第八話 別れは突然に
7月25日。日程でいうと3日目。この日は秘境駅に来る最初の電車に乗って帰るだけだ。旅行はとても楽しかった。もっと早く旅行の楽しさに気づいていれば…とは思うが、今更しょうがない。
旅館の女将に手を振って、私はまた元の場所へ戻る。
さよなら秘境駅。さよなら北海道。
久しぶりに帰ったら都会も良く感じるかと思ったが、残念ながらそうでもないようだ。やっぱり都会らしい人ごみや騒音は苦手なままだった。
翔から「お土産悪いけど、郵便受けに入れといて。後で必ずお礼しに行くから」とLINEがきた。相変わらず忙しいみたいだ。翔の家まで行って、郵便受けにキーホルダーを入れる。車がないので何処かに出かけているのか。まさか旅行ってのはないと思うが…
最初に決めた「翔と遊ぶ」「旅行する」という二つのやりたいことを既に終えた。どうすんだこれ。あと5日あるんだぞ…もう一つのやりたいことは出来ないし、他に何かしたいわけでもない。あと5日…秘境駅で味わった自由の、都会バージョンでもやるか。自分の街を適当に散歩してみるとか。要はダラダラするだけだ。最初は短いと思っていた1ヶ月が長く感じて、夏休みが短くなったのを後悔して、今度はまた長いと感じている。つくづく自分の計画性の無さを恨む。
とりあえず今日は家で休むか。夏休みは折り返し。今日の晩御飯はカレーだ。おそらく、最後の。
7月26日。自宅周りを散歩してみた。
7月27日。ネットで動画を見て過ごした。
7月28日。それは、もはや確約されていたかのように訪れる。
思い出の場所がある。家から少し離れた土手。都会の喧騒を感じさせない静かな場所で、小さい頃に翔や友達とよく遊んだ。不思議とここは都会らしい汚れた空気や車の騒音がなく、まるで別の世界にいるような感覚になる。
久々に来たがやはりここは落ち着く。どこかあの秘境駅と同じ匂いがする。少しだけ寝転がって
ゆっくりしようかな。夕焼けが綺麗だ。時間は7時少し前、もうすぐ日没を迎える。日没を迎えてから数十分の時間帯をマジックアワーというらしい。マジックアワーの意味は…
「ここか。やっと見つけたわ」
聞き慣れた声。そうか、スマホは家にあるから気づかなかった。
私の後ろに立っている翔は、心なしか悲しい顔をしていた。