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 ゆっくりと開く口。


「我を起こすのは誰じゃ?」

 声は白頭巾。だが、凛と響く氷の声は白頭巾では無い。


 そして、その声は王の間の支配者の交代を告げた。


 人狼が右手で指さし、

「おま…。」


「あぁぁぁぁぁ!」

 先程の凛とした声は何処へやら。素っ頓狂な声で、銀の牙の台詞を食った。


 そのまま、呆気にとられ固まる銀の牙。


 赤い徒花が咲いた胸元の布を掴み、

「これは、お気に入りの服なのに穴が空いておる…。」

 悲しそうに語尾が小さくなっていた。


(この感じは白頭巾さんだ。)

 神父は入れ替わったとしか思えなかった白頭巾に、自分が知っている白頭巾を見た。



 我に返った銀の牙、

「お前は誰だ!」

 声を荒らげたのは、恐怖を感じたからだと気付かれたく無かったからだろう。

 もしかしら、今までの言葉遣いが演技だったのかも知れない。


「うるさいのう…。お前とは我の事か?」

 相変わらず胸元の穴を気にしながら言い放つ。


「そうだ、俺様と話しているお前だ。」

 漂って来る気配に銀の牙の鳥肌が立つ。


「我か…。」

 顎に右手を当て考える。

「我の名前は多いのでな、どれが本当やら。」

 戯け、

「だが、我を知るものは【夜の支配者】と呼ぶ。」

 また、凛とした響く氷の声に戻った。


「【夜の支配者】だとぉ!」

 その言葉が銀の牙のプライドを刺激した。

「それは、俺様の事だ!」


「ほう…。」

 自らを我と呼ぶ白頭巾だったものが始めて興味を持ち銀の牙を見る。

「人狼風情が、【夜の支配者】を名乗るとはな。」

 呆れ、

「その呼び方も堕ちたものだ。」


 そして、気が付く。

「その爪…。」

 長く伸びる銀の牙の爪に視線を送り、

「付いた血の匂い…。」

 嗅ぎ、

「お前が服に穴を開け、我を起こしたようじゃの。」


 白頭巾だったものが踏み出した。それは、浮いていた宙から階段を降りるような一歩。



 小さな足音と共に人狼に歩み寄る白頭巾だったもの。



 逆立つ全身の毛。


 知らず知らず、警戒態勢から戦闘態勢への移行。

 本能が危険を告げていた。


「人狼よ。お前がやったのだな。」

 氷の声が問いただす。


「そ、そうだ! 俺様がやったんだ。」

 勝ち誇るが、上辺だけだと誰が見ても解る。


「そうか…。」

 ゆっくりと目を閉じる。


「ならば、仕置が必要だな。」

 ゆっくりと開いた目。


 その瞳に宿るのは赤。

 燃える闘争の火の赤ではなく、命の色の暗い血の赤が瞳を彩る。


 笑う口元に覗くのは、犬歯ではなく牙。

 肉食獣が捕食のために武器とする牙ではなく、【夜の支配者】の証の牙。



 無意識。


 無言の圧力で一歩下がっていた銀の牙の左足。


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