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第1話 クラスメイト−1

 高級な学校の校舎。カラフルなローブに身を包んだ生徒達が、その中に飲み込まれて行く。

 校門で挨拶をする校長先生と生徒会長。その後には大きな桜の木が、花を咲かせている。

 正方形の校庭は、50メートルプールが5個は入りそうなほど大きい。

 校舎内に入ってみる。

 外見に負けず劣らずの高級感溢れる廊下。光を受けなくても光り輝くフローリングに、シックな木製の壁と柱。

 廊下に響き渡る、生徒達の話し声。

 教室に入ると、直方体のみで作り上げられた光り輝く机が二十脚。それに付随する椅子も直方体のみで出来ている。見た目とは違い、手作り感がある。

 正面の黒板には自分の座るべき椅子の位置が書かれている。

 正面から二行目。廊下側から二列目。

 机の間を縫って行き、自分の席で一息を付く。

「ふ〜」

 すると突然、後ろから誰かが叩いてきた。

 痛い。

 後ろを振り向くと、金髪、黒い瞳、黒いローブの女子がいた。僕の幼なじみのレイアである。

 叩かれた事は気にせず、挨拶をする。

「おはよ、レイア」

「おっはよーネ、ホーク」

 僕の名前はホーク。青い短髪に黒い瞳。茶色のローブを付けている。時々フォークと間違える人がいるが、ホークである。

「今日も元気が良いね」

「当ったり前じゃないのよ。私が元気を無くすと思うの?」

「思いませんよ」

 至極当然の事である。

 このレイアは、いつもこの調子。

「この、って何よ。私は物じゃないのよ」

 どうやら心を読まれていたようだ。気をつけなければ。

「レイアは後ろの席なんだね。やっぱり」

「やっぱりって何よ。ホーク、もしかして、私と一緒だと、厭な訳?」

「そんなことないよそんなことないよ」

 じっと見つめられると、どうも本当の事を言いたくなるが、ここは我慢をする。

「そうじゃなくって、レイアと一緒のクラスで、良かったなー、なんて」

 2、3秒の沈黙の後、レイアがにっこりと笑った。

「それで良し、それで良し。それじゃあ、私、用があるから。まったネ」

 教室を飛び出していく少女を見詰めながら、周りからひしひしと感じる視線。

 何か不味い事でも言ったかな、と回想をすると、一ヶ所だけ気になる部分があった。

 レイアが、僕の心を読んだ事を口に出してしまった。

 まあ、問題になることは無いが、レイアの実力を誤解する事になってしまっただろう。気にはしないだろうが。

 この学校はファンタル学校。校長のファンタル先生が七年前に創設した、九年制の学校である。

 一学年一クラス二十人。僕がいるのは一年生のクラスである。ちなみに十二歳。

 ただし、この学校は他の一般の学校とは趣を異にする。

 習うものは魔法。

 魔法について、少し話しておこう。

 火(fire)、水(water)、風(wind)、雷(thunder)、氷(ice)、地(rock)、光(light)、闇(dark)。これら八個を総称して基本魔法。

 防(shield)、治(heal)、封(seal)、反(reflect)、移(move)、召(summons)、加(add)、想(feel)。これら八個を総称して補助魔法。

 魔(enchant)、時(time)、飛(leap)、無(annul)。これら四個を総称して応用魔法。

 二十種類の要素からなる魔法は、人によって使える魔力が違い、得意分野がある。

 基本的に、火が得意な人は防が得意で、水が得意な人は治が得意で、といったように、基本魔法と補助魔法は対応している。また同じように、応用魔法一つに基本魔法二つが対応している。

 髪の毛の色や瞳の色に得意分野が出る、という噂がかなり出回っているが、本当の所そんな事は無い。

 さっきのレイアの場合は、僕の心を読んだ。問題は、心を読む前に何も言わなかったこと。

 基本的に魔法というものは、最終的には唱詠をして初めて発現する。

 しかし、唱詠を全くしない方法も無い事はない。

 原理的には、想による『概念唱詠(no words spelling)』という魔法で可能だが、上級者でも難しい。というか世界に数人しかいない。

 それをやってのけるだけの実力をレイアが持っているという風に、クラスの全員が誤解してしまった訳だ。


「それじゃあ、みんなの自己紹介が終わった所で、今日は終了です。みんなは帰って構いませんよ。もちろん、学校内を探索してもらっても構いませんけど。それじゃあ、また明日会いましょう」

