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桜吹雪の舞う頃に

作者: 如月 煉

名もなきただの丘。

だが、俺にとっては忘れられない丘だ。



うだるような暑さの中、俺はあの丘に来ていた。

丘には小さな墓標とその隣に大きな木がある。

この暑さをものともしない木は青々と葉っぱを茂らせている。

木陰に腰掛け、墓標へと話しかける。

「今日はいい天気だよ。空が綺麗だ。」

勿論、答えは返ってこない。

当たり前だ。ここには俺しかいないのだから。

「お前と出会った時からここは変わらないな。」

あの時から何も変わっていない。

ここから見える街並みは変わりつつあるがこの場所だけは時が止まっているようだ。

空を見ながら俺はぼんやりとあいつと出会った時を思い出していた。


どれくらい経っただろうか。

気がつけば日が暮れかけていた。

「また、来るからな。」

そう言い残し、俺は丘を後にした。



夏が過ぎ、秋が来た。

爽やかな風が吹いている。

大きな木はその葉を綺麗な赤へと色を変えていた。

墓標も散った葉により彩られている。

「今日は化粧までして綺麗じゃないか。」

傍から見ると俺は変なやつだろう。

だがここには殆ど人が来ないため気にはしていない。

気分が良かったので日が暮れるまで昔話をし、満足すると丘を後にした。



冬になった。

極寒の中でも俺は丘に来ていた。

「今日は寒いよ」

白い息を吐きながら眼下に広がる街を見ると雪で真っ白だ。

目の前には雪化粧をした小さな墓標。

そっと雪を払う。

「お前の花はまだまだ先だな」

隣に立っている大きな木はまだ蕾すらなく、枯れ木のようだった。

「また、来るよ」

冷たい墓標を軽く撫でると俺は丘を後にした。



春が来た。

俺はまたあの丘にいる。

今日は丁度あいつの誕生日だ。


「ようやく、咲いたな」

大きな木は綺麗なピンクの花を咲かせていた。

その下に腰掛け、すっきりとしない鈍色の空を眺める。

俺の心を映し出しているようだった。

風に吹かれ、ふわりと花弁が舞う。

手を伸ばすと1枚の花弁が手のひらへと落ちてきた。

「まるでお前のようだな」

この花の儚さがあいつによく似ていた。

空は俺、花はお前。

なんてロマンチストになっていて苦笑い。


ふと気がつくと俺は静かに涙を流していた。

「俺もまだまだだな…」

忘れる事など出来ない。

きっと俺は死ぬまでここに通い続けるのだろう。

それもまたいいじゃないか。

お前が眠るこの場所で最期を迎えよう。


お前の名のつく木の下で…


荒削りですが読んで頂きありがとうございました。

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