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ペーター


 銀の牙が確認した痛みの根源。



 怒りと怒りの目線がぶつかり火花を上げる。


 一方は、体の激痛で怒る目。


 もう一方は、大切なものを傷付けられた心の痛みで怒る目。



 突き立てた銀の短剣を握るのは、全身が毛に被われた人間の子供。


「折角、呪いの首輪を外して、こちら側へ戻してさしあげたのに…。」

 丁寧だが、滲み出る怒りが声を彩る。



「ご主人様を…。」

 涙を湛えた目は自らの言葉を否定した。

「お姉ちゃんを離せ!」



 苛立ち。


 怒り。


 それが、銀の牙の左の口角と目尻を上げさせた。

「どうやら、教育が必要のようですね。」


 今、入るだけの力を使い右腕で払う。

 唸りを上げる右腕は、払うではなく殺す。普通の人間なら消し飛ぶ威力。


「あ…。」

 払われ上げた悲鳴は、その音に消され、

「ぐっ…。」

 柱に叩き付けられた悲鳴は、その音に消された。


 間の反対側まで飛ばされたペーターは、柱にめり込んだ。

 そして、ゆっくりと再生させる様に、前のめりに倒れる。

 その音を響かせながら。


 その光景を目で追い続け、

「私と違い純血。あれぐらいでは死なないでしょう。」

 満足した様に目線を白頭巾へ戻した。




「ん?」

 力無くだらりと下げた腕と脚。

 虫の息とよく言うが、虫の方がもう少し元気だろう。


 そんな白頭巾の口が動いていた。

 人狼の耳を持ってしても聞こえない声を上げながら。


「何ですかな?」

 無意識。

 左腕を曲げ、白頭巾の口を耳元へ寄せる。

 結果、白頭巾から視線が外れていた。


 ゆっくりと開く口。

「可愛い。弟になんてことするのよ。」


 苛立ち。


 心を掻き乱す白頭巾の言葉。



 戻す視線。


 その瞳に映る驚愕きょうがくは、銀の牙を凍らせた。



 右逆手に握り振り下ろされる銀の短剣。

 それを握る白頭巾の目に宿る怒り。

 そして、何より口元に浮ぶ邪悪な笑み。



 刺す。


「ぐぁぁぁぁ!」

 激痛が喉を駆け上がり、口から悲鳴を吐き出させた。


 左肩に突き立てられた銀の短剣は、炎を左肩から全身に痛みとして行き渡らせた。



 逆手にした銀の短剣でくじる。


 傷口が避雷針にでもなったかのように、そこから全身を痛みが電撃となり打った。


 痺れる。


 小娘の細首など、へし折るのは簡単だと締め上げていた左腕の力が一気に抜けた。



 落ちる。


 床に足が着く。


 重力が戻る。


 支える脚。


 掛かる体重を膝で受け止め、そのまま曲げ腰を落とす。


 好転。


 後転。


 間合いを取る白頭巾。


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