話す
一頻り笑うと、
「オヤジ。酒だ!」
大男が注文する。
出された酒を、グイッと一口煽り、
「お嬢さん。ここに何しに来た?」
「お話が聞きたくて。」
「それなら、何でそう言わねぇ?」
少し呆れ顔になり、
「だって、言う前に仕掛けてきたじゃない。」
また、一口。
「違いねぇ。」
大笑いした。
一気に酒を飲み干し、
「何が聞きたい?」
「ちょっと、待ってね。」
そのまま扉へ行き開き、
「入って良いわよ。」
外から呼び入れる。
その間に大男は、また酒を注文した。
入ってくるなり、
「やっぱり。大きな音が聞こえたから、もしやと思ったけど…。」
店に起きた惨状を確認したようだ。
「私じゃないわよ。ペーター。」
「原因はご主人様でしょ。」
「その辺りはノーコメントで。」
笑う。
続き入って来て、
「いったい何が…。」
神父には酒場の荒事は理解できないようだ。
そんな神父に、
「酒場のレクリエーションさ。神父さん。」
大男が笑い、他の男達も続いた。
笑いが収まると、
「どんな、話が聞きたい?」
ペーターが持っていたバスケットからアノ本とペンを取り出し、
「私が聞きたいのは、森の事。」
「森って俺達が木を伐ってる森か?」
「そう。その森。」
意外だったのか男達は顔を見合わせる。
「森か…。で、何が聞きたいんだ?」
「森に禁断…。」
言いかけ、少し考え、
「入るなって言われたとか、近付くなって言われてるとかの場所は無い?」
大男を始めとする木こり達全員が考え、
「あったか?」
「あるか?」
互いに聞く。
大男が、
「お嬢さん。見ての通りだ。」
誰も思い当たる表情ではなかった。
「俺達は森で木を伐る…。」
ひと呼吸。
「でだ、伐った木を街へ運ぶ。」
今度は一口煽り。
「つまりだ。木を街へ運べねえ場所には行かないって事だ。」
周りの男達も、うんうんと頷く。
「そっか…。言われれば確かにそうね。」
少し考え、
「森に纏わる昔話とかは無い?」
また、考える男達。
「そう言やぁ…。」
一人が口を開く、
「爺さんが、満月の夜は森の奥から怪物が来るから近付くなって言ってたな。」
男達は、その事に思い当たったようで、
「そんな事、言ってたな。」
「言ってた。」
「でも、まあ。あれだ。夜は仕事しねえから、そんな事忘れてちまってたな。」
「違いねえ。」
笑う男達。
「森の奥か…。」
白頭巾の呟きが聞えたように、
「森の奥なら、ほら…。なんて言ったっけか…。狩人がいたろう。」
一人の男の問いかけに、皆がまた思い出す努力を始めた。
「思い出した!」
声を上げた男に皆の視線が集まる。
「確か、カートとか言う名前だ。」
名前に思い当たった男達は、
「そうそう。そんな名前だ。」
口々にした。
「そいつは…。」
更に記憶を手繰り、
「北側の街外れ、森に近い場所に家があるはずだ。」
「ありがとう。行ってみるわ。」
立ち去ろうとする白頭巾に、
「あの…、忘れ物…。」
先程のナイフが差し出された。
「あら、忘れるところだった。」
受け取ると懐にしまった。
その光景に呆れるペーター。
驚く神父。
酒場を出掛けに、
「マスター。ごめんなさいね。」
謝る白頭巾。
「気にするな。いつももの事だ。」
酔って暴れるのは日常茶飯事らしい。
「修理代は、飲み代に入ってるしな。」
笑った。
「悪い人ね。」
「あんたもな。やり方が慣れてるぜ。」
「酒場は、何処も同じ。頭にを押さえれば後はどうにでもなるわ。」
「悪い娘だ。」
「お互いに。」
二人して笑った。
「じゃあね。」
「今度は、飲みに来な。」
「そうね。もう少し大人になったらね。」
「待ってるぜ。」
扉を潜りながら、後ろに手を振る。




