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じゅうさん 最弱の過去

理央の過去が明らかになります。


眩しさを覚え、俺はゆっくり目を開けた。時計を見れば9時を指していた。

涼音とラファはぎゅっと身を寄せて寝ている。


「9時か。起こした方がいいかな。涼音、ラファ、起きてー」


「んー、おはよぉ、理央君」


「おはよ、りお」


「うん、おはよう。身支度してね」


「うん。了解」


そう言って、涼音とラファは顔を洗いに行った。

よし、俺も支度しよう。見せたい風景があるし、10時には出発したいな。さて、2人がいないうちにまず着替えをするか。


「わっ」


「ん?」


少しばかり歓喜に染まった声が聞こえ、俺はその方向を見る。すると涼音が手で顔を覆っていた。と言っても指の間からしっかりと見ていたが。


「うーん、そんなに見られると流石に、ね」


「ご、ごめんね」


「うんだから見過ぎだって」


一向に目線を外してくれなさそうなので俺は気にせず上も下も着替える。もうあれだ。気にしたら負けというやつだ。


「脱衣所にいるから着替え終わったら言ってね」


「はーい」


そうして、支度を済ませた俺たちは朝食を食べるために小さなカフェに入る。そのカフェを出る頃には10時を回っていた。


「そろそろ行こっか」


「どこに行くの?」


「んー、俺の思い出の場所の1つだよ」


歩くこと40分。海や森などを見ながら、目的地である大規模な公園へ着いた。

1周2キロあるサイクリングロードに囲まれた芝生。端には大きなアスレチックが3つあって、中央には道具を借りたり、お菓子が買える施設がある。

そして奥には海を一望できる場所がある。そこが俺の思い出の場所の1つで、そこへ繋がる道は半ば獣道のようになりつつあった。

5分ほど歩くと視界が開け、海が一望できる断崖に出た。安全のためか、木の柵が設置されてある。


「いい眺め。海きれい!」


「でしょ。ここにくると心が落ち着く気がしたんだ」


ここに最後にきたのはいつだったか。父さんがいなくなるちょっと前だから、7〜8年前とかかな。時が経つのは早いものだ。


「理央君」


「ん?何?」


「私たちがいるからね」


「どうしたのいきなり」


「悲しそうな顔、してたから…」


「ッ…ごめん。ありがと」


「どういたしまして。時間大丈夫?」


「んー、まだ大丈夫だよ」


行き帰りで1時間半かかるが、10分くらいならゆっくりできるだろう。俺は腕時計を見てそう判断した。


「じゃあお菓子と飲み物買おう!私駄菓子あんまり食べたことないし」


「そうだね、行こっか」


それからは買ったお菓子や飲み物を飲み食いしながら来た道を戻る。

そして悠さんと待ち合わせした場所に時間ぴったしに着く。


「お待たせ。悠さん」


「ああ、じゃあお昼ご飯食べに行こうか」


「そうですね。そろそろお腹すきましたし」


そしてどこで見つけたのか、隠れ家的料亭で海の幸を味わった。それから数分後。


「理央君」


「ん?」


「そろそろ僕の呼び名、呼び捨てにならないかな?未だに距離を感じるよ」


「ああ、そうだね。じゃあ、呼び捨てで呼ぶね」


「ああ、ありがとう。ところで理央君」


「何かな、悠…君。ごめんやっぱ君付けで」


「いいよ、それでさ。いつまでここで待てばいいのかな?」


「んー、あと10分だね」


「…もうかれこれ1時間待ってるよ?」


「バス少ないからね。仕方ない」


現在バス停でバスを待っている。田舎なので1時間に1本はざらにある。


「まあいいか。暇だしお話でもしよう」


「どんな話するの?」


「理央君は、ラファエルと《パス》は繋いでるかな?」


「何それ俺知らないんだけど」


「まあ、一般的に2年になったら習うものだからね。5割の高校1年生は知らないと言われてるから仕方ないよ」


「理央君そういう知識に疎い気がしてた」


「す、涼音は知ってたんだ」


そう聞くと、涼音はまあねと、胸を張って言う。


「それで、何でこの話したの?」


「今まで見てたけど、魔法を全く使わないからおかしいと思ってね。いくら魔力が少なくても、《パス》を繋げば一応何かしら使えるはずなんだ」


「そうなんだ。初耳」


「ラファエルは知ってるんじゃないかな」


悠君がはウトウトとしているラファに問う。数秒考えるようにんーと唸ってからこちらを見る。


「うん。しってる」


「じゃあラファちゃんから繋いで貰えばいいじゃん。ちなみに《パス》繋いだら理央君どんなのが使える?」


それ俺の疑問では?思ったが、どうせ聞くことだったし、スルーする。


「んーとね、じぶんでけんだせるとおもう。こおりのけんつかうまえまでは、ふつうのけんけんげんさせてつかってたし」


「…だけ?」


