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じゅうに 最弱の故郷

理央が故郷に帰ってきたよーっていう話です。


文化祭が終わり、それからしばらく平和な日々が続いた。2学期の中間テストも無事終わった。そんなある日、ポストに一通の手紙が入っていた。


「ん?なんだこれ」


「りお?」


「ああ、ごめん。すぐご飯作るから」


この手紙、気になるけどラファがお腹空かせてるし、後で読むか。

俺は制服のポケットに手紙を入れ、代わりに家の鍵を手に持った。

それからご飯やらお風呂やらを済ませて、ラファを寝かしつかせている。しばらく経つと、スヤスヤと静かに寝息をたててラファは寝ていた。俺は制服のポケットから部屋着のポケットに移していた手紙を取り出す。

そして、手紙の送り主の名前を見て、驚愕する。

桐生美耶奈きりゅうみやな。俺の、母親の名前だった。


***


理央、元気にしてる?この手紙はね、私が今まで生きてたら、自分で回収するつもりだったんだけど、理央の元に来たってことは私はもういないんだね。

それはいいの。いやよくはないけど、今はいいの。

私ね、退魔師なんだよ?すごいでしょ。悪魔を華麗にぱぱーんって、倒してたんだ。

その時に使ってた愛銃がね、『私たちの思い出の場所』にあるの。回転式拳銃、リボルバーって言った方がいいのかな?

それで、それを理央に使って欲しいなって思ってて、取りに行ってくれないかなーってね。名前はスカーレット・リボルヴ。私がぴちぴちの時代に作ってもらったオーダーメイドなの。カッコいいでしょ?実物見たらかっけえ!って絶対なるから!

箱に入れてるけど、きっと埃だの色々詰まってそうで怖いから、ちゃんと掃除してあげてね。弾薬に関しては、関さんを頼って。

友濂君に聞けばわかるはずだよ。確か2人腐れ縁だったから。悪魔には特殊弾を使ってね。効果抜群だから!憑依した悪魔に対してはまた別の弾を使うので注意ね!

ここからはスカーレット・リボルヴの説明だから後で読んでもよし!

スカーレット・リボルヴ

弾倉振出式で、装弾数6。22口径。全長25センチよりは少し短いくらい。長い方がカッコいいって思ったんだよ。ダブルアクションで簡単に連射できるよ!雷管が叩けない!ってならないようにもなってます。

まあ私自身あんまりわからず使ってるから、リロードして撃てればいいんだよ!難しく考えないでね。

頼むね。頑張って。お父さんをお願い。

桐生美耶奈


***


顔しか知らなかった母親が、どんな人だったかが、この手紙だけでよくわかった。涙を流しながら、俺は笑ってしまった。

母親の形見、そういえば何1つないな。そう思った瞬間、是が非でも欲しいと思った。『私たちの思い出の場所』というのも、俺が生まれた所にある何処かの教会だろう。

ここからだと片道7時間以上はかかるけど、行けないこともない。再来週の4連休の時に行こう。ちょっと、コネを使って。

とりあえず俺は寝ることにした。明日は理事長に会ってできれば根回ししてもらおう。どのみち、頼みごとがあったし。

その日、驚く程パッと眠ることができた。

翌日、授業を淡々と受け、放課後。カウンセリング室へと向かった。


「失礼します」


「よお桐生、天羽」


「やあ理央君、涼音さん」


「理事長、少しお願いがあるのですが」


「何かな?」


「ラファの氷の剣を持っても凍傷にならない手袋なんかを作ってもらえればと。あと、飛行機とフェリーの予約をして欲しくて」


この場にいるみんなが何故といった顔をしたので、事情を説明した。


「何それ!私も行きたい!」


「って言われても…」


「何かあったら力になれると思うし!」


「それは否定しないけど…」


「涼音さんに賛成かな、僕は。そうだ、涼音さんを連れて行くなら費用は僕が持つ」


う、それは有難いが、いや、何があるかわからないからこそ、涼音の力が必要かもしれない。


「わかりました。でも出す費用は涼音の分だけで構いません」


「了解だ。再来週の4連休中かな?」


「はい」


「わかった来週辺りで同時に渡すよ」


「ありがとうございます。では」


「ああ、また明日」


失礼しました、と涼音と同時に言って、外へ出る。


「ありがとうね、涼音」


「うんん、理央君の力になりたいから」


そう言って、えへへと笑う。涼音の笑顔を見る度に思う。早く過去を断ち切りたいと。何があったのか知りたいと。

母親の形見である銃が欲しい気持ちもある。それ以上に、何かわかるかもしれないという期待をしている。

それにしても、何故わざわざ自分が退魔師であることを書いたのか。書かずとも母は最強の退魔師で、俺が5歳の頃にはその認識があった。それに、あれは最期の手紙であることを、恐らく母は確信していた。いずれ知る事実を書くよりも、書くことがあるだろうに。そして、最後にあった『お父さんをお願い』が妙に引っかかる。まるで、何かあったかのような…


「理央君!」


「わっ!ご、ごめん」


「やっぱ聞いてなかったー」


「本当にごめん!どうしたの?」


「必要なものはあるって聞こうとしてたの」


「ああ、2日分の服や下着があればなんとかなるよ。2泊3日で向こうに泊るから」


「わかった。じゃ、また明日ね!」


「うん、また明日」


行けば、わかる。天啓にも似たそれが心の中に反響する。

そして当日。俺は涼音と駅で待ち合わせ、電車で空港へと向かう。午前中最後の便に乗り、およそ1時間の空の旅。空港に到着し、そこから電車を乗り継いでフェリー乗り場まで行く。

