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じゅうはち 最弱、進学前に召喚を

なろう復帰です。


3月某日。俺とラファ、悠君は学校の校庭に向かっている。ラファは俺の後ろをお菓子袋を漁りながらついてきている。


「バレンタインは悲惨だったねえ」


「思い返せばね。そのおかげでホワイトデーの記憶は霞がかかったみたいにおぼろげだよ。いい思い出であったのは確かなはずなのに」


「にしても驚いた。あの時のメール」


悠君が言っているあの時とは、バレンタインの時だろう。話の流れからしても、て言うかそもそもあまり多くメールを送らないし。


「まあね。アルテミスから大丈夫だって手紙もらったから、リラックスできちゃってね」


涼音が信頼しているんだ。リラックスしちゃうよ。


「だから僕に『まあなんとかなるさ』ってメールしたわけだ。ちなみに番長には?」


番長というのは亜由沙さんのことを示している。


「んーとね、『助太刀のタイミングは任せるね』って」


「ま、丸投げしたわけね…」


「うんまあ、そうなる」


「そりゃ貸しを増やされるよ」


「どのみち俺に指示なんてできないし、いいんだよ」


俺は笑ってそう言う。結局、大した要求はされなかったし。


「まあいっか。結局あの後理事長は何て?」


「ん?なんかねー、1ヶ月の停学処分らしいよ。山野君」


「ふうん、それだけ、か」


「引っかかるよね。考えても仕方ないんだけどさ」


結局、詳しい説明をされたわけではなかった。でもまあ、理事長だし、大丈夫なのではと思っている自分がいる。


「まあ何かあるなら頑張って返り討ちにするよ」


話しているうちに校庭に着き、先に着いていた涼音がこちらに向かって手を振ってきた。それに俺も応じる。


「ごめんね、待たせて」


「うんん、待つ方もたまにならいいものだよ。それに肝心の理事長がまだだし」


そう、今日わざわざ学校にまで来た理由は理事長に呼ばれたからだ。確かにまだ来ていない。


「なんだろうね、僕たち3人だけ呼んで」


「噂をすればなんとやらだね。来たよ」


悠君がそう言ったながら指差す。俺は中庭がある方向を見やると、マイペースにのんびりとこちらに向かって来ている理事長が視界に入る。


「やあ、おはよう。ごめんね朝早くに。この後急ぎの用があってね、始業式の前日までここに戻れないもんだから」


「大変ですね。それで用とは?」


「ああ、君たちには迷惑をかけたし、今後の期待もあることだからね。2体目の召喚に使う触媒を提供しようと思ってね」


「あー、そうだった。何故か俺も最優枠に入ってたわ」


学年で30人しか選ばれない最優枠。それを取った者は2体目の使い魔召喚の権利を学校側から与えられ、1年間学費5割カットという制度。それに涼音や、悠君はもちろんだが、本当に何故か俺も入っているというね。


「理央君は事件を大ごとにせずに解決してくれた功績があるから、特別枠を設けたんだ。だから今年度の最優枠は31なんだ」


「な、なるほど?」


「受け取れる物は受け取っとくべきだよ理央君。私も関さんの所でたまに弾薬もらってるし!」


「そ、そうなんだ」


「まあそういうことだね。という訳ではいこれ」


理事長からアタッシュケースを渡される。中には3つ、赤、黄、紫の魔石が入っていた。


「どうせならもうここで済ませるかい?」


「そうだね。みんなどれにする?俺は余りでいいよ」


「いや、ここはいっせーのでいこう。被ったらじゃんけんね」


「まあ、涼音の案が1番か。んじゃ、せーの」


同時に指差す。すると見事にバラバラだった。俺が紫、涼音が赤、悠君が黄だ。


「逆にすごいねこれ」


俺がポツリと呟くと、2人もウンウンと頷く。そして涼音が俺の背をポンと叩く。


「それじゃ、理央君トップよろしく!」


「ええ!?俺から?」


うんまあ、いいんだけどね?


