帰還
頭の痛みが引いたのか、
「よいしょ。」
立ち上がり、
「一回、帰りましょうか。」
神父に向き、
「歩ける?」
確認した。
答えるレイモンド神父は、
「はい。もう、大丈夫です。」
壁に手を当て立ち上がった。
「このままで良いんですか?」
ペーターが言っているのは、装備の回収だった。
「どうせ、もう一度来ないとだし。回収はその時にしましょ。」
辺りを見回し、何かを探す白頭巾。
「解りました。」
ペーターも納得した。
視線が止まり、次に顔が止まった。
「あった。」
そして、歩き出す。
近付いたのは、床に転がっている銀の短剣。
その柄は、がっつりと握った手首が付いている。
拾い上げると、マーシュ神父に向かう。
傍らに立つと、右膝立ちに体制を低くした。
銀の短剣の柄に付いたままの手首を外し、マーシュ神父に背中に乗せ、
「返しとくわ。」
改めて銀の短剣の柄を握り、マーシュ神父の頭に突き立てた。
反応を見る。
「大丈夫、死んでる。」
確認した。
「こっちは…。」
磔にされしモノ【銀の牙】を向く白頭巾。
確認。
「大丈夫そうね。」
その言葉の通りに、端という端から黒い粒子になり、空気に溶けていた。
銀の短剣を腰の鞘に納め、
「とりあえず、手近な荷物だけ持って帰りましょ。」
頷く、ペーターと神父。
そして、三人は王の間を後にした。
迷宮の帰り道。
「灯りだ。」
子供達の眠る場所で、ペーターが声を上げた。
近付くと、
「こんなところに子供達が寝てる…。」
事情を知らないのだから、当然と言えば当然の疑問。
「この子供達は操られて囮にされたのよ。だから、眠らせたの。」
状態を説明し、
「私達だけじゃ運べないしね。」
「そうですね…。」
ペーターも納得した。
教会の秘密の出入り口。
白頭巾の、
「帰ったぁ…。」
疲れを、苦労を、その一言が集約していた。
「こんな所に入り口が…。」
入る時に、二人が驚いたのだから、ペーターも同様に驚く。
「ペーターさんも無事で何りよです。」
神父は、喜んでいはいたが複雑な思いなのが、声で解った二人。
「市長の所へ行って、人集めないとね。」
面倒な仕事と言った口振り。
「待ってください。」
神父が止めた。
「あら? どうして?」
不思議そうな二人の顔が、神父を向いた。
「その格好で街中を歩いたら、出会う人が驚きます。」
言われ、思い出したように下を向き、自らの姿を再確認した。
「やだ。忘れてた。こんな汚れたみっともない服なんて見せられないわね。」
ペーターも頷く。
「そ、そう…。」
言葉を飲み込み、
「羽織るものを持ってきます。」
取りに行った。




