なな 俺の家族
久しぶりです!楽しんで下さい!
ざあっと雨が窓をたたく。梅雨の時期になったためここ最近は雨が続いている。
だが雨は好きだ。黙って雨音を聞くのも一興だ。だが、登校しなければならない場合は別である。
「めんどくせえなぁ」
「りおー?いかないの?」
「ん?もうそんな時間かぁ、しゃーねえー行くかぁ!」
俺はラファを抱っこし、玄関を出た。やや大きめの傘を開き通学路を進む。
その途中にある一軒家。その前に立っている人物を確認し、声をかける。
「おーい、涼音ー」
「あ、理央君おはよ!」
「おはよう。待ったか?」
「1分くらいね」
「家の中で待ってりゃいいのに」
俺はそう言い、歩き出す。すると涼音も半歩遅れて歩き出した。
「何となく早めに出てみたんだ。まあ理央君がいつもより来るの早くて大して早くないんだけど」
「うーん、いつも通りなはずだけどなぁ。雨だから少し足早に来ちゃったのかも」
「なるほど」
いつも通りのたわいのない会話。話すことが多い訳じゃないのに途切れることを知らない。
「まじであの2人夫婦みたいだよねー」
みたいなことが聞こえない限り。
「………」
「………」
「そ、そういえばもうすぐ夏だな!」
「そ、そうだね!海とか行きたいね!」
「そのまえにてすと」
「「………」」
ラファよ、現実に引き戻さないでおくれ………
***
「という訳でぇ〜テスト勉強するように〜。じゃあまた明日ねぇ」
相変わらず間延びした担任の声が響き、放課後となった。今日からテスト1週間前。部活はしてはいけない。部活入ってないから何も変わらないけど。
などと考えながら俺は帰りの支度を済ませ、席を立つ。すると、涼音がこちらに走ってきた。
「理央君!」
「はい」
「勉強教えて!」
「うん。いいよ」
「よし!じゃあ私の家でね!」
まあ今更っちゃ今更なんだけどそんなに大きな声でそんなこと言うと……
「ひゅー、ラブラブだね!涼音ー!」
「チッ、リア充が……」
こうなるよね。
「そっ、そういう関係なりたいけど………そうじゃないから!い、行こ!」
涼音は最初小さい声で呟き、誤魔化すように後半声を張り、俺の腕を強引に引っ張って行く。俺はこけそうになりながらも引っ張っぱられるがままにした。
流石に傘を差さずに外に出ようとした時は全力で止めたけれど。
そんなこんなで涼音の家にきて1時間が経過した。僕は宿題を終え、涼音に解き方を教えている。
「あとはXに代入したら終わりだよ」
「………しゃ!終わったぁ!」
「お疲れ様」
「うん!理央君ありがとうね」
「どういたしまして、分からない所があればまた言って。じゃ、俺はそろそろ帰るよ」
「うん!また明日ね!」
「うん」
俺は短く返事し、涼音の家を後にした。
「ラファ、今日はシチューだぞー」
「おおー!やった!」
俺とラファは楽しく会話をしながら、帰路を辿る。後ろに迫る、1つの黒い影に気づかずに。
***
テスト最終日が終わり、俺の家で涼音とお疲れ様会を開くことになった。悠さんも誘ったが、予定があるらしく、欠席だ。
「理央君テストの手応えは?」
「うーん、いいと思うけどね。涼音は?」
「欠点ではないかな」
「ギリギリだね、それ」
今日もいつも通り。なはずなのに何か嫌な予感がする。テスト終わりは気が抜けてしまうのに、本能が警戒を怠らない。今自分が異常な状態なのは明白な事実だった。
「理央君?」
「ん?何?」
「何じゃないよー、聞いてた?」
「ご、ごめん」
俺が素直に謝ると涼音は少しムスッとした顔をし、俺の横腹を1回突っつく。
「海に行くならラファちゃんの水着買わなきゃだし、一緒にお買い物行こうって話ししてたんだよ?」
