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したり顔


『コン。』

 今度の音を合図にしたのは女人狼。


 一瞬、右に飛び小石を交わす。

 そのまま低い姿勢で、白頭巾に迫る。


 右足を二つ分外へ、左足を後に引き、左斜の構えから右斜の構えに移行。

 突っ込んで来る女人狼の攻撃をかわし、ギリギリで左側に回り込む。


「やっ!」

 無防備な背中に、左手を添えた短剣を振り下ろす。


「きゃ!?」

 短剣を突き刺す瞬間に、右肩を柔らかくて硬いもので殴打された。


 そのまま体制が崩れよろける。


 直後、目の前を通り過ぎたのは尻尾。柔らかくて硬いものの正体。


 間合いが開く、一人と一匹。



 『したり顔』それが女人狼の表情に付けられた名前。


 優越感が隙きを生む。


  よろけた姿勢から、裾を翻し放たれる鋭い光。


 それが来るのが判っていたかのように、左前足を軸に両の後ろ脚を跳ね上げ、頭の方向を変える。


 眼の前の地面にナイフが刺さった。

 

 結果、頭は白頭巾に向き直った。


 隙きは生まれたのでは無く、自らが作った隙き。

 女人狼は、白頭巾の出方を探っていた。


 刺さったナイフを嗅ぐ女人狼。

(このナイフからは、あの嫌な臭いがしない…。)

 口元が緩む。

(やはり、もう銀の武器はあの短剣だけか!)


「痛ったた。」

 左手で、殴打された右の二の腕辺りを擦る。

「もう。服が破れたらどうするのよ!」


(ふん。それは焦りを隠すための芝居だろう。)

 白頭巾に恐怖していた自分が嘘のように冷静になっていると女人狼の心は微笑った。


 そして、

(次は、その喉元を噛み切ってやる!)

 その思いは、

「グルルル。」

 唸りを上げた。


 斜に構え、

『コン』

 合図。


 小石を蹴る動作を続ける白頭巾。


 女人狼は左へ軽く跳ね、万が一のために小石をかわす。


 着地から、四肢の爪が地面を深く掴み前に推し出す力に変換する。

 速く、力強い方向量は白頭巾へ伸びる。


 必殺の間合い。


 掴む地面に更に力が入る。


 狙いを定め見上げた喉元。


 目に入る。


 その上に、残忍に笑う口元が浮かんでいるのが。


 先程の白頭巾と何かが違うと気が付く。

(罠か!)

 焦るが、己で作り出した速く力強い方向量ベクトルは、自分の意志ではどうにもならない。


 女人狼が感じた白頭巾の違和感。


 それは、短剣を持つ腕を前に出した右斜に構え。



『ギュィ』

 右斜の構えに隠した左手の親指と人差し指の腹に挟まれたモノが圧力で撃ち出される。

 俗に言う[指弾]と呼ばれるものである。


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