罠
拳銃を構え、狙いを付けたのは地面に転がる女人狼。
「じゃあねぇ。」
軽い口調と同じ、軽い引き金。
もう少し、ほんの少しで銀の弾丸が発射される、そんな瞬間!
「ガッ!」
飛び掛かる子人狼。
「フッ。」
白頭巾の口角が上がる。
同時に、振り上げられる右手。
子人狼は宙で見た。
白頭巾の右手から伸びる美しい輝きを。
それは、地面から畝りながら次々と空中に舞い上がる。
「それっ!」
白頭巾が差し出した右手で円を描く様に、クルクルと回転させた。
それは、まるで自分の正面に描く魔法陣。
そして、回転は光の渦を作り、子人狼を絡め取る。
「そうだよねぇ〜。今の隙きを見逃すわけ無いよねぇ。」
ヒョイと避けると、白頭巾の居た場所へ子人狼が落ち藻掻く。
「あんまり、暴れると痛いよ。」
心配では無く、笑っている。
「それから、それ切らないでよ。高いんだから。」
今度は心配した。
しかし、痛いと言ったのは本当のようで、子人狼の呻きに合わせ、全身から煙が上がっている。
女人狼も今何が起きたか判らず、その場から逃げる事を忘れさせていた。
時間を戻そう。
壱の行動。
短剣の柄を握る右手と何かを操作した左手。
それは、白頭巾の腰に付けられた巻取り機の解放の操作。
ゆっくりと地面に垂らされる細い銀の輝きを持つ黒い糸。
神父が見たのはこれである。
それは、白頭巾が動く度に地面に敷かれていった。
弐の行動。
左斜に構え、左手の回転弾倉式拳銃を顔の高さに上げた時。
この時、左手の拳銃に注意を引き、右手は後に隠し短剣を鞘に戻した。そして、糸に握り変えた。
現代のマジシャンが使う『ミスディレクション』と呼ばるテクニックである。
巧妙に用意されていた罠。これが今起きた事の正体。
「さてと。」
右手を後に回し、腰に付けていいた巻取り機を外した。
『ガチャン。』
落ちた音が月夜に響いた。
「!!」
その音は女人狼の耳にも響き、我を取り戻させた。
白頭巾を見据えたまま起き上がり、後へ跳び間合いを取る。