「ごめん、そうだね。今週の週末辺りで行こうか」
「うん!そーしよう!」
そうして着々と俺の家に近づく。
「ん?理央君の家の前に誰かいるよ?」
と、涼音が言う。確かに俺の家の前髭を生やし、ガタイの良い大男がーーー
「ッーーー!は!?」
言葉を失う。俺は違和感の正体に気づく。周りにあいつと俺たち以外、人がいない。
「…人払いの血結界か」
血結界は血液を大量に使って文字列を編むことで様々な強力な結界魔法が発動できる。
使われるのは大体が国家に関わる案件だけど、目の前の人物を見てそうではないと分かる。
俺はその人物に向かってズカズカと歩いて行く。
「り、理央君?」
涼音の声すらも遠く小さく聞こえた。
「今更何か用かな?父さん」
俺がそう言うと、父さんはこちらを向き俺を睨む。
「ちょ、理央君!?父さんって…え?」
涼音は俺の事情を知ってる。故に驚いているのだろう。俺だって驚いた。
俺は返事を待つ。すると父さんラファを見るや否や、口を開いた。
「感心しないな」
と、一言だけ。俺は歯噛みする。何のことを言っているのか見当がついているから。
「その年で子供か?」
とんでもない誤解を招いていた。
「ブッ…!違う!この子はラファエル。俺の使い魔だよ」
「…あれほど使い魔使いになるなと言ったはずだぞ」
「俺を捨てたあんたにああだこうだ言う資格あるんですか」
お互いに睨み合う。すると、父さんは刀を取り出し、抜刀する構えを取る。
俺も反射的に剣を顕現させた。
「まあいい。殺せば良いのだから」
「殺させねえよ。…ラファ」
俺が名を呼ぶと少しだけ悲しそうな顔をされた。違うよラファ。下がってろなんて言わない。
「一緒に戦ってくれるか?」
その一言でラファはぱあっと明るくなる。そしてとびっきりの笑顔で元気よく、うんと言ってくれた。
「俺は使い魔使いとして、あんたと戦う」
「いいだろう」
心意会話の実践だ。ぶっつけ本番感があるけどいける。俺はラファの『存在』を強く意識する。
ーラファ。聞こえる?
ーうん。
ーおけ。じゃあ序盤は後方支援を頼む。その後はその都度言うよ。
ーうん!
「ふぅ…はッ!」
俺は短く息を吐き、突っ込んで行く。
金属音が響き渡る。その合間に降り注ぐ氷の雨。だが、一向に攻めきれない。実力不足が目に見えている。
「…まだ扱いきれていないようだな」
「ッ…!」
ーラファ!俺の体すれすれに槍を!槍の雨は打ち続けたままでだ!
俺は指示し、詰め寄る。そして槍が通りかかった瞬間に体を捻る。
「……!」
父さんは顔色変えず氷の槍を捌く。だが少しだけ、体勢を崩した。空かさず捻った勢いでその場で鋭く一回転。遠心力を乗せて斬りかかる。しかし、剣は虚空を捉えていた。いない。
「甘い」
気づいた時には遅い。俺は鳩尾付近に掌底を打ち込まれる。何とか鳩尾は避けたがダメージはでかかった。
「かはっ……ぐ…ッ!」
すぐに立ち上がろうとしたが数瞬間硬直する。俺から見て左から刀を振り下ろしていたため、反応が遅れてしまったのだ。俺は何とかその一撃を防ぎ、ラファに指示を出した。
ーラファ!俺から見て左からの攻撃が来たらすぐに知らせてくれ。あと、氷の剣を作って渡してくれ。
ーわかった。
すぐ様ラファがぶつぶつと呟く。すると、正面に氷塊が現れ、軽く爆散。歪な剣が出来上がる。それを俺は躊躇なく掴む。
「ッ…!冷え」
実際は冷たいどころじゃない。冷た過ぎて軽く火傷をした状態だ。後でこれの対策考えるか。
「ぁぁああああああああああああッ!」
俺は鬼気迫る勢いで父さんに向かってまた走り出す。
守らなきゃいけない。ラファを。そしてこの場にいる涼音も、危害を加えないとは限らない。だから守る。命を賭けて、命を削ぎ落とす!!
