準備
「さてと、今回は大盤振る舞いよ。」
連射式銃を取り出し、弾倉をはめた。それから予備の弾倉を二つポケットに押し込む。
「後は手筈通りに、番号を付けた物を投げて。」
頷く神父。
「重いやつは、転がしてくれればいいわ。判断は任せるから。」
荷物に視線を落とし確認した。
視線に掛かったものを手に取る神父。
「これはどうしますか?」
視線を向けた白頭巾。
「これか…。重いし、最後ね。」
考え、杭打機を戻した。
「とりあえずは、柱の陰でお店を広げててよ。」
「解りました。」
その例えが、的確で的を射ていると思えると、自然と緊張で強張っていた顔が綻んでいた。
「よろしいですかな?」
マーシュ神父から声が掛かった。
「何かしら?」
見据え、返答した。
「こちらも準備しても、よろしいですかな?」
「あら、人狼にも準備ってあるの?」
驚きよりも、興味が勝っていた。
「正直申しまして、貴女方がこんなに早く此処に来るとは思っておりませんでした。」
ニコリとしたが、目は笑っていない。むしろ、獲物を観察する捕食者そのもの。
「それで準備していなかったのですよ。」
「何をかしら?」
益々、興味を引かれていた。
「着替えの服ですよ。」
意外な答えに、驚くレイモンド神父。
「服かぁ…。確かに…。」
更に、受け入れた白頭巾に呆れたレイモンド神父。
「諦めていたのですが、準備の時間を取るのでしたら、こちらもと思いまして。」
「良いわよ。服は大切だからね。」
許可した白頭巾に驚きの視線を送っていたレイモンド神父。
「では、お言葉に甘えて。」
マーシュ神父は、白頭巾側から陰になる磔の大岩へ身を入れた。
「若者は、人狼になる時に服を破る事を受け入れるどころか、格好いいと思っているのでしょうかね。」
揺らぐ影。それは、柱の松明の灯りが作るマーシュ神父の影法師。
「人狼だからといって、服を粗末にしていいという事はありませんからね。」
愚痴。人狼と言えども、元は人間。考え方は、それぞれ違って当然。
マーシュ神父の影法師は、服を脱ぐと丁寧に畳んでいた。
その仕草に、この街に来てからの事を思い出すレイモンド神父。
「神父さん。お店をお願いね。」
それは、白頭巾の準備が整ったとの合図。
「解りました。」
荷物を抱えたレイモンド神父は、柱の陰に身を潜ませる。
「並べよう。」
合図を自分で出し、番号を振った道具を床へと並べ始めた。それは、白頭巾の言った『お店』。
白頭巾専用の怪物退治専門の狩る者の店。
マーシュ神父の影法師が揺らぐ。
松明の揺らぎではなく、マーシュ神父本人の揺らぎが影法師に投影されていた。
影法師は、人から人ならざる姿…。
人狼へ変わる。




