継承
森の外れの一軒家。
「わしゃぁ、もう引退だよ。」
「そんな事言わないで、お婆さん。」
悲しみを紛らわせる様に強く抱き着く少女。
「もう、年だ…。」
少女の頭を撫でる老婆。
「次は、お前の番だ。」
「私の番?」
「ああ、そうさ。」
「私にできるかな?」
不安の色が目に映し出される。
「大丈夫さ。私の孫だもの。」
浮かぶ笑みに、勇気を貰い、
「判った。」
子供らしい元気な返事。
「ほら、私からの贈り物が机の上にあるから見てみな。」
先程までの不安は何処へやらと言わんばかりに、
「ありがとう、お婆さん。」
踵を返し机へと向かう少女。
机への上にあったのは、大きな(と言っても子供が持つにはだが。)蓋付きのバスケット。
それを躊躇いも無く開け、覗き込む。
「あっ! これはお婆さんが使ってた…。」
「そうさ、私がお母さん…、お前の曾祖母さんから受け継いだものだよ。」
「良いの? 大切なものじゃあ…。」
「良いさ。使い込んで、手によく馴染むよ。」
「うん。大事に使うね。」
「それとね。」
お婆さんの両手は後ろに回り隠れている。
「じゃ~ん。」
前に出した両手に持っていたものを見る目が輝きを増す。
「それは!」
「頑張って、縫ったんだよ。」
「ありがとう、お婆さん!」
今度は、嬉しさで抱き付いた。
「私、頑張るね!」
そして、決意した。
古い大きな教会。
「よく来てくれましたなレイモンド神父。」
「マーシュ神父様。お会い出来て光栄です。」
二人は固い握手をする。
若いレイモンド神父が続け、
「若輩者ですが、精一杯務めさせていただきます。」
「高齢の私の代わり、よろしくお願いいたしますよ。」
継承。
思い出したかのようにマーシュ神父が、
「これをお使いください。」
側の机の上のに置いてあった木箱を渡した。
「何でしょうか?」
開くと古いがよく手入れされている銀色の十字架が入っていた。
「これは…。」
「はい。古くからこの教会に伝わる十字架です。貴方が使うのがよろしいかと…。」
「解りました。後任が決まるまでの短い間ですが、精一杯勤めさせていただきます。」
レイモンド神父は軽く頭を下げ、十字架に祈った。