「んー、はんいないににんいでこおりつくれるとおもう。あとびりょうのたいりょくけいぞくかいふく。そのくらいかな」


「少ねえ」


「ラファエルのスペックが高いからね。そんなものだと思うよ」


「そうだね。ラファ、すぐに《パス》は繋げられる?」


「もうつなげた」


「仕事が早いな。ありがとう」


俺はラファの頭を撫でる。そこで、待ちに待ったバスが到着した。


「よし行こう」


「やっとか。田舎は少し不便だね」


「それを補って余るくらいには良い所もあるよ」


それからバスに揺られること1時間。ようやく目的地近くのバス停に着いた。


「ここから山道を歩くよ」


「どのくらい?」


「んー、30分くらいかな?」


「わ、わー」


涼音が嫌そうな顔をする。仕方ない。俺も怠いと思っている。でも、探さなきゃ。


「つべこべ言ってても始まんないし、行こう!」


「まあ良い運動にはなりそうだ」


「悠さんはポジティブですね…」


それからたわいのない会話をしながらひたすら歩く。俺は万が一に備えて右手に耐氷手袋をつけた。そして少し広い道に出た刹那、俺は氷剣を顕現。悠君はコンマ1秒早くも槍を顕現。襲撃者の一閃を悠君が止め、俺が襲撃者に向けて氷剣を投擲。それを回避した襲撃者に涼音が銃撃。しかしそれすらも、彼は避けた。俺は彼を睨みつけ、問うた。


「…何の用かな。父さん」


「本当は回収して、撤退するつもりだったんだがな。見つからなかった。だから、始末しようと思ってな」


「…涼音、悠君。俺の母さんの形見の銃を探してきてほしい。俺は、ここで足止めする」


「…わかった。気をつけるんだよ?」


「すぐ戻ってくるからっ!」


「行かせるか」


父さんは懐から針のようなものを取り出し投擲。しかし涼音は見切っていたのか、正確にそれを撃ち抜く。


「気をつけてね!理央君」


「ああ、そっちもね」


俺は左手にも耐氷手袋をはめ、氷剣を顕現させた。


「ラファ、 こっちから指示を出せないかもしれないけど、援護よろしくね」


「ん、まかせて」


父さんは何も言わず、刀を構える。俺も氷剣を構えて攻撃に備える。

ラファと《パス》を繋いだことで、俺でもほんの少しだけ魔法が使える。まず自分で氷剣を作り出すことができる。他には心臓部を中心に半径2メートルの範囲内ならばどこでも氷や水を生成できる。聖の属性は適性がないようで使えなかった。回復に関しては体力の継続回復のみ。十分だ。

俺は体力の継続回復を使用して、靴裏に氷で棘を作って走る。

激しい剣戟。素人の剣で剣豪の剣戟を受けきるのはやはりきつい。それでも対等に渡り合えているのは、ラファの的確な援護のおかげだ。もう俺は、弱くなんかないんだ。そう思うと、自然と熱くなる。眼が燃える。

父さんは《魔眼》が発動しても動じなくなっていた。あの時は持っていると思っていなかったということだっのか。


「お前に真実を話してやる」


鍔迫り合いになった時、父さんがそう言った。そしてその話を聞いた俺は、動揺した。


***


森を進むと、教会があった。ここに、理央君のお母さん、1級退魔師桐生美耶奈の形見の銃があるのか。

悠さんと教会に入ると、すぐ目の前の祭壇に、それはあった。なんで理央君のお父さんはあんな所にある銃を見つけられなかったのだろうか。


「あれかい?」


「うん。あれ。間違いないよ」


「魔術結界があるけど、大丈夫かな」


「それが箱、なのかな。解除しないとだね」


私は魔術結界の解除に取り掛かるするとギィと扉が開く音がした。


「涼音さんは気にせず解除して。僕が相手をする」


チラと見ればそこには黒いオーラを纏った悪魔にも似た異形があった。


「任せます。アルテミス、悠さんの援護してて」


一言命令するとアルテミスはふっと現界し、矢をつがえる。私は解除しながら理央君からこっそり渡された美耶奈さんからの手紙を読む。文と文の間が空きすぎているように感じた。


「解除できた!」


5分ほどで解除が完了し、銃を取る。シリンダーを振り出し、弾薬を確認する。ひとつだけ魔術印が薄く掘られており、雷管の部分に青色のペイントがされてある。これが特殊弾か。でも手紙にはもう一つ別の特殊弾があるはず。銃をあちこち見ていると、銃把部に雷管部に赤色のペイントがある弾薬がセットされていた。銃把が少し長く感じたのはセットするスペースがあるからだった。


「悠さん!」


「道を開く!先に理央君の元に行って!」


「うん!ありがとう」


私は新しく文字が浮かんだ手紙を握りしめ、走る。早くしないと。この銃がないと勝てない。


***


「ッ!それは嘘だッ!!!」


「嘘、か。そこの使い魔なら知ってるだろうに。お前が記憶を書き換えられて、母さんが事故死したと思ってる。目も不慮の事故とな。実際は違う。私が、殺した。記憶の書き換えも私がやった。待ってやるから聞いてみろよ」


