肉薄
数瞬遅れで、戦いの場へたどり着いた女人狼。
狙うは四足の踏み切りからの一撃。
見えた白頭巾の隙き。
膝と肘を曲げ溜める。
大地を蹴れと脳からの指令が出る。
それを止めるのも、脳からの指令。
白頭巾が、子人狼の陰に隠れた。
踏み止まり、左に回り込む女人狼。
そして、気が付く…。
(こいつは、必ず仲間を私との間に挟んで戦っている!)
と。
子人狼と戦う白頭巾は肉迫の距離。
白頭巾の短剣の一振りが、子人狼の毛を数本宙に舞わせる。
子人狼の爪の一振りが、白頭巾の胸元をかすめる。
「あーっ! この服、お気に入りなんだから、傷つけないでよね!」
また、本気なのか? 冗談なのか? 解らないが、笑い顔に張り付いた怒りは消えていない。
子人狼を盾に戦う白頭巾を狙う女人狼は右へ、左へと回り込みながら隙きを伺う。
しかし、白頭巾は常に子人狼の陰に居る。
何度か繰り返すうちに、何かに気付き、心の中でほくそ笑む女人狼。
左に回り込む女人狼。
(私が、左に回れば…。)
白頭巾は、子人狼の陰に入る。
(そうそう、必ず仲間の陰に隠れる。)
口元が釣り上がる狼の笑い顔。
(所詮、人間。我々を舐め過ぎたな。)
ためも無く、音も無く、女人狼は宙に舞い、白頭巾の頭上にいた。
見た。
白頭巾の左手に握られている、鈍く光る筒が自分に向けらしているのを。
嫌な予感。
危険。
恐怖。
表す言葉は色々とあるがそれを感じとり、咄嗟に顔を両手で防御したのは野生の勘。
『パン!』
『パン!』
乾いた音が二回。
白頭巾は見もしないで引き金を引いていた。そこに的があるのが解っていたかのように。
音と共に銃口から噴き出す火に驚き、後に飛び退く子人狼。
白頭巾も後に跳び退く。
直後。
白頭巾が明け渡した地面に、
『ドサッ』
女人狼が墜ちた。
右腕と左肩の銃創から煙を上げながら。
「あんた達が死んでる間に、こんなのが発明されたのよ。」
そう言うと左斜に構え、左手の回転弾倉式拳銃を顔の高さに上げ見せ付けた。
「グルルル…。」
痛みに耐えながら、顔を上げ睨む女人狼。




