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視線

「ありがとう御座いました。」

 頭を下げた瞬間、白頭巾の背中を走る寒気。


(何!?)

 ひしひしと感じる。

(見られている?)

 目だけで周囲を探る。

(この寒気。いえ、殺気?)


 気を張り頭を上げる。

(この中に、今朝の奴の仲間がいるみたいね。どこ?)


 油断なく周囲の気配を探る白頭巾。


 また、露店から露店へと歩く二人。


 ペーターにしか聞こえない声。

「居るわね。」

 言ったが、

「何がです?」

 間の抜けた声とリンゴを噛じる音が返ってきた。


 聞いた自分が間違いだったと知り、

「何でも無い…。」

 それに答えたのは、またもリンゴを、噛じる音。


 殺気の視線は刺り続ける。

(どこにいるの?)

 この場の全ての人が怪しく思える。


 両手を塞ぐ林檎に視線を落とし、

(今、襲われたら勿体無い事になるわね。)

 悠長な事を考えていた。



 視線の質が変わった。


 殺気ではなく、自分を値踏みする視線へと。


(私を値踏みしている? 面白いじゃない。)



 不意に。


(視線が消えた?)


 今まで絡み付いていた視線が突如消えた。


(まあいいわ、ここに今朝の仲間が居るのが判ったし…。)

 俯き加減で、ニャリと笑うが誰にも見止められる事はない。


 歩き続ける二人は、広場の端、露店の切れ目に潜り込む。

 注意して見ないと気が付かない場所。


 ポーチに貰った林檎を入れ、入らなかったものはポケットに詰め込んだ。

「もう少し、街を見て回るわよ。」


 ペーターは二つ目の林檎を平らげていた。

「はーぃ。」

 残りをポケットに押し込んだ。


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