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とある世界の少年少女  作者: 橘葵
第一章  一から紡ぐ物語
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第九話  計画

一分ほどたった頃だろうか。



菜々葉は青葉の言葉を理解したのか、口を開いた。


「何であの二人を見捨てるような事をするのよ!」


その口調には、怒りがこもっているようだった。

青葉は、思っていたことがうまく伝わっていないなと思い、理由を説明することにした。

理由を説明し終わったが、菜々葉は怒りのスタンスを崩さないようだった。


「そうは言っても結局はあの二人を見捨てる事は変わりないでしょ!」


確かに言われてみればそうだ。

青葉は、急に言いすぎたな、と反省した。

ただ、本音でいえば、青葉も二人が誘拐されることを知っていながら放置しておくことは抵抗がある。

しかし、それでまたマンションの他の住民が誘拐されることがあれば、たまったものではない。


青葉は、菜々葉が反対しても、この作戦で行く気であった。

そんな姿を傍観していた清美が口を開いた。


「…でも、救えるあて…あるのなら、青葉の案…採用したほうが、いい。」


清美は、青葉のほうにつくようだった。

青葉は、清美が付いてくれるなら心強いよ、と口にした。

そして、修悟は青葉のほうについてくれることが分かっているので、少し不安だが、この三人でも作戦を決行することは可能だ。

しかし、菜々葉がいないとなると、敵のところに潜入する時などに少し不安が残る。


青葉は、菜々葉を説得するために口を開いた。


「菜々葉、大丈夫だよ。この機会をうまく利用したら、敵を倒して、もうこんなことにおびえなくてもいいんだよ…」


青葉の口調には、少し懇願の色が混じっていた。

しかし、菜々葉は、断固反対というスタンスを崩さないようだった。


「清美が青葉のほうにつくといっても、私はこの計画に反対する。救うために被害に遭わせるなんて、本末転倒でしょ!」


青葉は、菜々葉に自分が気にしていたことを抉られたような気がした。

青葉も、実はその事からは目を背けながらこの作戦を勢いで押し切ろうとしていた。

こんなときに、菜々葉の能力は強い。

人の言ったことの裏側の感情を見て、それを使って意見を述べる。

普段、菜々葉にお願いする時は、それが頼もしく思えていたが、今回は裏目に出たようだった。


「青葉たちがもし明日決行するようでも、私は行かない。

今日のうちに、清美と美乃里に話しておいて、誘拐されないように手引きする!」


菜々葉がこの状態になってしまえば、青葉たちの力では意見を変えることはもう無理だ。

青葉は、そんな菜々葉の姿を見て、菜々葉には勝手に行動させてやろう、と思った。


「反論はないの?それなら私はもう帰るから。せいぜい無駄な作戦を考えておくことだね!」


菜々葉は、そんな捨て台詞を残して帰って行った。




_*_*_*_*_*_*_*_*_*_*


三人になった部屋で、青葉は、菜々葉がいなくなったら静かになったね、と呟いた。


「…明日、何時くらい…?」


清美が、そう口を開いた。

青葉が、修悟のほうを少し見やり、考えこんだ。

そのとき、青葉に代わり、修悟が言った。


「明日の正午が、確かタイムリミットだからね…敵を倒すのにどれくらい時間がかかるか分からないから、早く出ておくことに越したことはないと思う。」


確かにそうだね、と青葉と清美はうなずいた。

青葉は、じゃあ三人が集まれる、一番早い時間にしようと提案した。

しかし、青葉と修悟は時間の融通がきくので、実際には清美の意見を聞いて、それに合わせる形になる。


「私たちは、別に何時でもいいからさ、清美が決めてよ。」

「…私は、九時以降なら…いつでも、いいよ。」

「じゃあ、その時間で、自転車に乗ってエントランスの前に集合で!」


青葉は、清美の意見を聞くやいなや、すぐに決断を下した。

青葉たちにとってもとても都合のいい時間であったため、その時間に集合する事にした。


時間も決まったことだし、もうすぐ二時になる頃になっていたので、清美はもう帰らなねばならない時間のようだった。

明日は頑張ろうね、と青葉は清美に言うと、清美はいつになく元気な声で、

「…うん!」


と言った。





_*_*_*_*_*_*_*_*_*_*


清美が帰った後、青葉は、修悟と詳しい作戦を立てていた。

修悟は、どうやら前の世界で基礎的な魔法については習得しているらしかったので、一回、魔法を使う事が許可されている練習場に行き、一度魔力を操る感覚をつかんでもらう事にした。


修悟の魔法の能力は人並みよりも少し劣っているので、使いこなそうと思えば人一倍練習を積まねばならないだろう。

しかし、修悟はまだあまりこの世界の常識や、基本的な法律を知らないので、もしかしたら警察沙汰になってしまうかもしれない。


この世界では小さいときに親に教えてもらうか、独学で魔法を習得するのが一般的だが、

青葉は、そのつてがない修悟が魔法を使う手助けをしてやらないといけない、と思った。

それを詳しく修悟に伝えるために青葉は言った。


「じゃあ、明日のために今から魔法の練習場に行くよ。」


青葉は、そう気楽に提案した。

しかし、修悟は少し困惑して、


「もちろんいいけど…青葉、その練習場って何で行くの?」


青葉は、移動手段のことをすっかり忘れていた。

この都市の移動手段と言えば、自転車が一般的だ。

しかし、この世界に来て間もない修悟は、その移動手段すらも持ち合わせていなかった。


「自転車で行きたいところだけどね…修悟、まだ自転車持ってないでしょ?」

「うん…」

「じゃあさ、まずは自転車を買いにいこっか。多分、これからもないと困るだろうし。」


修悟は、青葉の言う「これから」というところに、いま一つ実感が湧かないようだった。


しかも、また、明日の計画が失敗に終わったら世界を巻き戻すことになる。

この世界で青葉にはお世話になっているからあまり迷惑をかけられないな…と修悟は思いつつも、青葉に少し気になっていることを聞いた。


「ところでさ、青葉、自転車を買うお金ってどうするのさ。俺、お金なんて持ってないよ。」

「それなら大丈夫。仕送りもあるし、貯金もかなりたまっているから。」


青葉は、あっけらかんと言い放った。

これが十四歳から飛び出す言葉か、と修悟は驚いた。

青葉の雰囲気はかなり大人びており、高校生くらいだと勘違いしてしまいそうになる。

修悟がそんなことを考えていたら、青葉は一言。


「この計画で、必要だけど扱いに困るのが修悟だからね。

何とかして少しは自衛できるようになっといてもらわないと私たちが困るから。」


青葉は、できるだけ修悟が実戦で困らないように仕向けてくれているようだった。

修悟は、明日はできるだけ迷惑かけないように頑張るから、と言い、


「もし望むなら、私は修悟を置いていってもいいんだよ、…まあ嘘だけど。」


と、小悪魔的に笑った。



「じゃあ、行きますか。」


青葉と修悟は明日に向けて、進みだした。

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