「じゃあ、俺から行くよ。いい魔石なんだろうけど、あんまりいいのは残りの容量的に引けないんだよなぁ」


そう言いながら魔法陣を書く。ラファの時と同じものだ。


「理央君はそれでラファエルを引いたのかい?」


「うん。魔力量ポンコツだからね。これくらいじゃないと発動できないんだよ」


「なるほどね」


「んじゃ、始めるね」


「りお、そのまえにいい?」


「なんだ?」


「ぽてち」


そう言いながらお菓子袋からポテトのチップス、略してポテチを取り出した。少し、嫌な予感。


「ああ、それが?」


「そこにおこう」


「はい?」


「おくね」


「おいおいおい!?」


ラファが魔石の周りにポテチで丸を書き、砕いたポテチも適当に散らした。ああもう、取り返しがつかないな……


「まあ、いっか……【我の言葉を聞き入れ、現世に現出せよ。黒き悪魔よ。白き天使よ。どうか我に祝福を】!」


詠唱を終えると、魔法陣が紫に輝き出し、そして時間が経てば経つほどに輝きを増す。

ついに眩しすぎて何も見えない状態となり俺は目をぎゅっと瞑り、収まるのを待った。

この時俺は油断していた。眩しいだけだと思っていた。突如として吹き荒れる突風。近くにいた俺はもちろんモロに食らうわけで……


「うおああああああああああああああああああああああ!?」


1メートルくらい浮き上がった。3メートルくらい飛んで行った。すんごい転がった。結局元の位置から6メートルくらい遠い場所で止まった。


「いってえ!?なにこれすっごく痛い!?」


「だだだ大丈夫理央君!?」


「これまた派手な演出だねえ」


涼音が頭を撫でてくれる。それを嬉しく思いながら魔法陣を見やる。

ショートの銀髪に煌びやか且つシンプルな白剣と、禍々しい歪な黒剣。灰色に統一された防具。白いワンピースの様な衣装を纏い、背中には天使を彷彿とさせる、否天使そのものと言える羽が生えていた。その片方の翼は黒く染まっている。


「……あなたが、私を呼んだ?」


高いとも低いとも言えない、聴き心地の良い声音。そして紺青の瞳がラファを捉えた瞬間、すっと目が細められる。


「ラファじゃない」


「ひさしぶり、るし」


「ええ、そうね」


とたとたとラファはルシと呼んだ彼女の元に駆け寄って抱きつく。それを彼女はラファの頭を優しく撫でて、ふっと微笑んだ。


「それで、誰が私のマスターかな?」


そう言いながら、紺青の瞳は俺を捉える。射殺すような視線に体は固まって、言うことを聞かない。

いかんいかん、これじゃ示しがつかない。ぶんぶんと頭を振って、彼女を見据える。


「俺です。桐生理央だ、よろしくな、ええと」


「よろしくマスター。私はルシフェル」


ルシと呼ばれていた時点でなんとなーくの察しはついていたが……ルシフェルって、ラファと同様、SSSランクだ。容量がほぼないと言うのに、どう言うことだ?


「マスター、早くしなさい。《リンク》」


「あ、ああ。そうだな、じゃあちょいと失礼して……《リンク》」


少しの恐怖を抱きながら、《リンク》開始。瞬時にルシフェルの記憶が流れ込む。

俺は目眩を覚えた。情報量が膨大で、しかもラファよりも、酷い過去であった。恐る恐る、ルシフェルの顔を見た。先程と、何一つ変わらぬ表情をしていた。


「ええと、ルシフェル……」


「ルシでいいわよ。まあ、一応は信用してあげる。でもあくまでラファが信頼してるからであって、私はあなたを信じたい訳じゃないから」


そっぽ向きながらそう言われた。まあ、信用しないなんて言われるよりかマシだろう。記憶の中に気になるものもあったが、聞けばきっと機嫌を悪くするだろう。後に聞こう。信頼しきって貰わなければ、連携に支障がでる可能性が高いしな。