 そう言うと、ファンタル校長先生は教室から消えていった。

「ホーク、これからどうするの?」

 直ぐにレイアが聞いてきた。

「僕は、これから図書室に行こうと思ってるんだけど」

「そう。それじゃあ、私は帰るネ。また明っ日〜」

 大きな足音が教室を去っていく。

「よし、何か面白い本があるかな」

 僕はそう呟きながら教室を後にした。


 後から一人の少年が付いて来る。

 隠れているのだかそうでないのだかは微妙な所。気配を消す術を知らないのかもしれない。

 僕は知らない振りをして、図書室の前まで来た。

 自然な動作で中に入り、扉の裏に隠れる。

 しばらくすると、少年が入ってきた。

 赤茶色の髪と瞳で、真紅のローブ。たが、ローブは長すぎて床まで達している。

「あの〜」

 そっと後ろから声を掛ける。

 赤い少年は、びっくりしたのか書棚まで飛び退いて行った。

「あわ、わわわ、はほーんなりってわだれ?」

 とりあえず意味の分かる質問に答える。

「僕はホーク。確か君はニューメ君だったかな」

 赤い少年は首を何回も振る。

「それで、何か用事?」

 ニューメ君は首を振り続けている。

「あのさ、首を振り続けても、何も分からないんだけど」

 そう言っても変わらなかった。

 すると突然、呑気な声が響いた。

「図書室では騒がないでね〜☆」

 貸出カウンターを見ると、白髪の髪を長く伸ばした紺碧の瞳の女子がいた。

「あの、貴女は誰ですか?」

 そう聞いてみたが、既にいなくなっていた。いつの間に消えたのだろうか。

 その疑問は置いておいて、視線をニューメ君に戻す。首振りは止まったようだった。

 そこで、聞く。

「君は何で僕をつけたの?」

 彼はしばらく首を傾けた後、こう言った。

「あのレイアさんは、フォーク君のお友達?」

「フォークじゃなくて、ホークなんですけど。まあいいか。レイアは確かに僕の幼馴染だから友達だと思うけど」

「そうそうそうなの!」

 ニューメ君は突然抱きつこうとしてきた。

 僕はそれをバックステップで避ける。

 床に顔からぶつかった彼は、それを物ともせずに起き上がった。

「レイアさんって、上級の魔法使いだよね」

 今朝の事か。一応否定しておく。

「違うと思う」

「でもでもでもさ、『概念唱詠』をやったよね。僕でも知ってるよ。世界に三人しかいないんだよね」

「レイアを除いて三人、だけど」

「それでもそれでもそれでも凄いよね。凄い」

 天井を見詰めながらそう言う姿は、まるで神様を見詰めている様だった。

「それで、僕に何の用なの」

 肝心の事を聞く。多分、レイアに会わせてくれ、とか言うのだろう。

「えっとえっとえっとね、レイアさんに会わせてくれないかな」

 やっぱり。単純な少年よ、それでも魔法使いか。

 まあ、『概念唱詠』らしきものを見てしまっては、誰でもこうなるか。

「僕は、構わ」

「良いんだね。それじゃあ、これからレイアさんのお家に行っても良いのかな」

「それは駄目だ。止めておいた方が良いと思う」

 というか、レイアは学校の寮で暮らしているのだが。

「それじゃあ、明日話させて」

 明日か。どうなるかは分からないけど、まあレイアも嫌だとは言わないだろう。

「分かった。多分、大丈」

「やったー! ありがとう。フォーク君」

 そう言うと、図書室から飛び出していった。よほど嬉しいらしい。

 それにしても、僕の名前を間違えないでほしいな。出来ればだけど。あと、人の言葉は最後まで聞いてほしいと思う。

「静かにしてくれると・・・ってあれ、さっきの赤い、ニューメ君だっけ、は?」

 白髪の女子がいつの間にかカウンターの所にいた。

「彼は、喜び勇んで帰りましたよ。ところで、貴女は」

「私? 私はストックよ。えっと、確か八年生だったかな?」

 だったかなって、自分の学年ぐらい覚えておいてほしいものである。

「でも、図書館では騒がないでね。けっこう貴重な資料とかがいっぱいあるんだから。私に言ってくれれば、目的の物はささっと見つかるけどね☆」

「それでは、何か興味深い本は有りませんかね」

「う〜んと、興味深い本か。君は一年生だよね。確か、ホーク君。君だったら。その奥の棚にある本が良いと思うよ」

 ストックさんは図書室の奥の方の棚を指で指した。

 それにしても、何で僕の名前がわかったのだろう。

「ストックさん、僕の名前を何で知ってるんですか?」

「え、ホークじゃなかったの? さっきの子がそう言ってなかったっけ。ホーリーかな?」

「いや、ホークで合ってます」

 ただ聞き間違えただけのようだった。

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