進歩
次に、
『ジャラン』
鎖が床に落ちた。
また、
『ジャラジャラ』
だが、今度は床を引きずる音が混じる。
磔の大岩の陰から出て来た人狼の手に握られている鎖。
その先は干乾びている銀の牙の左手へ繋がっている。それを力を入れ外した。
勢い余って、左手が非ぬ方向へ曲がっていたが、両方が本人なので気にしていないようだ。
「あら、道具を使うのね。」
銃口は、人狼へと向けたままに。
「卑怯ですかな?」
手にした鎖をもて遊びながら、白頭巾に視線を向ける。
「そうねぇ…。」
人狼の問い掛けに、真剣に考え始めた白頭巾。
連射式銃に添えた左手を離し、その人差し指を顎付け首を傾げた。
更に、ご丁寧に人狼も白頭巾の答えを待っていて動かない。
その光景を見ているレイモンド神父は困惑した。
しかし、白頭巾の答えが楽しみで仕方なかった。
「前に、借家で戦った時に道具を使ったのを、私は狡いって思ったけど…。」
思い出すように、
「人狼が道具使わないなんて、私の先入観よね。」
「ほう。」
銀の牙から思わず漏れた言葉は感心していた。
「私達が戦い方で、更に道具を日々進歩していれば、人狼側だって進歩しても不思議じゃないしね。」
間を取り、
「それに…。」
「それに?」
銀の牙が続け質問に変えた。
「それに私が強いから人狼も道具使わないと均勢が取れないって事でしょ。」
平然と言ってのけた。
その言葉で、銀の牙どころかレイモンド神父まで固まった。
「だから、遠慮なく道具使って良いわよ。」
左手を差し出す仕草は『どうぞ』と言っていた。
「確かに、お嬢さんはお強い。」
固まった状態から、ようやく動けた銀の牙。
「その上、連続で撃てる銃が強い。」
向けた視線が、銃口を合う。
「これ?」
視線を連射式銃へ向け、
「残念ながら、もう弾がほとんど残って無いのよ。」
「!?」
その言葉で危うく声が出そうになり、両手で口を押さえたレイモンド神父。
「おや?」
今度は銀の牙が首を傾げる。
「先程、聞こえた音は弾を補充した音では?」
「良く聞こえる耳ね。」
騙した事を悪びれる素振りは無い。
「人狼なもので。」
笑う口元。
「そうだったわ。」
こちらも笑う口元。
「正解したら、何かあげないとね。」
「ほう、何が貰えますかな?」
『ダダダダ!』
連射の轟音。
「これで、どう?」
言い終わるより、早く引き金を引いていた。
右手で目の前に鎖の盾を作る銀の牙。
高速で回転させる鎖が、弾丸を打ち落とす。
「それは、遠慮させていただきます。」
丁寧に断った。
「残念。」
笑う口元。
「では、代わりに…。」
狙いを付けたまま見据え、
「慣れない道具は足を引張る事があるわよ。」
「なるほど。では、精々頑張らせていただきますよ。お嬢さん。」
最後の『お嬢さん』をゆっくり強く言った。たっぷりと皮肉を込めて。
「そうしてちょうだい。人狼さん。」
同じく『人狼さん』をゆっくり強く言い、たっぷりと皮肉を込めた。
いつの間にか中断されていた戦いは、またいつの間にか再開されていた。




