じゅうろく バレンタイン間近に
バレンタイン1章分で終わると思ってたんですけど、次まで続きます。長い目で見まもっていただければ幸いです!
三学期に突入してもクラスの雰囲気は大きく変わるはずもなく、慌ただしかった。何故かと言えば、3週間後の学期末テストが影響したからだ。進級が危うい人はここで点が取れないと仮進級、最悪の場合留年だ。
テストはあっという間と言っても過言ではないくらいにすぐに終わった。涼音も無事に突破できたようだ。
俺はというと、10点以下を取れば仮進級と言った状態だったので、普通にいけた。
それから数日後、俺は悠君に呼ばれ校舎裏に行く。一人でと言われたのでラファを涼音に預けてきた。それにちょうど、悠君に相談しようと思ってたし。
校舎裏に着くと悠君は少し元気がなさそうに見えた。
「悠君?」
「ん?ああ、来てくれてありがとう」
「いや、ちょうどよかったよ。悠君に相談しようと思ってたことがあるから」
「そうなのかい?嬉しいね。ああでも、僕からでいいかい?」
「うん。もちろん」
快諾すると悠君は嬉しそうに微笑む。ほんとにこいつはイケメンだなあ。
「実は、こんな手紙が下駄箱に入っていてね」
ラブレターかと思ったが、そんなものいちいち俺に報告しない。俺は何となく既視感を感じながら手紙の内容に目を通す。そして、既視感の正体がわかった。
「これ、俺の下駄箱にもあったよ」
俺は鞄から手紙を出す、封筒や字の形が同じだ。だから既視感があったのだ。
内容は、『バレンタイン当日、悲劇が襲う』、だ。
「理央君もか。この手のものは過去にあったが、やはり気分のいいものではないね」
「こんなの貰って気分いいやつとかいないよ。にしても、悠君はわかるっちゃわかるけど、何で俺にも?」
「…彼女持ちだから?」
「彼女持ち他にもいっぱいいるけどね。俺たち以外にも届いてるのかな」
「いや、どうやら僕たちだけだそうだ。昼休みの時間にある程度聞いておいたからね」
二人してうーんと考える。単に悪戯で、実行しないパターンもあり得るが、妙に胸騒ぎがするんだよなぁ。
「とにかく、当日は警戒しよう。悪戯で終わればそれでよしってことで」
「そうだね。何かあったら、都度連絡しよう。じゃあ」
「うん、またね」
よし、ラファを迎えに行くか。カウンセリング室で待ってるはず。
ドアをノックするとどうぞと声がかかる。
「失礼します。涼音、ラファ、おまたせ」
「結構早かったね。何の用だったの?」
俺は迷う。話していいのだろうか。悲劇が襲うと書かれていたので涼音やラファにも危害が加わる可能性がある。
「話しちゃいなよ!」
「はなしちゃいなよ!」
「んー、じゃあ、簡潔に」
俺は悠君と話したことを告げる。
「それって悪戯?」
「ならいいんだけどって感じだね。とにかく当日は警戒してるから安心して」
「わかった。信じてるね」
「ああ」
「じゃあその話題終わり!12日はラファちゃんを借りるね!」
唐突に何を…あっ、あー、多分あれかな。今月2月だしね。
「わかった。その日は午後から理事長に会うし、午前は掃除でもしとくよ」
「ありがと!ワガママを言うとお昼ご飯作りに来て欲しいです」
「ん、わかった」
***
12日。天羽家に3人の乙女が集まった。私とラファちゃんと、私の使い魔であるアルテミス。アルテミスが作ると言い出したのは、とても意外だった。
「材料よし、早速作っちゃおう。何作るか決めてないけど!」
「おー」
ラファは小さな声で返事し、アルテミスは腕をちょこっとあげただけだ。どこか盛り上がりにかけるような気が…まあいっか。
「2人は何作りたい?」
私は2人にレシピの一覧を見せ、選ばせる。
『チョコ簡単作り方』で検索したから、どれを選んでもできなくはないはずだ。
私もラファちゃんの後ろからレシピの一覧を見る。んー、私はチョコブラウニーにしようかな。
