じゅうよん 最弱、新たな一歩を行く
ここから、日常パートが続きます。よろしくお願いします。
真実を突きつけられたその翌日。真実を受け入れられた自分がいた。母さんのことをあまり覚えていなかったのが、幸いしたのか、心の拠り所があるからなのかは定かではないが。
学校はいつもと変わらずだ。変わったのは、涼音との関係や、ラファとの信頼度くらいだろう。その2つは俺の心の中に大きく影響した。これは、真実を受け入れられたのはやはり2人の影響の方が大きいのだろうか。
放課後。俺は用があって理事長室に向かう。母さんの手紙に記されていた人物の事を、そして、理事長と母さんの関係を知りたかったから。涼音には悪いが、先に帰ってもらっている。
俺はこんこんと2回ノックし、扉を開ける。
「や、理央君」
「こんにちは、理事長」
「どうしたのかな。用があるって聞いたけど」
「母と顔見知りだったんですか?」
単刀直入に言うと、理事長は隠す様子もなく頷く。
「ああ、彼女はなんというか、破天荒だったかな」
「…そうですか」
「ああ、関と一緒に振り回されていたものさ。ああ、関は僕の友人ね」
「その関さんって方、今どこにいますか?」
「住所、教えようか?」
「何も聞かないんですね。お願いします」
「聞かずともわかる、とまではいかないけど、なんとなく察しはつくから。はいこれ、住所ね。行ってらっしゃい」
「はい」
一礼して理事長室を出ると、ラファが抱きついてくる。
「お待たせ。行こっか」
「ん」
俺はラファの手を握り、歩き出す。学校から歩くこと20分。ようやくたどり着いた。
ドアを開けると、中には雑貨屋らしい小物が多く売られていた。
「いらっしゃい。初めて見る客だな」
「こんにちは。貴方が関さんですか?」
「おうとも」
彼を見てまず思ったのは、すごい筋肉だ、だ。見たところ見せる筋肉ではないことは、素人目にもわかる。彫りの深い顔やスキンヘッドなことから、少し怖い印象を受ける。ラファはちょっと怖がってるし。
だが、それは間違いなようで、にっこりと笑いかけてくれた。
「お前、美耶奈の息子さんだろ」
「そ、そうです。なんでわかったんですか?」
「んー、面影がある。目とか鼻筋とか似てるぞ。あと髪質ってか?そのサラサラ感にじみ出てる感じとかも」
「そ、そうですか」
「まあ、友濂から美耶奈の息子が来るって聞いてたけどな。似てるのは本当だけど」
そう言ってがははと、豪快に笑う。それにつられて、俺も笑ってしまった。
「…んで、要件は…弾薬でいいのか?」
「あっはい。お願いします」
「ああ、ちょっと待ってろ」
関さんが裏に行ったのを確認してから俺はラファに話しかける。
「そこまで怖がらなくても大丈夫だぞ?」
「わかってるんだけど、こわい」
「まあ、見た目に関しては仕方ないでしょうに。でも、悪い人じゃないでしょ」
「うん。それはだんげんできる」
「そっか」
ラファが断言できると言った。なら信じるしかない。元々何かあるのではなんて疑ってなどいないが。
それからラファと店内を見回っていると、関さんが戻ってきた。
「待たせたな。確認してくれ」
ケースを開けると、弾薬が引っ付いている変な器具があった。
「これは?」
「まあ美耶奈使ってなかったし、知らないのも無理ないのかな。スピードローダーだよ。銃は持ってるか?」
「はい、持ってますよ」
「貸してみ。実演してやる。地下に射撃場があるからそこでやるか」
エレベーターに乗り、十数秒ほどで止まり、ドアが開く。そこにはよく海外映画なんかで目にするような射撃場があった。
「お前はどうやって撃つんだ?やってみてくれ」
「あ、はい」
俺は氷剣を生成。逆手に持って右腕を上に腕を交差させた。そして全発射。しかし反動の大きさ故に的に当たったのは初弾のみだった。
「まあ、剣がメインな以上、銃は牽制目的に使うことが多いだろうし、初弾は正確に頭打ち抜けてるから、まあいいか。リロードはどうやるつもりだ?」
