迷宮
開かれた扉の向う側。
「こんなもの…。」
呆れた白頭巾。
「えぇ…。」
同意するのが精一杯の神父。
白頭巾達の前に伸びるのは、石造りの少し広い通路。
これを造るのにどれ程の労力を必要とするのかと。
松明で壁、床を照らし、
「かなり、古そうだから…。これを知ってて教会を建てたみたいね。」
「はぁ…。」
もう、同意なのかさえ怪しい。
「注意して進みましょう。」
歩き出す白頭巾に神父が続く。
「あれ?」
通路が少し先で三方向に分岐している。つまり、十字路。
「どっちかな?」
白頭巾は松明で床を照らす。
「あった。」
そこには、見慣れた符丁。
「こっちか…。」
右側に進む白頭巾を追う神父。
繰り返される分岐。十字路、丁字路。
それは、まるで…
「なんだか、迷路みたいですね。」
神父の口が、ボソリと吐き出す、本人の考えを意志とは無関係に。
「そうね…。」
意味有り気な、白頭巾の同意。
「迷路と言うよりは、迷宮かもね。」
「あぁ。言われれば。」
納得し、改めて通路を見回す。
「ねえ、神父さん。」
「何んでしょうか?」
何かを感じたように少し身構えていた神父。
「神話の時代。まだ人と神様が一緒に住んでた時代のお話なんだけど…。」
「はぃ。」
意図せず、返事の語尾が小声になっていた。
「ある島の地下に迷宮を造って、怪物を閉じ込めたそうよ。」
「そ、それって!」
白頭巾が、ここを迷宮と言った意味が判った。
『ゴクッ!』
固唾を飲む音が迷宮中に響いたと思える程に大きく感じた。
「そうかもね。」
白頭巾の悪戯子の様な笑顔が松明の炎で揺らぎ、別のものに見えた。
目を擦り、見えたものを訂正した神父。