「すずね、わたしこれ」
ラファちゃんが指差したのはスプーンチョコ。スプーンにチョコを流し込んでデコレーションしたもののようだ。
「おお、可愛いね、了解。アルテミスは?」
聞いてから気づく。アルテミスはこういう決め事は結構考えるタイプだ。まだ決まっていないだろう。
「別に催促してるわけじゃないから、ゆっくり選んでいいよ」
そう言ってアルテミスに微笑みかけるとアルテミスも微笑んでくれた。そしてたっぷり時間をかけて、指を差した。
石畳チョコと書かれている。生チョコの事のようだ。
私はレシピを見ながら足りない材料をピックアップし、3人で買いに行った。
その後理央君を呼んでお昼ごはんを食べる。食べ終わってすぐ理央君は理事長に会いに行ってしまった。なので少し休憩し、チョコ作りに取り掛かる。
まずスマホが一個しかないので紙にレシピを写す。チョコを刻んで湯煎する作業をローテーションしながらした後、各々が必要な作業を進める。ラファちゃんのつまみ食いの頻度が多く、止めるのが大変だったが何とか完成にこじつけた。
「うーん、案外早くできたね」
「そだね」
アルテミスもコクコクと頷く。器用なのか、アルテミスが1番美味しそうに見える。最後ら辺はアルテミスが教えてくれたまであるし。ちょっと、羨ましい。
準備は完了。明後日が楽しみだ。
***
「おまたせしました。理事長」
「ん、ああ、こんにちは。急にすまないね。立ち話も何だし、カフェに入ろうか」
「はい」
理事長について行くと、隠れ家的はお店があった。店内はレトロな雰囲気があり、どこか落ち着く。
「とりあえず頼んでいいよ。僕の奢りさ」
「ありがとうございます」
礼を言ってメニューを開く。1番安くて750円。お高いなあ。
「じゃあ、ブラックで」
「わかった。マスター、僕にはいつもの。彼にブラックを」
注文を受けたマスターさんは黙ってコクリと頷いて豆を挽き始めた。
「さて、早速でごめんけど本題に入らせてもらうよ」
「はい」
「この手紙、理央君にも届いたそうだね?」
テーブルに置かれたのは脅迫文の書かれた手紙そのものだった。
「そうですけど、どうしてそれを?」
「桐谷君から相談されてね。そこで話した内容とかを理央君に伝えた方がいいと思ってね」
「なるほど、それでどうだったんですか」
「僕で調べられることは全部調べたよ。一応、書いた人物は特定できた。それは…」
途中で止められる。何事かと思ったが注文した品が届いたのだ。俺はブラックコーヒーを一口飲む。口の中に苦さが一瞬にして広がる。でも単に苦いだけでなく、深いコクがある。お高いだけあるな。
俺はコーヒーを置き、目で話してどうぞと伝える。理事長もカフェオレを置いて口を開いた。
「書いたのは1年の鳴海咲玖という女の子なんだけど、知ってるかい?」
「いいえ、面識はないですね」
「桐谷君もそう言っていたよ。僕はね、彼女は巻き込まれただけだと思っている。普段が真面目なこともそうなんだけど、彼女自身、支援重視の性能だ。使い魔もまた然り」
「彼女自身が悲劇を起こす確率が低いってことですか」
「ああ、それに彼女は周りに流されがち。脅迫できるカードが1枚あれば、こんな手紙書かせるのも簡単だろう」
「理事長はそもそも悲劇が起きない。悪戯だって考えはないんですか?」
「ないね」
即答だった。ここまではっきり言われると、驚こうにも驚けないな。さて、《世界の頭脳》はこの事態を一体どこまで把握してるのやら。
「わかりました。ではその、鳴海さん?の周辺を警戒してみます。学生の分際じゃたかが知れてますけど」
そう言うと理事長はうーんと唸りながらカフェオレを飲み干す。
「こうも信頼されるとむず痒いね」
「信じて欲しくないって言うなら、追求しますよ?」
「いや、桐谷君も同じ反応だったからついね。それじゃ僕ももうちょい調べてみるから」
