霧中
神父の言葉を確認すると、受けたナイフで爪をいなし距離を取る。
「これで存分に戦える。」
チラリとナイフを見て、
「けど、普通の武器では歩が悪いか…。」
独り言だが愚痴るようにも聞こえる。
この状況なら互いに様子を見るのだろうが、死体は遠慮なく白い頭巾の少女へ襲い掛かる。
「少しは遠慮して欲しいな、こっちは幼気ない女の子だぞ。」
そう言う、口元は当然笑っていた。
木を背に立つ白い頭巾の少女。
振り上げた右腕を遠慮なく振り下ろす死体。
かわした白い頭巾の少女の代わりに太い木が斬り裂かれ倒れる。
破壊と転倒が連続で音を上げた。
死体に何故それ程の力と速度があるのか、見ている神父には全く想像がつかない。
死体の攻撃をかい潜り、的確にナイフで反撃する白い頭巾の少女。
白い頭巾の少女と死体の攻防戦が繰り返される。
だが、よく見ると攻撃を当てているのは、白い頭巾の少女だけと判る。
現実離れした、現実に呆然と見入いる神父。
(私は何を見ているんだろう…。これは、悪い夢か?)
「ご主人様〜。何処ですかぁ?」
今の現状に似つかわしく無い、間延びした男の声。よく聞くと男ではなく、男の子の声だと判ったはずだ。
「こっちよ!」
白い頭巾の少女は大声で自分の居場所を知らせる。
「こっちだと言われましても、こうも霧が濃くては…。」
声は近付いて来ているようだが、まだ居場所は判っていないのは明らかだ。
「音のする方へ来て!」
苛立ちが声からも判った。
また、太い木が身代わりになり倒れた。
「はい、はい。判りました。」
そんな言われ方に慣れているのか、焦りもしないで返す。
突如、神父の横の霧が人の形をとった。
「ありゃ。ご主人様。もう始めちゃてますか。」
その声は驚いているのか、呆れているのか判らなかった。
「あなたが、遅いから。」
こちらも怒っているのか、呆れているのか判らない。
「そんな事言われても、こっちは大荷物持ってるんだし…。」
その言葉の通りに、男の子は背中に大きな荷物を背負い、手にも大きなバスケットを持っていた。
神父は、
(この人達は、この状況で…、まるで日常会話しているのか?)
現実離れした状況を日常としている二人に恐怖すら覚えた。
「その事については、後で話しましょうか。」
「できれば、僕のお小遣いの事も。もう少し増やしてもらえると…。」
「あら、お小遣いを増やして貰える働きができる様になったのかしら?」
「ほら、今だって。」
男の子はバスケットを下ろすと中を探り、
「こんな風に役だってますよ。」
取り出した物を白い頭巾の少女に投げた。
神父は自然と投げられた物を視線で追っていた。
(な、なんだ。アレは!?)
「そうねえ。遅れた分と相殺かな?」
振り向きもせず、後ろ手に投げられた物を左手で掴む。それは、刃渡りが30cm有ろうかという鞘が付いたままの短剣。
「えー。」
それは、男の子の抗議らしい。




