静寂
放心。
心ここにあらず。
白頭巾の次は神父だった。
白頭巾の言葉を聞き、今だ信じられない自分。
「…。」
「ん…。」
「さん…。」
「父さん…。」
「神父さん…。」
次第に近くなる呼ぶ声。
「は、はい。」
「大丈夫?」
白頭巾が覗き込んでいた。
「すみません。」
右手で後頭部を押しながら謝る。
「また、荷物運びと弾の込め直しをお願いしたいんだけど…。良いかしら?」
「任せてください。」
覚悟を決めるように、大きく頷く。
「助かるわ。」
「でね。これを。」
荷物から小袋を取出し、中の一つを摘み出し見せた。
「これは?」
それは大粒の葡萄の粒程の大きさのもの。
「中に銀粉が入ってるから、いざとなったら投げて。」
あの時、指弾で打ち出したもの。
「解りました。」
取り出した一つを小袋に戻し、そのまま神父に渡した。
「あっ。」
思い出したように、
「投げる時は、足元を狙って地面に投げてね。」
「は、はぃ。」
驚きの言葉。
神父は相手に向かって投げるものとばかり思っていた。
「動く相手に当てるのは難しいのよ。」
女人狼との攻防は当てる為の駆け引きだった。見ていれば直ぐに理解できたであろう。
「本当は隠れる、近付かない、逃げるが良いんだけど…。たぶん、そうも言ってられない状態だと思うのよ。」
「解りました。」
覚悟を決め、小袋を上着のポケットに入れた。
「後ね…。」
少し恥しそうに見えた神父。
「はい。」
「ご飯お願い。」
落差。
戦いの雰囲気漂う室内の空気が一気に和んだ。
「戦い後はお腹空くのよ。」
恥しそうに見えた正体はこれのようだと。
「お婆さんからも食事は必ず取りなさいって言われてるし。」
お腹を擦る。
「私しっかりご飯食べないと、頭がふらっとするの。」
我々の言う[脳貧血]である。よく[貧血]と言われるものであるが、正確には[脳貧血]と[貧血]は違うらしい。
「解りました。」
返事をしつつ、
(これからボス人狼との戦に挑もうというのに、お腹が空いたなんて…。この娘には、戦いはやはり日常なのかもしれない。)
改めて思う神父。
「お願いね。私は道具を用意するわ。」
そう言うと机の上に荷物を広げ始めた。
静寂に音を付けるのは、料理と準備。
無言で、それぞれの作業を行う。
しばらく後。
今度は、静寂に匂いが付いた。
料理が発する美味しい魔力に魅せられ起きた事件。
『ぐーっ。』
魔法にかかったのは腹の虫。本人の意志とは無関係に鳴いた。
静寂を満たしたのは、気まずい空気。
堪らず神父が、
「も、もう…。」
いたたまれなく白頭巾が、
「あの!」
同調するのは、神世の時代からの習わし。
「出来ました!」
最後の味見。それが空気を変える魔法の一言となる。
「いただきます。」
直ぐに食べ始める白頭巾に対し、御祈りを済ませてから食べる神父。
ここ数日変わらない光景。
不意に神父に浮かんだ言葉『最後の晩餐』。
その考えを吹き飛ばすように頭を振り、食事を口に運んだ。
こんな状況で喉を通らないと思っていたが、あっさりと胃袋へ入って行った。
「神父さん。」
白頭巾が神父へ笑顔と共に、
「どんな時でも食べる。食事は血となり肉となる。それは人が生きる源、そして力の源。食べて元気を出すのよ。」
「はい。」
続く、二人の食事。
「ごちそうさま。」
白頭巾が食事終え、
「ごちそうさまでした。」
少し遅れる神父も、最近の日常。




