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覚醒


 楽しんでいる。

 それが、今の状況だと自分でも解っていた。


 このまま、左腕の力を増せば殺せる。

 右腕の爪を立てれば、仲間に出来る。


 それが一番解っているのは本人。


 だが、次第に力が失せ、苦悶の表情を浮かべるこの少女を見ていたいと、そう思う残虐な自分が現状を維持していた。

 この少女の運命を左右できる存在として。




 想定外。


 唐突。


 突如。


 突然。


 その事を表す言葉は数ある。



 苦辛くしん


 激痛。


 倒懸とうけん


 これは、そんな言葉では表しきれない。


 左の脇腹に炎を注入され、脳へと燃え移って行く。

「ガバッ。」

 その苦悶の声と共に体内を巡る炎を吐き出すかと思えた。



 血走る目。そう言うが、走っているのは怒りの炎かもしれない。


 焼ける痛みの根元こんげんを、怒りに燃える目が睨む。




 少し前。


 跳ね転がる石。それは、柱だったものであり、今しがた白頭巾に投げ付けられたもの。

 二本の刃によって受けられ、砕けた一つが、何かの意識に操られる様に、ペーターの頭へ直撃した。



「いて!」

 頭を抑えた両手。

 痛みにより完全に覚醒した。


「もう!」

 おまけのに怒り。


「ご主人様。悪戯は止めてと…。」

 自分の間違いに気付くまで、しばしの時を要した。


「ここは…。」

 見覚えのない場所での目覚めの反応は誰もが酷似する。


「痛てて…。」

 頭に当てた右手の平を見る。

「血は出てないな…。」


「えっ!?」

 驚いたのは甲の方。


「何これ…。」

 両手を裏面と反しながら確認する。


 そして、今度は両手を頬に当てる。

「何が…。」


 両手の平に触れる感触は『毛』。それも、フサフサの『毛』。それは、手の甲よりも深い『毛』。


「な、何が…。」

 問いかけるが答えるものはいない。


 目線を下げる。


 胸元にも同じくフサフサの『毛』。


 ズボンは上から触診。


 結果は、やはりフサフサの『毛』。

 自分の中には、疑問しか無い。


 見回す。



 その光景が目を釘付けにした。


 首を締められ、吊り上げられる白頭巾の姿。

 両足は藻掻き、宙を泳ぐ。



「!?」

 衝撃的過ぎる光景。それは言葉を忘れさせた。

 その上、その光景はペーターから更に自らに起きた異変さえ忘れさせた。


「ご主人様!」

 上げた声を両手で口に戻した。



 床に転がる鈍い光がペーターに囁く。

「あれは。」

 言うよりも早く立ち駆け出していた。



 これがレイモンド神父が見た駆け出した影である。



 走りながら身を低くし、鈍く光るものを手に取る。

「待っててよ。」

 両手で持ち、突進の構え。



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