開幕
隠れた時の倍はあろうかという大きさでマーシュ神父だったものが出て来る。
紛う事なきその姿は、あの夜に見た【銀の牙】。
「ねえ。」
【銀の牙】に白頭巾が問う。
「何でしょう?」
今だマーシュ神父の口調。
「ペーターは無事よね。」
一瞬、向けた視線の先に仰向けで横たわるペーターの姿。
「勿論ですとも、アレには苦労しましたが。」
姿と言葉遣いが合致していない。
「そうっ。じゃあ、苦しまないように殺してあげるわ。」
口元に邪悪な笑みが浮ぶ。
「いえいえ、お仲間にして差し上げますよ。」
目に邪悪な笑みが浮ぶ。
「でも、アレを外した分は痛いわよ。」
右肩に下げた連射式銃を握る手に力が入る。
「仲間の分は、痛いですがね。」
伸びる爪は手に力が入った証。
荒事には無縁の職業である神父になってから早幾年。
そんなレイモンド神父にも解る。先程までとは、明らかに質が変わったと。
張り詰めていた空気に、二人…。一人と一匹が放つ熱の粒子が撒かれていると。
レイモンド神父は渇いた喉を潤すように飲み込んむ固唾。更に首元に汗を感じ拭うが、気のせいだった事に驚きも無かった。
確かに、この部屋に満ちる空気の質は熱い。
そして、もう戦いは始まっていると。




