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「大人しく捕まってよ。」

 その申し出は、最後通告と同等にしか感じられなかった。


「グルルル。」

 激痛に耐え威嚇。


「お願いだから。ねっ。」

 言いながら上半身を起こす。


 白頭巾の狙いが甘くなった一瞬を捉えた人狼。

「ガルル!」

 痛む左足で机を蹴り飛ばした。


 それは上に乗っていたものを撒き散らしながら白頭巾へと迫る。


「ちぃ!」

 舌打ち。

『パン!』

 向かってくる机越しに人狼を撃ちつつ、上半身を再び床に戻し側のベッドの下へ転がり込む。


 派手な音は、机の断末魔。



 ベッドの下から机だったものを蹴り飛ばし出口を作る。

 入った時と同じく転がり出て来た。


 拳銃を構え狙いを付けたのは、人狼が居た場所。

 そう、居た場所。過去形になっていた。

「逃げた。」


 起き上がり、扉から外へ。素早い動きは、まさに飛び出す。



 月明かりに照らされる四脚で駆ける獣の姿は、負わされた傷の痛みで歪められていた。


「待て!」

 その言葉に振り返るが、速度を緩める事なく街の方へ。


 遅れ駆け出す白頭巾。

「この距離じゃ届かないか。」

 構えようと上げた拳銃を下ろした。



 街の中まで逃げ込んだ人狼。

「あっ!」

 屋根に飛び上がる。


「屋根か…。」

 流石の白頭巾も屋根には飛び上がれない。



 屋根から屋根へと飛ぶ人狼を、路地を走り追い掛けるうちに見失った。



「残念。」

 諦めるきっかけの言葉で家に向かった。




「ただいま。」

 扉を開くとペーターが、

「捕まえられた?」

「屋根に上がられたら追い掛けるのは無理ね。」

「確かに。」

「折角、殺さないようにしたのに。」

「それで逃げられたと。」

「あーあ。」

 伸び。

「今夜はもう来ないだろうから、寝ましょ。」

 家内を見回し、

「明日は大変だしね。」


 ペーターは黙ったまま、闘いで散らかったベッドの上を片付ける。



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