祈り
糞っ!
糞っ!
口には出さないが、その目は叫び睨む。
「ケホッ。」
締められていた喉に左手を持って行く。
「ゴホッ。」
残っていた肺の空気を入れ替えた。
しかし、油断なく右手を後ろに回し握り手を掴む。
「いつの間に…。」
銀の短剣の事を言っていた。
「あら、さっき貴方が手が届くようにしてくれたじゃない。」
まだ、締められていた後遺症なのか苦しげな声で答える。
「あれは芝居!?」
聞き取れない声を聞くために近付けた耳。
自らの行為が白頭巾の仕掛けた罠。
刺さっていた銀の短剣を取るための作戦。
「優しい私が一つ教えてあげるわ。」
また、口元が笑う。
銀の牙は、また嫌なものを見た。
「何ですかな?」
痛みを堪えながらも平静を保つ。
「さっきの爆発の音で、耳やられてるわよ。」
上げた顔は目も笑っていた。
「何を言うかと思えば聞こえてますよ。」
実際に白頭巾の声も聞こえている。
まだ、締め上げた後遺症が残っているのかとも考える。
「ペーターの足音。」
言われ、気が付く。
(確かに、聞こえなかったが、戦いに集中していたからだろう。)
「何より…。」
開けた間が、不安を煽る。
「貴方。話す声が大きくなってわよ。」
「そんな…。」
確かめように両耳に手をやるのは自然の流れ。
「ねっ。鎖の音が聞こえ難いでしょ。」
恐怖。
銀の牙の背中を冷たい汗が流れる。
白頭巾にでは無い。
彼女の戦いの素質と資質に魅了された自分に恐怖した。
焦り。
苛立ち。
思考。
脳内で感情が渦を巻き、溶け合す。
(何か。何かないか。)
「そろそろ、観念しなさい。」
回転弾倉拳銃を銀の牙に向かい構える。
(何か!)
助けを求めた眼球が周囲の情報を集める。
(何か!)
(!?)
渡りに船。
(神よ。私を見捨てなかったのですね。)
神に対し、真逆の存在である人狼が祈った。
人としての習慣は今だ残る。
瞬前。
銀の牙の目が捉えたのは、物陰から飛び出し立ち尽くすレイモンド神父。
(ちょうど良い所に…。)
悟られない用心。
(先程とは違う奴だが、この娘なら!)
確信し、伸ばした右手を左腕の鎖にかけた。
左腕に巻かれた鎖を無造作に、
「フン!」
引き千切り欠片を右手の中に隠した。
警戒。
緊張。
引き金にかかる指が発砲のギリギリまで力を込める。
「これなら!」
引き千切りる勢いを振りかぶる動きに変換。
踏み出す左足は、狙いを付ける。
振り被る。
捻る。
捻る。
捻る。
遠心力。
左足が床を踏みして起点とする。
脚を捻り、螺旋の力を伝える。
伝えられた力を、腰の螺旋で増幅し次へと渡す。
増幅し伝えられた捻りの力は胸に、そして右腕の遠心力に変換。
投げる。
右手に集められた力は解放され、隠し持った鎖の欠片を高速で投げ出させた。




