

「なに、あいつから聞いたんだ」



  そういっておっさんは、腹をさするようなジェスチャーをした。



「あの、太った見張りがいるだろう?あいつはな、飲ませればなんでも話してくれる」

「へえ……」



  今度飲ませてみよう。聞きたいことは沢山あるんだ。ルルイのこと、魔法のこと。こっちの暦にも興味があるし……。



  とにかく、このおっさんが出兵してしまったら、話相手がいなくなる。そんなの、寂しい。



  俺たちはほとんど使い捨ての駒だった。召喚された時に腕につけられたのは、戦闘奴隷の刻印なんだとか。一度、戦闘に参加すると、勝つか死ぬまで闘い続ける。逃げることは魔法によって禁じられている。



  そう、魔法だ。この世界には魔法があるらしい。

  俺は、剣と魔法の世界へ迷い込んだのだ。ライトノベルの世界だ。それならば俺には、チート主人公になる、権利と義務がある。



  それなのに、奴隷だなんて。それに、10日後の出兵より後の生命の保証はない。

  "主人公ではない"ということだ。

  俺は、主人公として、所謂、"勇者"として召喚されたわけではない。



  召喚されたときは、ワクワクしていた。俺が、世界を救うかもしれない、と本気で考えていた。



  この数日で、それがとんだ間違いだったと思い知った。



  俺は、大量に召喚された戦闘奴隷の1人でしかなかった。大勢の中の1人だ。

  チートな力なんてない。魔法によって強制的に死の覚悟が決まっていることが、俺たちの唯一の強みだ。



「ま、せいぜい残りの夜で城を潰すほど飲んでやるよ」



  そう言い放ち、豪快に笑うおっさんを眺めながら、俺は戦闘奴隷の刻印をなぞった。






  翌朝、俺は早速、昨晩飲み残しておいた酒を持って、見張りのところへ行ってみた。



  彼は尋常じゃないほどのメタボなので、すぐに見つけることができる。

  なんというか、そこだけ空間が歪んでいるのだ。重力が乱されている感じがするのだ。



「おい、お前、俺のことすごく失礼な捜し方しただろ?」



  巨漢が話しかけてくる。汽笛のような、腹に響いてくる声だ。



「いえいえ……酒を持ってきたんです、一杯いかがです?」

「酒ェ?何を聞きたい?だいたいな、こんなもの持って来なくてもなぁ……。

  俺がやんのはアレだ、お前、名前は?」

「……鏡です。鏡 波人。」

「おう、カガミ。お前がなるべく隊の後ろらへんに配置されるように頼んでやる、それくらいだ」



  そう言って、グイっと酒を煽る。ジョッキ1杯で持ってきた酒が一瞬で無くなる。



「だいたい、下っ端の俺がそう大したこと知ってるわけがないだろう。

  なんだよ、やれ抜け道を教えろだの、やれこの城の弱点を教えろだの……」

「あー、じゃあ、答えられる範囲でいいです」



  確かにその通りだ。彼が大した情報を持っているとは考えにくいよな……。ただの見張りだもの。



「なんだ?」

「魔法、教えてください」



  深く頭を下げて頼む。お辞儀がこの世界で通用するとは思えないけど、精一杯の誠意は見せるべきだ。



「それくらいなら構わないが……俺が使えるのは"ファイアー・ボール"くらいの初歩的なのだけだぞ?」



  教えてくれるのか。魔法を使って反乱を起こされるかもしれない、とか考えたりしないのだろうか。

  教えてくれるなら別にいいのだけど……。



「いいか?見てろよ……」



  そう言って彼は掌を広げた。



「黒の風よ、火よ、風よ、我が敵を撃つ礫となれ……ファイアー・ボール!!」



  ゴウッと音が鳴って50センチほどの火の玉が壁に向かって放たれた。



  被害は……壁が焦げた……かな?



「まあ、こんなもんだ。やってみろ」

  ええと、確か、

「黒い風よ、火よ、風よ、我が礫となれ……ファイアー・ボール!!」



  「おい、微妙に違――――――――― 」



  ゴウゥ……ッと音が鳴って、俺の魔法が、



  壁を突き破った。



「え?」

「え?」

「え?」



  やっぱ異世界召喚されたらチートになんなきゃね……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