そこからフェリーに3時間程揺られ目的の場所に到着した。6つの大きな島からなる六島列島。その列島の中で岌州きゅうしゅう地方から1番近い島に『私たちの思い出の場所』がある。

今すぐ向かいたいのは山々だが、既に日は落ちかけており、着く頃には真っ暗になってしまう。


「今日はこのままホテルに向かうよ。明日、行くから」


「うん、了解」


ホテルは1室に俺とラファと涼音が泊る。アルテミスは霊体化しているため、宿はいらない。それにしても、涼音と同じ部屋で寝るのか。ホテルくらいは自分で予約すればよかったと後悔したが、涼音が気にしてなさそうなのでまあいっかと思うことにした。

涼音が平然を装っているのだとしたら、大変申し訳ないが。


「涼音」


「ひゃい!?…どうしたの?」


突如悲鳴をあげたと思った瞬間、ふっと輝かしい笑顔になった。平然を装っていた。

それを言ってしまうのは気が引けるのでスルー。


「晩御飯、どうしようか?」


「んー、ここの有名なものがいいかな」


「そうなるとうどんかな。あご出汁の」


「あご出汁?」


「トビウオさんだよ」


「なんかの顎の出汁じゃないんだね」


「そうだよ。で、それでいいかな」


再度聞くと、涼音はコクコクと頷く。ラファにも聞こうとしたが、既にコクコクと舟こいていた。


「じゃ、行こうか。案内するね」


うどん屋は沢山あるがその中でもお気に入りの店に向かう。メニューは豊富、値段はお手頃、そして何より美味しい。


「ご注文はお決まりですか?」


「地獄炊き1つと、うどんを1つ」


「え!?地獄!?」


「うん」


「うう、気になるから少し頂戴ね。エビ天たっぷりお願いします。アルテミスは?」


霊体化の可能な使い魔でも、腹は減るため、アルテミスも食事の席に座っている。

涼音が聞くと、すっと指を差した。俺と同じ地獄炊きを。それをまじかという顔で涼音が見ている。


「かしこまりました。オーダー、地獄炊き2、うどん1、エビたぷ1」


『あいよー』


「…ね、ねえ、理央君?地獄って?」


「んー、見ればわかるよ」


「できれば見る前にわかっておきたいんだけど!?」


「まあまあ落ち着いて」


そう言って涼音を落ち着かせる。そしてしばらく待つと、大きなトレーが運ばれてきた。


「きたみたいだよ」


1人前のうどんが入った鍋がグツグツと音を立てる。これが地獄炊きと言われる理由だ。その他に至極美味しいの『至極』を『地獄』と聞き間違えたからとか言われていたっけ。

周りにはあご出汁ベースのつゆ、卵、鰹節、刻みネギがある。

そして、アルテミスの前に同じものが1つ、そしてエビ天とうどんがほぼ同時に来たので一緒にいただきますをして、あご出汁につけて食べるのをメインに食べた。

鰹節を入れても、卵につけても美味しかった。

晩御飯を食べ、宿に戻ってきた俺たちは大浴場に入ることにした。ラファは涼音に預けた。

中に入ると、先客がいた。


「やあ理央君。こんばんは」


「…悠さん?どうして」


「理事長に頼まれてね。理央君の補助をすることになったんだ」


「なるほど、それは有難い」


「明日行くんだよね」


「はい、その辺は涼音も交えて話します。大した話じゃないけど」


すると悠さんはふっと笑い、湯船から上がる。


「じゃあその時は呼んでくれ。405号室に僕はいるから」


「了解」


さて、向こうにはラファもいるし、少しはゆっくりめに入れるかな。と思ったのだが、湯船に浸かってすぐに眠たくなってきたため、寝てしまわないうちに上がってしまった。

俺は405号室に寄り、悠さんと一緒に涼音たちが来るまで俺たちが泊まる304号室で待った。


「お待たせーって、悠さん?」


「うん。手伝ってくれるらしくて」


「それは頼もしいね」


「そう言ってくれて嬉しいよ。それで明日の予定は?」


「目的の教会には3時間で着くので、朝は少し観光でもと思ってます。久しぶりに帰ってきたから、色々と見たくなって」


「わかったよ。じゃあ僕はちょっと人と会ってくるから、2人で観光したらいい」


…なんだか気を遣われているような気がずるのだが、いいのだろうか。そう思ったのが顔に出ていたのか悠さんはふっと笑みをこぼす。


「まあちょっと気を遣ってるけど、人と会わなければならないのは本当だから」


「そうですか。ならわかりました。1時にこのホテルに集合しましょう」


「了解。じゃあ早めに寝ておこうか。そっちのお2人は寝てしまった様だし」


そう言われて気づいた。涼音座った体勢で器用に、ラファは涼音の膝枕で寝ていた。


「そうですね。おやすみ」


「ああ。おやすみ」


俺はドアがパタンと閉まるのを確認してから、2人を歯磨きをさせるために起こした。

それから時間は少し過ぎ、9時。涼音とラファはお互い身を寄せ合って寝ていた。それを確認してから、俺ももう1つの方のベッドに倒れる。移動で疲れてか、大して時間がかからずに寝てしまった。


***


とある教会内。1人の男が、嫌悪を剥き出しで祭壇を睨みつける。探し物が見つからず、苛立ってもいた。


「あの銃は、渡せない…」


男は低く声を発し、捜索を続ける。愛していた妻の愛銃を。

モデルとなった場所ら知ってる人は知ってると思います。

次回「最弱の過去」


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