贈り物
その言葉で、室内を満たす空気の質が変わった。
気配を読む、空気を感じる、そんな事に明るくない神父にもハッキリと判る程に変わった。
満たされた空気で気温が一気に上昇し熱いと感じられる。
神父は、襟元へ指を入れ引っ張っていた。それは、無意識にやる暑い時の仕草。
熱源の元の白頭巾から黒い炎が立ち昇るのが見える。見えないはずのものが、神父にはハッキリと見えていた。
恐る恐る声をかける神父。
「何かあったのですか…。」
無言で差し出された、見覚えのある靴。そう、神父が持ち込んだ靴と左右が対象である事を除けばほぼ同じ靴。
そして、その靴を包んでいた白い布。
何かに気が付き、
「失礼。」
布を手に取り広げる。
そこには、赤茶色のもので書かれた文字。そして、布から漂う鉄の臭い。
目で読む神父も驚く、
「こ、これは!?」
書かれていたのは…。
靴の持ち主は預った。
こいつの命が惜しければ、今夜月が頂きにかかる時、『忘れられし古城跡』に来い。
「神父さん。」
低く響いて来るのは、到底目の前の少女が発するとは思えない、この世なさらざる声。
「お願い、いいかしら。」
「は、はぃ。」
渇いた喉で絞り出した声。
その時に見た白頭巾の笑顔は、語られる悪魔でさえ、こんな恐ろしい顔はしないだろうと、思える程の怒りが張り付いていた。
「『忘れられし古城跡』への道案内をお願いしたいの。」
震える声は、怒りからであろう。
「大丈夫です。確か『忘れられし古城跡』は街の南西にあります。」
「それから、用意するから荷物をお願い。」
「はい。」
「後…。」
バスケットから回転弾倉式拳銃を取り出し、
「弾込めをして欲しいの。」
「やった事がありませんが、教えて頂ければ。」
「本当は、こんな事を神父さんにお願しては駄目だと思いますが…。」
「いえ、神父としてではなく。ペーターさんの友として手伝います。」
白頭巾の脳裏に、ペーターと神父の二人が楽しそうに料理している姿が浮かんだ。
「ペーターも喜びます。」
「任せてください。」
「それと…。」
少し間を開け、
「私が、冷静にならないとね。」
張り付いていた怒りが剥がれ、いつもの笑顔が戻りつつあった。
「こっちへ。」
白頭巾は神父に弾込めのやり方を教えた。
そして、
「何度も練習してください。」
と言い、必要な荷物の準備を始めた。