刹那、左目が覚醒する。また熱い!
そしてそれを目視した父さんは数瞬、硬直した。その隙を見逃さず、急接近する。
《測える》。だから、捉えられた。もう防御は捨てる。そんなもの、不要だ!
「ッ…孤独なお前に、居場所など無い!」
「ある!それに家族もいる!ラファと、涼音が俺の《家族》だ!」
ーラファ、合図したら剣を思いっきり爆散させろ!
ーうん!
そして間合いに捉えて瞬間叫ぶ。
「ラファ!やれ!」
「ッ…!」
父さんが俺とラファを気にかける。それが狙いだ。必要以上に警戒しているのはラファが槍を数本生成したからだろう。本当に出来がいい。
「いっけえぇぇぇぇぇぇええええええええ!!!!」
振りかぶり、剣と剣が触れた刹那、爆散した。予め顔の辺りは防いでいたため大した事はないが俺も父さんも吹き飛んだ。
「ぐっ…」
「はぁ、はぁ、ラファ、剣」
「…ん」
短く合図すると先ほどと同じ様に剣を生成した。左目はもう見えないが痛いため瞑っている。
「理央、後悔するなよ」
「あんたと一緒にいる方が後悔する」
「ふん、責任は持て」
「言われなくても」
その会話を最後に、父さんは何処かへ消えて行った。
「理央君、大丈夫!?」
「ああ、手の凍傷が少し。ラファが何とかできるから大丈夫だ」
当のラファは既に治療に移っている。少し休んでもいいのに。
「…ねえ理央君、自分が言った言葉を思い出して」
俺は何故そんな事を聞くのかと思いながら思い出す。正直に言って頭が回らないけど、多分まあまあ前に言ったことだろうと決めつけ、思い出す。
「…あんたと一緒にいる方が後悔する」
「まだ前」
「……ラファ、剣?」
「もっと」
「…………家族はいるって所?もっと前?」
「家族はいるって所」
「……………家族はいる。ラファとすーーー」
気づいた。て言うか「と」が付いた時点でもうおかしい。
「告白の答えって事で良いのかな?」
満面の笑みで涼音が問う。ここで違うと言えば、普通に極悪人になってしまうであろう。
「正直に言うと、承諾するつもりしかない。でもーーー」
「分かってるよ。今のはちょっとした意地悪。まだお父さんと、ケリというか何というかが付いてないもんね」
「…すまん」
「特別に待ってあげます!その代わり、とびっきりドキってする言葉頂戴ね。特別だよ。こんなに待つ女は絶滅危惧種だぞ」
「はい。ありがとうございます」
頭が上がらない。いやもう本当に申し訳ない。
「よし!録音おっけ。言質取ったり!じゃあお疲れ会やろ!疲れてるなら膝枕してあげるから」
俺は少しの間考えたが疲れているのは確かだ。すぐ寝たい気分でもある。
「じゃあ、昼ご飯食べたら1時間くらい寝ようかな」
「うん!」
***
ガチャリドアを開ける。そこには寝ている理央と理央を膝枕しているの涼音の姿があった。
「すずね」
「ん?何かな、ラファちゃん」
私は迷った。理央のことを話すべきか。でも、やめた。これはまだ理央も思い出していない。そして、理央本人が思い出さなければいけない。だから一言だけ。
「りおのそばにいてあげてね」
すると涼音は、数瞬驚いた表情を見せ、すぐに笑顔になった。
「任せて」
と、一言言って。
次回はー!海だぁー!