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酒場

 古今東西、仕事終わりで賑わう場所は何処も同じ酒場。


 賑わう店内。


 扉を開くと、

「いらっしゃい。」

 見もしないのは、店主としての反射的な行動なのだろう。


 新たな来客に一斉に視線が集まる。


「なんだ、ここは子供の来る所じゃねえぞ。」

 白い頭巾の少女は、肩をすくめ両の手の平を天井へ向けた。

「何処に行っても、[酔っ払い]は同じ反応なのね。」

 自分達を[酔っ払い]と称されたことに腹を立て、

「なんだと!」

 いきり立つ酔っ払い達。


「待ちな。」

 酒場の奥から、声が響く。

「ここに何の様だ。お嬢ちゃん。」

 わざわざ『お嬢ちゃん』をゆっくりと言ったのは侮蔑ぶべつの意図があっるからか。


「うあ。まさか、ここまでベタな展開…。」

 おどけ、

「お約束過ぎて、逆に寒いわね。」


「何だと、この野郎!」

 奥から出てきた声の主は、これまたお約束通りの大男。

「ガキだからって容赦しねえぞ!」

 恫喝どうかつする髭面は、よく日に焼けていた。


 少し俯いた白い頭巾の少女を、恐怖で固まったと思ったのだろう髭面は、

「さっさと帰りな。」

 勝利宣言をする。


 震える白い頭巾の少女を見た周りの男達はやっぱり子供だと。


 だが、それが間違いだと知ったのは、聴こえてくる笑い声。


「ぎゃはははは。」

 耐えられなくなり、お腹を押さえ笑う白い頭巾の少女。

「あー、おかしい。」

 そのうちに、笑い声か苦しみの声かの区別がつかなくなる。


 その笑い声を聴き、完全に頭に血が登り日焼けした顔が、真っ赤に染まった。

「何が、おかしいこの野郎!」

 思いっ切り振りかぶった右の拳が、白い頭巾の少女へ放たれる。


 笑い顔のまま、

「あんまり、お約束の通りだったからお芝居かなって。」


 左足を足幅二つ分外へ、右足は足の長さ一つ分後ろへ下げ身をひねる。


 そこは、右の拳の外側。


 虚しく空を切る拳。


 その拳に、右手を添えた白い頭巾の少女。

 そして、右の拳は放った本人の意思とは無関係な方向へ加速する。


 直後。


 肉が潰れる様な音と共に、

「ギャィン!」

 悲鳴。


 右の拳は側で飲んでいた男達の一人の顔面に深くめり込んだ。そのまま白目を向き、ゆっくりと後ろに倒れた。


「あら、可哀そう。」

 そう言う顔は笑っているから、そんな事は微塵も思ってなさそうだ。


「こ、この! このぉ!」

 怒りで、上手く言葉にならない。顔は日焼けの色と混ざり黒くなった。


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