「ありがとう、ルシ」


「……ねえ」


「はい」


「あの魔法陣の周りに散らばってるの、なに?」


「ポテチだよじゃがいもを薄く切ってパリパリにして塩をまぶしたお菓子だよ」


凄く適当だが、概ねこの説明でいい気がする。その説明を聞いたルシはふーんと言いながら、ジッとポテチを見続ける。それに気づいたラファがお菓子袋からポテチを取り出す。


「いる?るし」


「ええ、ありがとう、ラファ」


ルシは袋を受け取って、しばらく睨めっこした後、俺に渡してきた。これは恐らく、開けろということだと思う。俺が袋を開けて渡すと、ルシはパクパクと食べ始めた。表情を見る限り、ご満悦なようで……


「お、おめでとう理央君。天使2人目だね…」


「おめでとうと言ってる割に顔引きつってるよ涼音」


でもまあ無理もないか。俺だって初めて見た。1人のマスターが2人の天使を使い魔にするだなんて。


「それより2人も早く召喚しなよ悠君に関してはもう書いちゃったでしょ。いつの間にか」


「うんじゃあ、召喚しよっかな…」


そう言って、悠君俺の魔法陣の10倍くらいの大きさの魔法陣の前に立った。


「【我の言葉を聞き入れ、現世に現出せよ。黒き悪魔よ。白き天使よ。どうか我に祝福を】」


詠唱した刹那、黄の結晶が弾け。魔法陣が輝きを放つ。尚、突風は無かった。凄く穏やかだ。羨ましいなーとか思いながら見ていると、和の具現のような人物が現れる。


「イザナギ、か。イザナミがいたから引っ張られてきたのかもね」


悠君は見ただけで彼の正体を把握し、少しだけ考察していた。イザナギはラファやルシと同格のSSSランク。凄い引きだ。

悠君は素早く《リンク》を済ませると涼音を見た。


「次は涼音さんだよ」


「うん、それじゃ、魔法陣書くねー」


ふんふーんと鼻歌を歌いながらノリノリで魔法陣を書いていく。大きさは、悠君が書いたものと同じくらいの大きさだった。


「よし、行きます!【我の言葉を聞き入れ、現世に現出せよ。黒き悪魔よ。白き天使よ。どうか我に祝福を】」


詠唱の後魔石か飲み込まれ、オーラが放たれる。なんで俺だけ突風が起きるのかな?

そんなことを考えているうちに、オーラは収束。そして現れたのは、小さなドラゴンだった。鱗は青く、何本か赤い線が入っているだけの、なんだかシンプルなドラゴンだった。


「なにこの子」


涼音は自分の肩に乗ってきたドラゴンの首元を撫でる。するときゅーと鳴いた。凄く気持ち良さそうだ。


「それはトランスフォーム・リドラだね」


「流石悠君、知ってるの?」


「ああ。そいつはね、最近Sランクに認定されたんだよ。変身のバリエーションが豊富過ぎて、凡庸性が高すぎるから」


「へえ、変身できるんだ!」


涼音の驚嘆の声に反応するように、トランスフォーム・リドラはきゅっ!と鳴いた。実に可愛らしい生き物だなと思う。涼音は肩に乗っているリドラを丁寧に両手で抱え、《リンク》を行い、満足げに微笑んだ。