理事長は会計を済ませ、店を出る。俺はゆっくりと味わいながら飲み干し、帰路を辿った。
***
翌日、俺は鳴海さんの挙動を監視してみた。しかし黒幕に接触する気配もなく、かと言って彼女が何かできるような人に見えなかった。理事長が言ってた通りだ。
悲劇ってのはなんなんだよほんと。少し、イラついている自分がいる。流石に涼音やラファに危害が加わるとは思えないが。
とにかく鳴海さんだけを警戒するのは違う気がする。もっと、全体的に見るべきかも知れない。例えば、男子共挙動とか。俺と悠君に手紙が来たってことは目の敵にしているのは男子だろう。
悠君は何か情報を得れただろうか。昼休みに会いに行ってみよう。それまでは自分の目で情報を集めるしかない。
授業は教師陣には悪いが寝させてもらった。起きててもどうせ頭に入らない。そのお陰で昼になるのが早く感じたのは幸いだ。涼音にラファを一時預け、悠君の元に走る。
「悠君」
「ん、理央君か。ちょうどよかった。場所移そうか」
俺たちは教室を出て渡り廊下へと向かう。
「男子の挙動が変だと思わないか?」
「思う。やけにちらちら見られるし、肩がぶつかる回数がえげつないし、すれ違う度に舌打ちされたり」
「僕も同じだ。というわけで行こう」
「どういうわけでどこに行くの」
「鳴海さんのところ。拷問に行こう」
超がつくほど爽やかな笑顔でそう言ってスタスタと歩いて行ってしまう。そっかなるほど拷問かぁ。確かに情報を聞き出すならそれが一番良い…ってダメだろ人として終わる!
「え…ちょ、まっ、待って悠君!流石にそれはどうかと思うんだぁぁぁぁぁぁああああ!!!」
そう叫んでも悠君は止まらず、見事(?)に掻っ攫って来てしまった。場所はさらに移して4階と屋上を繋ぐ階段の踊り場。男2人か女の子を囲む構図ができていた。俺は壁要員でしかないと信じたい。いやもうこの時点で共犯なんだけどさ。
「さあ吐きたまえ。黒幕の正体。この手紙を君が書いたのは裏が取れているんだ」
あれは裏を取れているのだろうか。理事長を疑うわけではないが。まあいっか。
鳴海さんはそう問われ少し動揺したのか、肩がびくりと震え、金眼が泳いでいる。長い黒髪で大部分が隠れていても見えた。
「言わないなら、仕方ないかな」
そう言っておもむろに手を鳴海さんの腰辺りに…
「ちょ!悠君何するの!?」
「拷問って言ったくない?」
「言われたけどさ!しつこく聞くだけで良いと思うんだ」
「理央君は甘いなあ」
もうこの際甘かろうがどうだって良い。人の道は踏み外したくない。
「んー、別に人の道は踏み外す気はないよ?」
「どうだか。とにかく変わって」
「ほう?理央君が拷も」
「しないよ!」
俺はごほんとわざとらしく咳払いした後、鳴海さんに向き直る。
「お願いだから答えて欲しい。この手紙を書かせたのは誰?」
「瀬崎君」
あれ、意外と素直?瀬崎って、誰だっけ。あー、多分あいつだ。山野君のグループにいる、虎の威を借る狐という言葉がこの上ないほど似合うやつがいたな。思い出した思い出した。
「山野君は絡んでるのかな」
「…」
「答えて」
「ッ………」
「答えろ」
俺は鳴海さんの目を間近で凝視する。すると鳴海さんは決まりが悪そうに目を泳がせ、口をやっと開いた。
「か、絡んでます」
「ふーん」
「り、理央君が怖いな」
「うるさいよ悠君。それで、バレンタイン当日に何をするんだ」
「それは聞かされてないし、調べても分からなかったです」
「そっか」
「あ、あの…そろそろ…」
「ん、ああごめん。ありがとう。さて悠君、聞きたいことは聞けたよ」
「お、おう、そうだね」
ん?何故引いているんだ?まあ良い。これで多少はなんとかなる気がして来た。あとは、当日を迎えるだけだ。
できる限り間を空けずに投稿できたらと思っていますので、よろしくお願いします!
次回はバレンタイン当日ですよ!




