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С Интернационалом Воспрянет род людской!

 専門学校生の学生である青木は、真面目な青年であった。遅刻、欠席などしたことがないし、課題も忘れたことがないという、学校側から見れば模範的な青年であった。しかし、彼は社交的ではなかった。彼はいつも静かに読書をしており、それ以外の時間はただひたすらぼーっとあたりを見つめて何かを考えているような様子であった。最初こそ人に話しかけられたりしたものの、話をするということが苦手な彼は、友達をつくるということもなく、毎日を過ごしていた。彼はまるで動く死体のような生き物で、朝9時20分から始まり16時40分に終わるスケジュールを、誰とも話さずに過ごしていた。同期の者達には気味悪がられていた彼であったが、動く死体というのは学校側にとっては好都合で、彼を良い商品に仕上げようと、彼を特別視していたのであった。さて、この話はそんな学生の青木が、革命を志し破綻していく物語である。


 青木の家は祖父の代から自営業を営んでおり、最近やっと営業が軌道に乗ってきた。祖父は存命中であり、「死ぬ前にいいものが見れた」と軌道に乗ったことをうれしく思っていた。が、その利潤を求め親戚たちが集まり「生前相続として金を受け取る権利がある」といった事を言い出した。親戚は金の為に毎日青木の家に来ては、一丸となって暴言を浴びせた。青木一家と親戚との関係は破綻してしまった。青木は中学生の頃にその現場を目撃しており、昨日まで自分に優しかった親戚が目の色を変えて金を求めている様を目撃し、衝撃を受けた。彼はそこから世間の金に対する失望感や不信感を感じるようになった。また、「平等」という言葉の意味も考えるようになった。そして後に、それが社会主義という思想との出会いに繋がったのである。

 

 青木には二人の兄と一人の姉がいた。彼らはもう既に仕事をしている大人である。青木の兄弟は皆大学には行っていなかった。というのも、その頃は自営業も軌道に乗ってなく、貧しい毎日が続いていたからだ。兄弟は学生時代、自分たちの貧しい家庭と裕福な周りの家庭を比べ、自分達の置かれている不平等な現実に不満を抱いていた。そして、学生時代は皆アルバイトに明け暮れ、勉強などせずに理想だった数万円という現金を手にして、今までやったこともない「贅沢」を楽しんでいたのであった。

 

 さて、もうそろそろこの物語の主人公である青木の紹介をしよう。

 青木の外見は普通の人間であった。背丈は170cmほどで、太りすぎでも痩せすぎでもない体をしており、髪は短く、顔は縦に長くのっぺりとしており、いつも眼鏡をかけていた。彼は高校を卒業後、東京にある語学系の専門学校に入り、英語を勉強していた。授業以外はまったくと言ってもよいほど他の人と話さずにいた。そんな彼だが、彼と同じ学部の人間は、彼の唯一好きなものを知っていた。それは彼の好きな「国」である。彼は無類のロシア好きであった。彼は自己紹介などするときになるといつもロシアの事を話題にしていた。そんな事もあり、彼は裏で「ロシア」と呼ばれていた。

 彼の金銭的問題は無いに等しかった。親が全て負担してくれていたし、お小遣いも十分と言える程貰っていた。その為、バイトなどする必要はなかった。要するに、ボンボンだったのである。その裕福ぶりは、貧乏時代を経験した兄弟から見ると羨ましく、「お前はいい時代に生まれたよ」といつも言っていた。彼は実家から学校に通っていたので、基本的な家事もやらずにいた。基本的な家事は全て祖父がしてくれていたからである。ただ、家族の仲は良好とは言い難かった。両親は夜遅くに帰ってくる為あまり話さないし、祖父と話すにしても内容は昔の回顧趣味に付き合うのみだったからである。

 暇な時間は読書などをしていた彼であったが、その本もまたロシアに関係した本であった。具体的には社会主義系の本が多かった。東京に学校があるということもあり、学校帰りには古本屋に立ち寄り、好みの本を探すのが彼の楽しみの一つであった。そして、好みの本が見つかると、彼はにっこりと笑い、どんなに金を散財しようとも目当ての本を購入するのであった。


 そんな彼だが、いつからか革命という言葉に恋をするようになった。彼は夏頃からか、社会の不平等などが今の社会にあるということを感じ、それを破壊することを志し始めたのだ。とどのつまり、彼は「共産主義」という理想概念という実体のないものに恋をしてしまったのである。


 それから彼は何かに侵されたかのように毎日社会主義の文献を読み漁るようになった。夏休みに入り、自分の時間が増えた彼は、ますます読書に時間を費やすようになった。そして彼は、その壮大な思想である「共産主義」というものが、個人で実現するのは不可能と判断し、集団を求めるようになった。彼は組織を探した。今のご時世、なんとも便利な時代である。というのも、彼はネットを介してすぐに組織を見つけたのである。今でも活動している組織で、なおかつ名が知れていた組織は二つあった。「M」と「K」である。両組織は元は同じ組織であったが、思想の対立により、分裂し、戦争状態に入っていた。と言っても、戦争状態というのは過去の話で、度重なる内ゲバ事件を積み重ね、両組織はもはや昔ほどの活動力は持っていなかった。昔こそ大量の成員を持つ極めて組織力と行動力に優れた革命的組織であり、度々暴動闘争を起こしたり、警察などの公的権力を殺害したりする極めて凶暴な集団であった。もちろん、思想の対立により「アカの」他人を「粛清」することも多かった。

 青木はどちらが革命的であるかということを考え始めた。どちらも、公式のホームページはネット上に存在していたが、「K」の実践的活動(デモ行進など)の記事は10年前で更新が止まっていた。しかし、「M」は最近も活動している記事が多く、目立った活動をしているのは「M」であった。それと、思想に対する感情だが、正直どちらもあまり差異はないと感じた。そのため、「活動的」という概念から彼は組織を選択することにした。彼は一番活動的な組織、「M」という組織に接触することにし、連絡をした。


 「こんにちは。私は共産主義に興味を持っている学生です。貴組織の活動内容を拝見致しました。私は貴組織の思想に深く共感致しました。もしよろしければ、貴組織の活動についてもっと詳しく知りたいのですが、接触することはできるのでしょうか?ご検討よろしくお願いします」

 この内容のメールを「M」のホームページに記載されているアドレスに送った。送った日は一日中興奮し、ほかの事など考えられないほどであった。自分が革命的な力の一部になれるということを想像しただけで、彼の胸の内の興奮という炎は燃え上がるのだった。しかし、その日は返信は来なかった。

 次の日も来なかった。彼は落ち着きを徐々に取り戻し、その日一日を普通に過ごした。そして夜寝るとき、彼は「M」が地下組織ということもあり、「特定の人としか連絡は取り合わないのかな。勧誘を受けた人とか・・・。まあ、所詮組織なんてそんなものなのかも。」とボソッと独り言を言うと、布団にもぐり、ぐっすりと寝た。

 次の日は、メールの確認はしなかった。彼はいつも通りの日常を取り戻し、読書に耽っていた。

 

 その次の日、彼は半ば来ていないことを承知したような気分で、メールを確認した。

 メールは来ていた。送信された時刻は前日の午前9時25分だった。

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