「よし、終わり!よろしくねリド」


「安直だね」


「そのくらいが丁度いいのー!ねーリド」


涼音はリドに頬擦りしながら同意を求めると、その意図が察せたのか察せなかったのかは知らないが、きゅきゅっ!と鳴く。そんなほのぼのとした景色に自然と笑みがこぼれる。


「涼音さん、理央君。僕予定があるからそろそろ帰ろうと思うんだけど」


「そうなの?ならお開きにしよっか」


「そうだねぇー、あ、今日理央君の家行ってもいい?」


「ん、いいよー」


5人ほぼ同時に歩き出し、刹那、俺だけが異常な気配を感じて氷剣を生成し振り向く。が、しかし何も無かった。しかし本能が剣を振り抜いた。するといきなり何もない空間に男が巨大な機械の拳を振り下ろし切る直前で現れる。

俺は何とかその攻撃を地面へと逸らすと、地面がぐらりと揺れる。体感的に、震度4程度の揺れに感じた。

涼音と悠君、ラファやルシは流石の身のこなしてその揺れに対応、即武器を構えた。


「いやはや、これで死なないなんて、流石っすねー」


へらへらと笑ながら水色のジーパンに藍のジャージの男が巨大な機械の拳を持ち上げる。彼の左目は藍に光っている。咄嗟で認識し切れていなかったが、その拳はクリアな藍色だ。


「何者かな、君は」


「俺が何者かなんて知る必要はないっすよ、桐谷悠。天羽涼音も桐生理央も、全員ここで死ぬんすから」


そう言って、彼は標的をルシに定めた。契約したてということもあり、チャンスがあるとでも踏んだのだろう。近かったというのもあるだろうか。いや、テレポーテーションを使用できるのならラファや涼音を狙うのが妥当だろうに。使えないのかもしれない。

ルシは防壁を張り、一対の剣を構える。またしても本能が警告する。少ない魔力を脚力に変え、疾走。拳が届く前にルシを抱き抱えて勢いそのまま横に回避。ルシの防壁はなかったかのように潰され、風圧が襲う。俺は体を捻り、なんとか俺が下になる。


「ぶねぇ、大丈夫か!ルシ!」


「大丈夫よ!あんたの助けなんて要らなかったのに!防壁だって邪魔されなかったらッ……」


「じゃあルシの防壁は邪魔されただけで紙になるのか?」


「は?んな訳ないじゃない!ていうか早く腕を解きなさい!……胸が…………」


「…………すまん」


ガッチリと掴んでしまっていたのを退け、気を取り直して剣を構えた。生き残って後で全力で謝るとしよう。


「はっ、桐生理央。あんた気付いたんすか?」


「何が」


「いや、ただの勘だったんすね。でもまあこれじゃ勝ち目がないっすかね。無理言った代わりに奥の手は使うなっていう命令受けてるっすからね」


突然機械の拳は消え、彼の周りの空間が歪む。


「ここで俺は引くっす。誰も死んでない褒美として、名乗っておくっすね。俺は御門誠っす。以後お見知り置きを」


次の瞬間、彼、御門誠は消えてしまった。俺は長い安堵のため息をついて、ルシの元に行く。


「ルシ」


「……何よ」


「さっきは、ごめん」


「ばっか、思い出させるんじゃないわよ!別に、その、気にしてなんかないんだから……」


頬を真っ赤にして、そっぽ向く。めちゃくちゃ気にしているようであるが、これ以上はやめた方がいいだろうか。思い出させ続ければ、過去と強く結びつけてしまうかもしれない。それは信頼に関わるような気がする。

まあ、胸を掴んでいた時点で信頼もクソもないだろうけれど。

焦っても仕方ない。ゆっくりと行かせてもらおう。


「さて、お開きにしよっか」


「そうだね。じゃ、僕は一足先に失礼するね」


「うん。またね、悠君」


悠君はこちらを振り向くことなく手を振って校庭から去って行く。


「来るんでしょ?涼音」


涼音を見て、にっこりと微笑むと、涼音の表情がみるみる明るくなって、大きく頷いた。


「うん!お邪魔する!」


「ああ、行こうか」


アルテミスはいつの間にか消えていた。なので4人と1匹で、俺の家に向かった。

次、理央は二年生です。

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