待つ
暫く、分岐路に振り回された。
「あれ?」
分岐の先を見て、唐突に白頭巾が声を上げた。
「灯りだ。」
松明の炎が揺らいでいた。
釣られ、神父も灯りに視線を向けた。
「本当ですね。」
床の符丁を確認し、
「あっちね…。」
松明で揺らぐ灯りを指した。
「罠ですかね?」
自然と口に出た神父。
「多分、そうね。赤ら様だもん。」
そちらに歩き出し、
「特に気を付けてね。」
「はい。」
答える神父は左手に力を込め松明を握り直した。
止まったのは、壁の松明と闇が混じり合っていた境界。
今は、二人の持つ松明が消している場所。
振り向かず正面を見据えたまま、
「何か居る。」
警告を発した白頭巾。
その言葉に正面の暗闇に目を凝らす神父。
白頭巾の言った何かを察知出来た神父。しかし、凝らした目では無く、耳に聞こえた音。
「足音ですかね…。」
音に対する自分なりの答えを口に出した。
「そうみたいね。それも一つじゃないわ。」
腰に手を回し、短剣の柄に手を掛け、警戒度を上げる。
壁の松明を挟んだ通路の反対側の灯りと闇が混じる境界。
そこに灯りが闇に色を付け人の形にする。
「子供?」
神父は我が目を疑った。こんな所に居る筈もないものに。
闇から現れた子供は、一人、二人…、数を増やす。
「どこかで…。」
白頭巾が記憶を探る。
「あの子達は…。」
神父は、子供達が誰なのか解っているようだが、言い難そうにしていた。
「教会に読み書きを教えてもらいに来ている子供達よね。」
白頭巾が確かめた。
「はい…。」
神父のその言葉は、否定していた疑いが、確信に変わった瞬間を意味した。
「あの朝、街で見た顔だわ。」
こちらが、認識出来るのなら逆もしかり、
「白頭巾のお姉ちゃんだ。」
「レイモンド神父さんも居るよ。」
口々にしながら笑い声を上げる子供達が、二人との距離を詰める。
「この子達も…。」
最後までは言わなかった。否、言えなかった神父。
「どうだろう?」
そう答えたのは白頭巾の優しさか?
だが、白頭巾の抜き放った銀の短剣の意味が神父には解った。
子供らしい笑顔に、灯る赤い目。その赤は人狼と同じ色。
構える白頭巾。
その背後で、これから起きるであろう事に身構える神父。




