攻防 その四
爆発の直後の出来事。
大きな風が身体を揺らす。
大きな音が鼓膜を震わせる。
遠い意識が、僅かに近付き微睡みへまで戻って来た。
(また、ご主人様が悪戯してるな…。)
イラッとくる。
(まあ、仕事の間はしないのは良いんだけど。)
思い出し、
(やっぱり、抗議しよう!)
ゆっくりと、ゆっくりと意識は微睡みから現実へ戻っていく。
「収まった…。」
柱の陰から、ヒョイと顔を出した白頭巾。
見線の先には、黒焦げになった銀の牙が床に転がっている。
「神父さん。七番。」
二回目だが、慣れたくは無いものだと、頭を揺すり立ち上がり、
「はい。」
七番の道具を手に取る。
重い、それが第一印象の七番の道具。
剣の様で、剣では無い。刀身が分厚く、刃渡りも剣にしては短い。それでも、銀の短剣よりは長い。
白頭巾曰く【鉈】だと。言われれば、そうだと思える道具。
神父は軽く助走を付け、七番を床へと滑らせる。
白頭巾は、滑ってきた七番を足で踏み止めると手に取った。そして、腰帯に差し込んだ。
「さてと。」
無造作に、転がる銀の牙へと踏み出す白頭巾。
一歩。
また、一歩。
そして、一歩。
立ち止まり、
「ねえ。」
話かけた相手は…。
しばし、待つ。
「そっ。」
左手で腰のポーチから、銀粉の指弾を二つ、真ん中の三本指の谷間に挟むように取り出した。
そのまま無造作に黒焦げの銀の牙に投げ付けた。
当たる!
筈も無く、転がり二本足で立ち上がる。
顔と胸を庇ったのか、比較的損傷は少ないと見て取れた。
「死んだふりは駄目ですか。」
丁寧だが、目は怒りに燃えている。
「三流役者もいいところね。」
煽る。
「私もまだまだですな。」
認め、
「ところで、あんなものをいつの間に?」
質問した。
「私が右手で連射式銃を撃った時よ。」
素直に答えた。
銀の牙の脳裏にその場面が思い出される。
確かに、その時以外あの厄介な銃を撃つ時は小娘は、必ずと言っていいほどに左手を添えていた。
「まんまと乗せられたと言うわけですな。」
「そう言うこと。」
両手を後に回し、腰の何かを握る。
(何を持った?)
その動きに警戒を強めた。
(まだ、銃は持っている筈だが。)
しかし、迷ったのは一瞬。
立ち上がった足で床を蹴り、白頭巾へと駆ける。
迷っていても不利になると事あれど、有利になる事は無いと判断は人狼が持つ野生の感。
蹴り出す左足が、踏み込む右足を宙に浮かせる。
低い軌道。
だが、距離は間合いに入れる程に長い。
右足が床を踏むよりも早く爪を咬ませ、軌道を変える。
「小細工は無し?」
笑う口元。構えた右手に握られるのアノ銀の短剣。
そして、白頭巾の右外側へ飛んでいた。
宙で身を捻り、目標を狙える角度を調整する。
着地。
左足の爪を食い込ませ物理法則をねじ伏せ、自らが持つ方向量を打ち消し止まる。
対する右足は弧を描き、攻撃する上半身を導き狙いを付けさせる。
「しゃぁぁぁ!」
下半身と付いた捻りの角度が、上半身を振り被らせ助走とした。
右逆手に構えた銀の短剣の剣先は地を向いている。
それを呼吸と刃の向きを合わせ差し出す。
銀の牙の左の目尻が笑う。
お前のやる事などお見通しだと言わんばかりに。
右腕の上膊部、俗に言う二の腕の筋肉が盛り上がり、振られる腕の軌道を無理矢理に変える。
結果。
銀の牙の右腕は、差し出された銀の短剣の上を空振り。
更に右腕の勢いは捻りとなり、左腕に弾みを付ける。
右腕の攻撃が虚なら、これから放たれる左腕の攻撃は実。
刹那。
ためた反動から放たれる左腕の一撃は、白頭巾を襲う。
(まただ。この小娘、いつの間にか左手に武器を持っている。)
振った右腕が死角となり、一瞬見失った。
次の瞬間。
振る左腕を、死角を作る右腕が反動のために引く。
見えた。
白頭巾の左手に鉈が逆手に握られていた。
左逆手に持った鉈の刃を上に向け、地面と平行に構える。そして、鉈の背を右前腕で支える。
そして、刃先を少し下げた。
迫る銀の牙の左腕。
そこに巻かれた鎖に鉈の刃を合わせ、滑らせる。
散る火花は、鉄のぶつかり合い。
軌道を反らされた銀の牙の左腕は、白頭巾の頭をかすめ通過する。




