動く
視線がぶつかり火花が散る刹那の間。
白頭巾が引き金に込める力は、連射式銃を鉄の塊から火を吹く凶暴な怪物に変えた。
銀の牙が脚に込める力は、重力という体を縛る鎖から宙を舞う羽根へと変えた。
その動きは同時。
レイモンド神父にはそう見えた。
だが、白頭巾の左手が連射式銃に添えられ、狙いと反動を補助する刹那遅れていた。
柱へ飛ぶ銀の牙。
銃口を追わせる白頭巾。
柱は銀の牙を受け止め、更には跳躍の軌道を変えるための支えとなった。
追い付いた銃口が連続で送られて来る弾丸を遠慮なく吐き出す。
追い続ける銃口と送り出される弾丸の不協和音が、僅かに空白地帯を作る。
身を捻り、弾丸の空白地帯へと身を潜らせる銀の牙。
「チッ!」
ペーターの意識があれば嗜められる音が口から漏れた。
傍観者だと思っていた天井が柱に続いた。
銀の牙の爪が無理矢理言うことを効かせた。そう、物理法則を曲げた。
柱から飛んだ勢いを爪を使い天井へ渡し、無理な角度へ飛ぶ力に変えた。
垂直方向。真下に向かい飛び出した、
「シャアァァァァ!」
両の爪を先端にして。
そこは白頭巾の真上。
「やるじゃない。」
引き金の力を抜き、銃口を下げ次の挙動に備える。
同時に、左の膝の力を抜き曲げると、右足で床を蹴り飛び、そして転がった。
直後、白頭巾が立っていた床を人狼の爪が穿った。
後ろに飛ばなかったのは人狼の追撃が勝と判断した故に。
転がる勢いを右膝立ちで殺し、銃口を上げ狙いを付けるが早いか引き金を引く。
身を捻り白頭巾に対して左側を向ける人狼。
射撃を受ける体の面積を最小にし、後ろに飛ぶ。
白頭巾から見れば右側。
「解ってる?」
疑問系。
両手で構えていては、追えない角度。
添えていた左手を離し、右手だけで連射式銃を支えながら弾道を追わせた。
不安定で撃ち出された弾丸の何発かは、人狼をかすめた程度。
着地の勢いが、人狼の膝にためられ、体が沈む。
その間、約一瞬。
銃口が追い付いたのは、次の跳躍が終わった後だった。
立体的な軌跡を描く人狼は白頭巾の狙いを絞らせない。
そして、柱の中程に爪痕を残し、再度跳躍。
追う銃口。
込める力が抜かれた引き金。
「今度は、かくれんぼ?」
そう、跳躍した人狼は磔の大岩の陰に身を潜らせた。
返事の代わりに聞こえてきた、
『ジャラジャラ』
金属を擦り合わせる音。
それに合わせ、磔にされて干乾びている銀の牙の両手を縛っていた鎖が動いていた。
鎖は両手に巻かれ体を大岩に縛り付けるように、こちらからは見えない後ろへと引っ張り回っていた。
白頭巾は、連射式銃の弾倉に手をやると、引き抜き残りを確認し、
「後、少しあるけど…。」
ポケットへと、押し込んだ。
そして、新品の弾倉を装填した。




