第五話 翔の話
「田舎の夏休み」を思い浮かべる人は多い。
強い日差しの中、小さな木造建築の家の縁側に座っている。うちわで扇ぎ、西瓜を食べ、風鈴の音を聴きながら昼寝をする。夜は少し離れた所のお祭りに行き花火を見たり、逆に静かな場所で虫の音色を聴いたり、蛍を見に行ったり。満天の星空を拝むことも出来る。
他には寂れたバス停や屋根のない無人駅、向日葵畑、自転車や釣り、虫取り、えとせとら。そしてタンクトップと短パンを着て、麦わら帽子をかぶった幼馴染の女の子が隣に…とまあ、大体こんな感じか。
実際にこういう体験をした人は殆どいないだろう。しかし不思議なことに、思い浮かべるビジョンは大体みんな一緒だ。「死にたくなるイラスト」なんかで検索すると、おおよそ先ほど挙げたような絵が出てくる。
私は女だけど、実はこの田舎の夏休みに憧れている。人の家の縁側を借りるわけにはいかないが、そんな雰囲気の所へ行って、ただ何をするわけでもなく景色を眺める。
旅行の計画は大体決まった。よく考えたら明確な目的のない旅行に翔は連れていけないな。こういう旅行は一人でするのが良い。初日に翔と遊ぶから、1日置いて3~5日目か。勝手だが北海道や東北、あと中部の真ん中あたりは田舎のイメージがある(現地民ごめん)のでそこらへんに行ってみたいが…恥ずかしながら、私は飛行機の乗り方を知らない。自分の使っている路線以外は電車すら危うい。それでも旅行するとあっさり決められたのは、やはり余命がないから多少ヘマしても大丈夫という謎の自信か。
何もしない…てことは、もうこれで予定が全部決定したのか。2泊の旅行が随分あっさりと決まったもんだ。元々お金を使わないので資金には余裕がある。何かを買う時どうしても「これから何年も使えるか」を第一に考えてしまうのが原因だ。買わない後悔が圧倒的に多い。昔、母から金色の鳥の刺繍が入った財布を貰ったが、申し訳ないことにあまり使う場面がないままだ。今回はいい機会だな。お土産でも買ってあげよう。交通機関は…まあ、どうにかなるでしょ。
男女の友情は成立するか、なんて議題がある。大体男目線から語られる場合が多く、女側が男をどう思うのかはあまり語られない。なので女側の一般的な意見がわからないが、私は男女の友情は成立しないと思う。翔がどう思っているかは知らないけど、私は…まあ、そういうことだ。無論それを言う勇気はない。たとえ余命が10日で、これが翔と遊ぶ最後の日だとしても。最後の夜にでもスマホで伝えようか。
互いにインドア派なので、据え置きゲームをして遊んだ。あまり最後っぽくないが、変にかっこつけるのもおかしいのでこれでいい。楽しいし。
なんとなく落ち着いた頃、翔が唐突に口を開く。
「あのさ、
もし余命があと1ヶ月だったら、どうする?
そりゃまた、突拍子もない話。