宴
身支度を済ませた二人を迎えたのは昼食。
市長宅の食堂へ通された。
待っていたのは、市長と神父。
市長はまだ痛々しい包帯が巻かれていたが、笑顔で迎えた。
「最後ぐらいは、食事をご一緒にと思いまして。」
「良かった。二番目にお気に入りの服で。」
今日は二番目のお気に入りの服。頭巾は被っていない。
市長と神父に向かい、スカートの裾を持ちカーテシーと呼ばれる挨拶をした。
(三番目と、何処が違うんだか。)
思っても口に出せ無いペーターは、白頭巾を上から下まで一瞥する。
「さあ、どうぞ。」
市長に席を進められた。
「はーい。」
いの一番にペーターが、自分の席と決めた椅子を引く。
悲鳴。
「ぎゃぁぁ!」
続き、
「痛たたたたた。」
ペーターの苦悶の声。
「先ずは、レディからでしょ。」
右手でペーターの耳を抓っていた白頭巾が笑顔で。
「レディは耳なんて抓らないと思うけど…。」
抗議で『グイッ!』と音が聞こえそうなほどに、手首が回った。
「ひぃ!」
声でなく音に変わった。
掴んでいた椅子から手を離すと、白頭巾の前の椅子を引き、
「どうぞ。」
促した。
「よろしい。」
満足そうに、耳から手を離すと椅子の前に移動する白頭巾。
それ確認し椅子を前に出し座らせたペーター。
直ぐに耳を擦ったのは、言うまでもない。
「本当に、ご主人様は暴力的になんだから…。」
小声だが、白頭巾には聞こえるように…。
「ペーター。早く座りなさい。」
無視した。
「はーい。」
抗議は無駄だと知っているペーターを下さい素直に座る。
そんな姉弟に見える二人のやり取りを、見慣れた神父は、
「市長。私達も座りましょう。」
椅子を引き、呆気にとられている市長を促した。
しばしの間。
そして、
「あっ、そうだな。」
反応した。
「では…。」
市長が痛々し手を組む。
「いだき…。」
ペーターの前に差し出された白頭巾が止めた。
「今日はね。食事ではなく、食事会なのよ。」
理解出来ず困り顔を白頭巾に向けたペーター。
ペーターに笑顔を向け、
「皆で食べる事を楽しむのよ。」
「解った。」
判ったかは怪しそうだが、ペーターは伸ばした手を戻した。
白頭巾は神父に向き、
「でも、お祈りはしないわ。私達に祈る対象は居ないから。」
「その方が、白頭巾さんらしいでよ。」
神父のその言葉に市長は疎外感…。いえ、ちょっとだけ仲間外れを感じていた。
そして、食事会…。
いえ、簡単な宴は始まった…。




