きゅー 最弱の夏休み終盤
今回サブストーリー感があります。
どうぞ楽しんでくださいね。
蝉の合唱は、日々大きくなっているような気がしていたが、ある日を境に小さくなっている気がする。ピークが過ぎたのだろうと俺は麦茶を飲みながら考える。隣ではラファが座ってテレビを見ている。
あまり面白くないローカル番組なので、俺は見るのをやめ、チラシを見る。
「……なあ、ラファ」
「ん?」
俺はチラシをラファに見せ、微笑む。
「これ、行くか?」
「いく」
「内容聞かないのか?」
「りおがいっしょなら、だいじょうぶ。あ、すずねもいっしょがいい」
「それは俺も思った」
俺は携帯の電源を入れ、電話帳を開き、涼音にかける。
『…ふぁい、もしもし』
「おはよう、涼音」
『ん、どうしたの?理央君』
「14日空いてる?」
『空いてるよ』
「じゃあ、一緒に夏祭りに行こう」
***
午後7時。駅に一足早く着いた俺とラファは涼音を待っている。
ラファは水色で花柄の浴衣に身を包まれている。店員さんに何着か選んで貰ったひとつだ。やはり自分のセンスに任せることができなかった。ちなみに俺も店員さんに勧められた結果、男用の浴衣を着ている。濃い青色のシンプルなやつだ。初めて着たけど、動きづらいなあ、これ。なんてことを思っていると後ろからカラッと下駄が鳴った。俺は何気なく振り返ると、ラファとお揃いにしたのかと疑うほど似た柄のピンクの浴衣を着た涼音が抱きついてきた。
「……」
「……涼音?」
「いや、あの、これはね?後ろから飛びつこうと思ったら下駄鳴っちゃって、それで…」
「俺が振り返ったんだよね?なんかごめん」
カァッと、赤面した涼音の頭をポンポンと撫で笑顔で対応する。正直言ってしまうと後ろから気配がしていたため、わあ!みたいなことをしてくるのかなーとは思ったいた。よってそこまで驚いていない。
驚いた演技でもしようと思ったが、演技は上手くないので逆にテンションを下げてしまう可能性があったから、包み隠さずに対応した。
「うぅ、なんだか恥ずかしい」
「どんまい。それよか、電車に乗ろう。間に合わなくなっちゃうよ」
「ま、待ってよー!」
俺が早くついてくるように促すと、せっせとついてきた。ふと、ラファを見るとイチャコラするなよ、みたいな目で俺を見てた。地味に怖かったので手を繋いであげると、即座に上機嫌になったが。
それはさて置き、夏祭りの会場に着いた。小さな規模の夏祭りということもあり、人は少なめで、3人並んで手を繋いでも邪魔にならない。
「なんか夫婦みたいだね。ラファちゃんが真ん中でさ、みんなで並んで手を繋いで」
俺はコクリと頷き、そうだねと肯定する。涼音と一緒にいると思い出す。告白をしてくれたことを。早く、終わらせないとな。
「2人とも食べたいものとかやりたいものがあったら言ってね。お金出してあげるから」
「じゃああのあかいの」
「りんご飴か、うん。いいよ」
「り、理央君、私は綿菓子が食べたいなぁ」
「うん。りんご飴買ったら買いに行こう」
「うん!」
それから買った食べ物を食べたり、射的や輪投げ、金魚すくいなど、夏祭りを満喫する。射的は涼音が無双。意外にもラファは輪投げが上手く、俺も金魚すくいで謎の才能を開花させた。そして、いよいよ夏祭りの目玉。打ち上げ花火。8時に打ち上げ開始で、今は7時55分。もう少ぐだ。
「理央君、あそこよく見えそうじゃない?」
と言い、少し高い場所にある開けた場所を指差す。確かにあそこだけ木々が少なく、よく見えそうだ。
「行くか」
「うん!」
「おー」
その場所に行くのはとても簡単で、ものの3分程で着いた。その瞬間。
パァン!