「…ラファ、本当なのか?」


睨むようにラファを見ると、ラファはスッと目をそらす。ああそうか。本当なのか。


「…絶対に殺す」


刹那、左目が燃えるように熱くなる。

爆ぜるように駆ける。先程よりも速度が増している気がしたが、あまり気にならない。

一撃一撃が鋭く、自分自身攻撃の手を緩めることができない。ラファの援護があれば、殺せる。そう確信したのに、俺は攻撃を止めざるを得ない状況になった。氷塊が俺の頭に直撃したのだ。


「…ラファ?」


「だめ。りお、それはだめ」


「………すまん。ありがとう」


正気に戻れた。流石にさっきのは、危なかった。


「ふん、耐えたか」


面白くなさそうにそう言い捨て刀を構える。さて、正気に戻れたのはいいけど、どうやって勝てばいいのか。


「理央君!」


呼ばれて振り向くと、真紅の銃が目の前に飛んでくる。母さんの形見の銃、スカーレット・リボルヴだ。

銃把部には俺が渡した手紙が巻かれてある。急いで確認すると、変な文字が浮かんでいた。俺はこれを知っている。母さんのことを調べてみたときに、関連事項にあった退魔光印。悪魔が見れば激しい苦痛を与えるトラップだ。

何故これを仕掛けた?母さんは、父さんにこれを見られたくないんじゃ。

ここまで考えて、一つの可能性へと至る。

俺はシリンダーを回し6発目で特殊弾が発射されるように調整し、左手で持つ。そして右腕を上にしてクロスさせ、発射。走り出しながらシリンダーが回ったのを確認して2発目も発射。そして即座に突きを繰り出す。しかし弾丸は1発だけ父さんに向かって飛んだが、2発目は明後日の方向へと流れる。そのため弾丸は大した牽制にならず、突きを流される。弾を確実に当てたい場合は零距離射撃しかないだろう。


「甘いなそれじゃ届かない」


「ッわかってるよ」


ーラファ。


ーなに?


ー頼みがある。


俺はラファに作戦を伝え、駆ける。一閃の後至近距離で発射。距離を開けられたところでもう1発発射。刀で弾丸を捌いた隙にまた接近。かなり無茶をし、体力が持ちそうになかったので、ラファには体力の回復をメインとさせている。

激しい剣戟の中、タイミングを伺い、見極める。そして俺は振り降ろすと同時に自分の意思で氷剣を爆散させた。あの時と同じ手だ。

父さんはそれを予期してしていたのか爆散する前に後ろに飛びのいていた。予想通り。

俺は父さんの顔面左横を狙って発射。父さんはまた予想通りに顔を背けて避けた。


ー今だラファ!


合図する。すると父さんの後方から、氷剣が飛来。それに父さんは気づき、ギリギリで回避した。体勢を崩すことに成功した。俺は飛来する剣をくるりと回りながら避ける。その際、氷剣の柄を掴み、遠心力を乗せて斬りかかり、もう1度、爆散。完全に体勢が崩れた所で銃口を胸元に当てる。


「《プッシュ・バレット》」


魔力を込め特殊弾を発射。

刹那、断末魔のような声が響き渡る。そして父さんの中から異形が姿を露わにした。悪魔。母さんが仕事として狩っていた、魔物の一種だ。

俺はすぐさま銃把部にあるもう一つの特殊弾を取り出し、シリンダーを振り出し、セット。

そして、発射。


「《デビルキラー・バレット》」


弾丸は悪魔の心臓に殺到し、貫通。悪魔は声を上げることなく消滅した。


「…父さん」


「………すまない。私のせいで、あいつはッ…」


「どれほど嘆いたって、戻ってくる訳じゃないだろ。俺は、前に進む。止まってられないからね」


そう言って俺は父さんに背を向けて歩き出す。


「理央。お前は…いや、ひとつだけ、聞いてくれないか?」


「何?」


「誰も殺そうと思うな」


「当たり前だろ」


俺は今度こそ、みんなの元に歩く。悠君は、もう時期くるだろう。


「理央君…」


「なあ、涼音。俺は前に進みたい。そのために、涼音にはずっと側にいて、支えて欲しい」


俺は涼音の手を取り、涼音の目をジッと見つめて、伝える。


「涼音、好きだ」


そう告げると、涼音心底嬉しそうに笑って、俺の胸に飛び込んできた。


「んー!わたしもいる」


「ははっ、そうだな。ラファもよろしくな」


ああ、きっと大丈夫だ。2人がいてくれれば、俺は、弱くなんかない。強いんだ。守れるんだ。

絶対に守る。

涼音の頭を撫でながら、そう決心した。眼に赤い光を宿しながら。

理央は大丈夫でしょうか。いえ、なんでもありません!次回はほのぼのとなるかなと思います!

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