人質
ランタンの灯りを頼りに、夜道を指定の場所へに向かう二人。
とはいえ、今宵の月は二人の行き先を明るく浮かび上がられていた。
見上げた白頭巾。
「良い月ね。」
その言葉からは、これから起きる事は全く感じられなかった。
城の前の森は、元々は手入れされていたであろう動線に木々の枝が張り出して行く者を邪魔する。
森を抜けた先に見えたのは『忘れられし古城跡』。
そこは、城とは名ばかりで砦と言った大きさ。
更に、使われなくなって久しいのか全く原型を留めていない程に、崩れていた。
古城。
古城の前に立つ二人の影。向かって右手側は子供、反対の左手側は成人男性にしては少し小さい。
足元に転がされているのはペーターだろう。芋虫の様に縛られている。
二組は距離を取り、対峙する。
「よく来た。」
女性の声。左手側は女性だと認識する白頭巾。
「あんた達が呼んだんじゃない。」
ため息まじりで返す。
「ペーター! 生きてる?」
呼び出した相手を無視するかのように呼びかけた。
「生きてますよ! 助けに来てくれたんだ!」
喜びの声。
「あんたが死んだら、私の世話は誰がするのよ。」
「僕が死んだら…。」
その言葉で、小さく唸り言葉を考えるペーター。
そして、
「ご主人様の我儘を聞くそんな殊勝な人はいませんよ!」
本気なのか、自棄なのか、声を張り上げたペーター。
「でしょ。」
肩を竦め、両掌を上に向ける仕草。
「仕方無いから、助けに来たのよ。」
こちらも本気なのか、冗談なのか…。
「だったと早く助けてくださいよ!」
「そうねぇ。早くしないと…。」
ためを作る。
そのためにペーターは、思い当たるものを脳内で探したが、思い付かなかった。
「晩御飯が、朝御飯になっちゃうじゃない。」
流れる沈黙。
「そうだ。早くしないと朝御飯になっちゃう。」
ペーターも同意する。