花火が打ち上がる。最初は控えめに。中盤で強弱をつけ、終盤は息つく暇もなく打ち上げられ続ける。途中、ハートなどの色々な花火が打ち上がり、小規模ながらかなりの盛況っぷりだった。
「よかったね」
「うん。本当に」
「また来たいね」
「来年も行こう」
「うん」
それから涼音を家まで送り、帰路を辿った。
***
8月30日。あと今日を含め夏休みは2日だ。長いようで短かったなあ。涼音とはあれからショッピングモールや市民プールに行ったりしたし、悠さんや、理事長と食事に行ったりした。宿題も毎日一定量やったのであと国語の課題が1ページのみだ。
「りお、ひま」
「そうだなぁ、確かに暇だなあ」
「あそぼ」
「外で?」
「なか」
「ですよね」
気だるげな会話のあと、ラファがおもむろに立ち上がり、箱の中を漁り始めた。
「とらんぷ」
「おー、やるか」
夏らしくはないなと、感じながらもやることがないに等しいので、何回かババ抜きや、7並べなどをした。ラファがすぐに飽きたので30分も潰せてないが。
何か夏らしいことはないことか。
「2人でプールに行こうか」
そう言ってみる。海には海の、プールにはプールの楽しさがあると感じているので、良い案ではないかと思う。
「ぷーる、およげるところ」
「うん、そうだよ」
「いく!」
「じゃあ、支度しようか」
「うん!」
ラファは元気よく返事し、ズボンを履いてシュシュを1つ持ってきた。流石に凝った髪型を作れるわけじゃないので簡単にポニーテールにした。そして寝室から水着セットを取ってくる。
「りお、すずねは?」
「今日用事があるらしいから、行けないよ」
「そっか。それはしかたないね、いこ!」
と、ラファはどこか嬉しそうに、俺の手を引いて歩き出した。
そして市民プールに着いた俺たちは水着に着替えるために更衣室に向かった。ラファが1人でできると言い張ったため、男女別で。
「うん、結構空いてるな。よかった」
「りおー」
「ん、じゃあ行こうか」
「ん!」
ラファは俺の手を握って流れるプールに突き進んで行く。
流れるプールは俺のへそくらいの水位だ。ラファにとっては鎖骨の辺りまで水に浸かっているが、水を少しばかり操り抵抗をなくしているのだろう、とても身軽にはしゃいでいる。でも、はしゃぐだけじゃなく度々俺に抱きついてくるのだ。可愛い。
「りお」
「ん?どうした?」
「わたしも、りおのそばにいるんだからね?」
今日1番強く抱きついてくる。正直、愛おしいと思った。
「分かってるよ。ちゃんと分かってるから」
そう言って、俺も強く抱きしめた。
帰り、ラファははしゃぎ過ぎたのか、ぐっすり眠ってしまった。もうすぐ夏休みが終わるなあ。早いなあ。そんなことを考えながらぼーっとしてると、いつの間にか寝てしまい、一駅乗り過ごした。
***
『理央君………』
と、電話越しにずんと沈んだ声で涼音が俺の名を呼ぶ。只ならぬマイナスオーラがひしひしと伝わってきた。
「ど、どうした」
『しゅ…』
「しゅ?」
『宿題手伝ってください』
「…夏休み今日で終わるけど、どのくらい残ってるの?」
『3分の1』
「なら大丈夫だよ。まあ一応涼音の家に行って、見ててあげる。今日は何もする予定もなかったし」
『ありがとー。待ってるね』
「宿題始めといてよ。じゃあ」
さてと、一応俺も少し残ってるし、ついでに終わらせるか。俺は夏休みの宿題を全部バッグに突っ込む。
「ラファ、涼音の家一緒に行く?」
「いく」
「ん、じゃあ着替えようか」
「ん」
まだ眠いのだろうか、ふらふらしながら服を脱ぎ、タンスを漁る。できれば服を出してから脱いで欲しかったと思いながら、俺もラフな格好に着替える。
「よし、行こうかラファ」
「んー」
俺はまだ眠そうなラファを抱きかかえ、涼音の家に向かった。
「理央君ごめんね…本当に」
涼音の家に着いてからもう既に2時間程経っただろうか、ポツリと涼音が言った。俺は思わず苦笑いしてしまう。
「別にいいって。そろそろお昼だけど、作ろうか?」
「作ってくれるの…?
「うん」
「ありがと。冷蔵庫の中あんまりないけど自由に使ってね」
「うん。ラファ、涼音がサボっちゃわないように見ててね」
「ん」
さてと、冷蔵庫には何が入ってるのだろう。なんだか少しわくわくしながら階段を降りキッチンに。
びっくりした。何もなかった。本当に。
「涼音」
俺は一旦涼音の部屋に戻り、買い物に行くことと、その理由を告げる。
「そっか、ごめんね。いってらっしゃい」
「うん、ラファ引き続きよろしく」
「はーい」
さて、ポテトサラダとハムレタスのサンドイッチでいいかな。俺は少し早歩きでコンビニに向かった。
***
「おわっ………たぁ!」
そう言ってぐでっと倒れる。現在午後6時。涼音はずっと集中を切らさずに夏休みの宿題をやりきった。
「ありがとうね、理央君、ラファちゃん」
「どういたしまして、と言ってもほとんど見てただけだけどね」
「2人がいなかったら絶対集中続かなかった自信があるよ。そうだ、今日お父さんとお母さんいなくてね、ピザ頼もうとしてたんだけど、食べる?」
「ぴざ?たべてみたい」
「栄養がって言いたいけど、ラファが食べたそうだしな、うん、食べよう」
「やった!お金なら貰ってるから、それで買うね」
それからなんとも夏らしくない夕飯を食べて、俺とラファは家に帰った。
「明日は学校か」
「たのしかった」
「そうだな」
まあ、どのみちいつも通りだろう。
…そういえば、文化祭は何すんのかな。
ほのぼのしてますね。
多分もうちょっとだけ戦闘シーンないかなと思います。
次回は「文化祭」!
もう確定です!さて、なにをさせましょうか。




