じゅうなな バレンタイン事件
1週間以内に投稿したかったですが、まあいいでしょう。いいですよね…
それでは17章、お楽しみください
待ちに待ったバレンタインデー当日の朝。警戒が解けないという事実からか、あまりウキウキと言った感情はなかった。言うなればハラハラだろう。
しかし、家にいるうちからこんな状態では身がもたない。一旦考えを振り払い、朝ごはんを用意した。
そして食べ終わり、学校へ向かう時間となった。俺はラファを抱きかかえて通学路を歩く。誰かいる気配があるが、何かしてくる様子はない。
そのまま涼音を加え登校するが特に何もなく、涼音とラファが露骨にそわそわしているだけであった。まあバレンタインだしね、仕方ないと思う。
授業中、一部男子の間で手紙が行き来しているのを目撃。これは確実に何か企んでいるな。実行は昼か、放課後ってところか?
警戒を解けないというのは、こうもきついものか。授業中や業間はないとは思っていても、警戒してしまっている始末だ。
仕方ない。少々不本意だが、保険をかけてみるか。俺はテキストチャットアプリを開き、いつの間にか登録されている人物へメッセージを送った。まあいつの間にっていうか、あの時だとは思うけど。
俺の心境とは裏腹に、授業は何の変哲も無く進み、昼休みとなった。
「理央君」
「ん、悠君。どうしたのは野暮かな」
「まあそうだね」
「まだ解決してないの?理央君」
「ああ、事前に犯人を叩こうにも、何人加担してるかわかんないからね。悠君の方では何かあった?」
「特に何かされたことはない。動きがどうも怪しいけど。でも、普通にチョコ受け取れたよ?」
悲劇になり得ないからでは、と喉まで出かかってそれを飲み込んだ。なんだか言ってはいけない気がしたからだ。
「現状、クラスの男子の一部がごっそり教室にいないし、放課後だと思っていいのかな」
「多分、ね。露骨過ぎるのか引っかかるけど」
「ねえねえ2人とも、私たちにできることとかある?」
涼音とその膝の上に座っているラファがこちらを見て問う。俺と悠君は2人してうーんと考える。
「何をしてくるかが全くわかってない状態だからね」
「怪我しないように注意してと、悪意を察知したら教えてくれくらいかな?」
「そうだね…ほんとにそうとしか言いようがない気がするよ」
「うーん、そっか。なら少し頑張っちゃうよ!」
両手をぐっと握りやる気を見せる。そこは普通に頑張って欲しいと思ったが、可愛かったから言えなかった。
「とりあえず、昼に起こす気は無いだろうし、ご飯食べようか」
そう言うと各々弁当を取り出し始めた。するとアルテミスがふっと現れ俺に手紙を渡してきた。内容はとても簡潔だった。
「…ありがとう、アルテミス」
手紙を掲げてそう言うと、アルテミスは真っ赤になってしまった。
「え?なに?なんて書いたのアルテミス!理央君は渡さないよ!?」
「心配しなくても俺は涼音のものだから安心してね」
そう言いながら俺は悠君と保険をかけたとある人物へメールを送った。
悠君はその内容を見てか、ふっと笑い、とある人は貸し2にしていいよなと、半強制的内容が帰ってきた。事前に条件はつけたから、大丈夫だとは思うけど、怖いんだよなあ。
まあいい。これならば大丈夫だろう。
俺は午前と比べ、楽な気持ちで午後の授業を受けることができた。
そして、放課後。涼音やラファ、アルテミスがなんだかウキウキしている。いやまあ理由は想像つきますよ。
「り、理央君」
もうすぐだろうか。
「ん?」
「えっとね、今日バレンタインじゃない?」
「そうだね」
「だから、チョコ作りました。3人で、あ、悠さんにもあるよ!」
「ああ、ありがとう」
「まず理央君にあげちゃうよ!」
そう言ってカバンから保冷バッグを取り出した。
「ごめんけど、後でね」
そう言って俺は氷剣を生成。悠君も槍を顕現させ、アルテミスは実体化して矢をつがえる。そこにチョコの入ったバッグと、軽傷を狙った短槍が降ってくる。
それを視認した涼音はスカートの中に隠したホルスターから銃を抜き取り、ラファは即座に氷の盾を展開する。
第1波防衛成功。第2波は数十人の男子生徒。ひとりひとり、大怪我をしないように無力化して行く。だが流石に人が多く、5人ほど涼音に接近することを許してしまう。
大勢でくることはわかっていた。ここで保険が活きてくる。
「《炎獅子王》!!!」
涼音に襲いかかった5人は綺麗に吹き飛んでいった。
「ありがとう、比嘉さん」
「ん、ここで貸し1つ使うわ、名前で呼べ」
「あー、じゃあありがとう亜由沙さん」