「どうしましょう」
「うーん、じゃあもう投げちまえ」
「あー、いいかもしれませんね」
「それじゃ、投げました。したら右手で弾倉を振り出して、弾を吐き出せ。そんでスピードローダーの出番だ」
6発の弾丸が円形の器具に引っ付いている。関さんは俺から取った銃の弾倉にそれを突っ込んだ。6つの弾は弾倉にすっぽり収まり、持っていた突起部分を押し込むと、器具から弾が離れ、全弾装填された状態となった。
「おお、すごい」
「入れて押し込むだけだ。簡単だろ?」
「はい。ありがとうこざいます、色々と」
「どってことねえよ。何回か練習してくか?」
「いえ、晩ご飯の用意もありますし、帰ろうと思います」
「そうか、気をつけてな」
俺は深々と頭を下げて、エレベーターに乗る。関さんは2〜3回手を振ってアサルトライフルらしきものを構えた。そして、姿が見えなくなるとほぼ同時に銃声が鳴り響いた。
***
12月に入り、寒さは一層増したように思う。俺は冷たい水で顔を洗い朝食の準備を開始した。目玉焼きにウインナー白米に味噌汁の予定だ。目玉焼きを作りながら弁当に入れる卵焼きを作る。流石に冷凍食品オンリーはやめた方がいい気がしたからだ。目玉焼きにと卵焼きをほぼ同時に焼き上げ、冷凍食品を電子レンジに入れる。数種類解凍している間にウインナーを焼き、効率よく作っていく。
ラファが来て、いじめがなくなってからずっと弁当を作り続けてやっと慣れて来た。料理自体はできたものの、手際は良くなかったからな。なんて考えるくらいにも、心の余裕がある。
仕上げに弁当に詰めていって、ラファを起こしに行く。起きたのを確認してから白米と味噌汁を茶碗によそう。
朝ご飯を食べ、数分くつろぐと、家を出る頃合いとなる。
「行こうか」
「うん」
俺は外に出て、戸締りを確認してからラファの手を握って歩き出した。
しばらく歩くと一軒の家を捉える。その玄関からたった今、涼音が飛び出してきた。
「おはよう、涼音」
「うん!おはよう理央君」
ここまではいつもと変わらない。ここから俺は初めてこちらからデートに誘う。
「ねえ涼音」
「何?」
「クリスマスイブの日、予定空いてる?」
「え?空いてるけど」
「じゃあさ、デートしよう。その日」
照れ混じりに言うと、涼音はパァっと表情が明るくなって行く。
「行く!絶対行く!理央君から誘ってくれると思ってなかった!ありがとうね!」
「こんなに喜んでくれたなら嬉しいよ。じゃあ約束だよ?」
「うん!」
涼音は心底嬉しそうに笑って、俺の手を握ってきた。そうしてそのまま学校に向かった。
その数日後、俺はラファ、悠君の3人でショッピングモールに来ている。クリスマスイブで涼音にプレゼントでもと思ったのだ。
しかし何が良いのだろうかが全く分からずウロウロしている。
「どうしようかな」
「りおがえらんだものならよっぽどへんなものじゃないかぎりだいじょうぶ」
「そうだね、独特な物は避けるべきだね」
「いやそれくらいは俺でもわかるよ…」
「何か言ってたことはない?これが欲しいなーとか」
「……対物ライフルかな」
いつだったか、そんな話をした気がする。銃のことについてやたらめったら話されついて行けず、早々に理解するのを諦めた記憶がある。
「んー、流石にそれは…」
「ないね」
その時、ふと視界に入ったのはアクセサリーショップ。アクセサリーの類はプレゼントとして無難だろう。
店内に入り物色していると、1つのネックレスを見つけた。
「いいんじゃないかな」
悠君が覗き込んでそう言う。
「だね」
少々、高いネックレスだけど、ギリッギリ買えないこともない。校則でアクセサリーの類は付けすぎてはいけないだけだし。
「これを買うよ」
俺は決心し、レジに並んだ。
それから服を調達し、デートの準備を済ませた。
クリスマス、初詣、バレンタインデー、ホワイトデー。次で全部ぶっ込んじゃうかもしれません。ひとつひとつ短い短編のように仕上げようと思います。




