問答
警戒しながらも、マーシュ神父に近付く二人。
その距離は、お互いの表情が読み取れる間合い。
「マーシュ神父様。何故、こんな事を。」
レイモンド神父が、感情に任せ問い詰める。
どこ吹く風ぞと言わんばかりの優しい笑顔で囁くように、
「そうですね。自分の死期を感じたからですかね。」
「そんな理由で…。」
自分と同じものを信じる立場として、それは受け入れられるものではなかった。
「今までの人生を振り返ったのですよ。」
目を瞑り、その時の思いを再生していた。
「私の神に仕えてきた人生をね。」
間を置き、
「そして、思いました。」
両腕を交差させる姿は、自分を抱き締める。
「これだけ真摯に仕えてきた神は、私に何をしてくれたのか!」
荒らげた声と共に、抱き締めた両腕を解き、翼を広げるが如く開く。
「とね…。」
俯き加減になり、両腕を降ろす。
「だったら…。」
天を仰ぎ、
「私が神になれば良い。」
最高潮を迎える。
「おや?」
気が付いた、俯き肩を震わせていることに、
「白頭巾さん何か?」
上げた白頭巾の顔は、笑顔ではなく笑っていた。
この場合の笑うとは、言動等に対して行われていた。
「マーシュ神父さん。それは神ではなくて、怪物よ。」
「ええ、よく言われますよ。」
肯定し、
「でも、人は自らに都合の良いものを神と呼び、悪いものは悪魔や怪物と呼ぶのでは?」
問いかけた。
「確かにそうね。」
こちらも肯定した。
慌て一歩踏み出し、
「認めないでくださいよ。」
耳元へ小声で抗議した。
「冗談よ。」
首を軽くレイモンド神父に向け、口では否定していた。
「ねえ。」
マーシュ神父に頭を向け直す。
「なんでしょう?」
優しい笑顔は崩していないが、眉に皺が寄るのは警戒から。
「聞いてあげるわよ。」
質問ではなく、申し出。
「はっ!?」
マーシュ神父は、素っ頓狂な声を上げた。
直ぐに、
「これは失礼。どういう事でしょう?」
聞き返した。
「だから、私がマーシュ神父。貴方のやった事を聞いてあげるって言ってるの。」
苛立ちのような感情が声に乗っていた。
「はぁ…。」
やはり、言っている意味が解らないといった声。
「話って言うのはね。内容を理解できる相手としないと面白くならないのよ。」
考えさせる間をとり、
「いくら、同族と言えどもね。」
マーシュ神父の目に理解の光が灯る。
「そう、貴方のやった事を理解できる数少ない人間の内の一人…、私が聞いてあげるって言ってるのよ。」
呆れたのはレイモンド神父。
確かに、マーシュ神父が何故こんな事をしたのか気にはなるが、しかし話せとは驚きを超え、呆れたのだ。
「ハッハハハハ!」
マーシュ神父が両手を自らの腹に当て、前屈みになる程の大声で笑った。
その姿に、驚くレイモンド神父。
この街に来て、早く三ヶ月。穏やかなマーシュ神父が、そんな笑い方をするとは想像もできなかったようだ。
一頻り笑うと、
「これは、これは大変失礼。あまりにも可笑しかったので、つい…。」
ひと呼吸置き、
「私の心に蟠る何か…。モヤモヤしていた何か。」
白頭巾を見詰めるマーシュ神父。
「その正体を知っていたとは…。強いだけでなく賢い。いやはや、尊敬に値しますな。このお嬢さんは。」
「とりあえず、褒められておくわ。」
期待通りの返答らしい。