「ん」
反応は素っ気ないが顔は真っ赤だ。すーぐ俺に襲いかかる癖さえなければ可愛いのにな。
亜由沙さんの使い魔、《炎獅子王》は《幻装型》と呼ばれ、自身がその使い魔の力を使用して戦うタイプで、世の中に数個しかない珍しい物だ。
「理央君の保険は比嘉さんだったか。普通の人選だね」
「文句あんのかよクソイケメン。顔面の形変えるぞ」
「2人ともー、喧嘩はよしてよね」
俺は呆れ顔で2人に言う。この2人は相性がすごく悪いのだろうか。
まあああは言いながらも涼音を守るように立ってくれているのはありがたい。
そして第3波。これがメインだろう。山野君がいる。
俺は氷剣を山野君に向ける。どう解釈されるかは、分かりきっている。
山野君は大剣を構えて突進してくる。刹那左眼が熱くなる。《魔眼》の解放。氷剣の腹で大剣を上手く滑らせて流し、掌底打ちを鳩尾に叩き込む。そして下がった頭に軽く蹴りを入れバックステップを踏んで距離を取る。
「目的は何なのさ」
「テメーを殺すんだよ」
「は?」
解し難いことを言われ、混乱する。その表情を見た山野君はニヒルの笑みを浮かべた。
「もう遅え!死ねッ!」
気配を感じる。学校近くのビルの屋上から、銃口が見えた。狙撃か。そう認識した時に2つの発砲音が鳴り響いた。1つはビル。もう1つは、俺の後ろ。涼音が撃ったものだ。
俺の《魔眼》が捉えたのが本当ならば、涼音が銃弾に銃弾をぶつけたのだ。人間離れしている。
そんな俺を見向きもせず、弾倉を入れ替えて2発目を発射。注射器に似た形の弾丸はビルの屋上にいる狙撃手の首に刺さる。するとふらりと体が揺れ、倒れた。
もう1度涼音を見ると今度は目が合った。涼音はニッコリと笑い、悠君に保冷バッグを持っていてもらったのだろう。悠君から保冷バッグを受け取った。
俺はまた山野君を見る。
「それで、どうするの」
「俺直々に殺すしかねえだろ」
「そこまで。これ以上は流石の僕も激おこだよ」
突如として響き渡る声。当学園理事長の神楽友濂さんだ。大きな鎌を持ってこちらへ歩いてくる。
「少しおいたが過ぎるね」
「うるせえッ!」
山野君が理事長に向かって走る。が、理事長はいつの間にか山野君の背後を取っていた。
そして鎌の斬れない部分で地面に叩きつけた。山野君はピクリとも動かなくなる。
「さて、理央君、すまなかった。君を囮のように使ってしまって」
「わかった上でだったんですか。命狙われてましたよ」
「ああ。でも、君はもう既に守られているから大丈夫だと思ってね。涼音さんもありがとう。狙撃手生け捕りできたよ。さっき美里から連絡が来た」
「そうですか」
「それじゃ、加害者のみんなには聞きたいことがあるから残りなさい。理央君たちはすぐに帰るように。事情説明は僕が理解してからでいいよね」
「はい。お願いします」
俺はぺこりと頭を下げ、校門へと歩いていく。そして校門を出たところで涼音が俺の袖をクイっと引く。
「はいこれ。チョコ。手作りなんだよ」
「ああ、ありがとう。涼音」
「ん、りお、わたしからも」
「ラファもありがとうな」
すっと俺の視界にラッピングされた箱が入ってくる。アルテミスからだ。
「アルテミスもありがとう」
そう言うとアルテミスは照れて姿を消してしまった。
「桐生」
そう呼ばれ後ろを振り返る。すると亜由沙さんが箱を投げて来た。
「チョコだ」
「うん。ありがとう」
「ふん、義理だし」
そう言って亜由沙さんは帰ってしまった。
こうしてバレンタインは終わりを迎えた。彼らが言う悲劇ってのは、俺を殺すこと。確かに、俺にとっても、涼音やラファたちにとっても、悲劇になり得るだろう。
それを俺は嬉しく思う。結果生きていたからそう思えるだけだろうが、俺はいい仲間に恵まれていたんだと実感することができた。
***
僕は加害者のみんなへ質問を終えた後、理事長室へ戻り、椅子に座って目を閉じた。
「さてと、全員が山野君の指示だと言ってたよ。まあそれはどうでもいいわけだけどね。潜入調査お疲れ様。《レギュニオン》の情報を掴めたかな?」
僕は瞼を開け視線を上げ、彼を見据える。
「どうだい?山野君?」
すると山野君はつまらなさそうに僕を見た。
「あんたが知らねえ情報は1つしかなかったぜ」
「いい収穫だ。話してもらおうかな」
「当たり前だ。俺の主人はテメーだからなァ」
新たな組織の名前出て来ましたね。一体なんなのでしょうか。そしてあの意味深な言い方の裏には何かあるのでしょう。
今後の展開にご期待ください。
いい意味で裏切れるよう頑張ります。




