表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とある世界の少年少女  作者: 橘葵
第一章  一から紡ぐ物語
5/20

第五話  乗り込み前夜


二人の少女が誘拐された。そのニュースが青葉に飛び込んできた。

何とかして助け出したい。そう願った。


「世界を変える、その一歩になる。」


なかなかハードルの高い一歩だった。

ただ、青葉たちにとっては、誘拐事件というものが初めてだったので、何から始めたらいいのかが分からなかった。


「まあ、とりあえずは情報収集から始めよっか。」


青葉は、何から始めたらいいのか分からなかったが、その「何か」を見つけるために情報収集から始めてみる事にした。

ただ、修悟はまだこの世界に来て一日目だ。下手に修悟と行くと警戒されかねないので、青葉は一人で情報収集することにした。

まずはこのマンションの中でも親しい仲である、人の心を読むことができる菜々葉と、記憶力にとてつもなく優れている清美のもとへ行ってみることにした。

事情を話したら、協力してくれるかもしれない。

青葉は淡い期待を抱いて二人の元へ行った。


「あのー…ちょっと言い辛いことなんだけどさ、今日のニュース見た?」


少し不安げに青葉は言った。

すると、奈々葉が、


「あー、あの誘拐事件のことでしょ?私もすごい怖いなって思っているんだけど…」


と、少し口ごもりながら答えた。

少し間をおいて、清美がいつものペースで静かに言った。


「…犯人、潜伏場所が分かったら、絶対に…見つけ出す。自信、あるから。」


否。いつものペースではない。少し声のトーンが落ちており、瞳には憎悪の炎が宿っているのがはっきりと見て取れた。


青葉は、そんな二人の目をしっかりと見て、きっぱりと言った。

青葉の気持ちを察してもらえるように。


「あの事件について、分かっていることが一つでもあったら、すべて私に話して。もしかしたら、少女二人を助け出す事が出来るかもしれない。」


返ってきたのは、意外な返答だった。


「少女二人じゃなくて、梨花と美乃里だよ。」


「…青葉にとって…少女二人、で片付けていいほどでは、ない…仲だったはず。」


青葉は、二人の返答に動揺を隠す事が出来なかった。

梨花と美乃里は幼馴染であり、青葉の数少ない心の拠り所であったからだ。

ただ、菜々葉と清美は嘘をつくような人ではない。青葉は、ここ一年間の付き合いで二人をそのように評していた。


「ねぇ、青葉すごい動揺してるけど大丈夫?」


どうやら、菜々葉には気持ちが伝わってしまったらしい。

普段菜々葉は気持ちが伝わってきていてもあまり口には出さないので、よほど大きなものだったのだろう。

青葉は、これ以上平静を装うのは無理だと思い、協力して、一刻もこの不安な状況から抜け出そうと、口にしてみることにした。


「ねぇ…私は、この事件の犯人を倒してしまいたい。だから、協力してほしいんだ…このままだと、あの二人は無事であるかも分からなくなるよ…」


普段では絶対にあり得ない弱々しい口調で青葉は懇願した。

不安と動揺でどうにかなってしまいそうだった。

もしも断られてしまったら…と青葉は考え込んでいると、


「なんとー!いつもは一人で解決しようとする青葉が懇願してくるなんて珍しい。頼ってくれてありがとう。できる限り手伝うから、何でも言って!」


青葉が思っていた答えと全く逆の答えが返ってきた。

なぜかいつもより少し嬉しそうな顔をして、菜々葉は快諾した。


その返答を聞いて、青葉は少し嬉しくなり、顔を赤らめた。


「ありがとう。本当にありがとう…!」


ただ、まだ清美の答えを聞いていない。

もし清美が拒否するなんて事があれば菜々葉も心変わりしてしまうかもしれない。

青葉は、清美に懇願と期待の視線を送っていた。


すると、一分ほどたった頃合いだった。清美は、ようやく口を開いて、


「…本当は、私、一人で調査…するつもりだった…だけど、今回は…青葉たちと、組んでみる。…あんまり、役に立てない…気がするけど。」


微妙に嬉しそうな顔をして、清美はそう言った。

二人とも協力してくれる事が青葉は嬉しくて、不安な気持ちが少し吹き飛んだ気がした。


「二人とも、ほんとにありがと。作戦とか練らなきゃだけど、発案者が一番頑張らなきゃだよね。ついてきてくれたら、嬉しいな。」

「もちろんだよ!てか青葉はいつもだけど責任感強いよねー。」

「…青葉、信頼して…頑張る。」


信頼してくれることを再確認できたので、青葉は詳しく作戦を練るために家に呼ぶことにした。

ただ、今家には修悟がいる。とりあえず、二人には修悟のことを知ってもらう必要があると思った。


「あのさ…このことに協力してくれる人が、もう一人いるのよ。」

「誰?」

「…誰か、教えて。」


予想通りの返答が返ってきた。

とりあえず、修悟の基本的な能力のことを話した。

話し終えた後、二人は驚いて、


「世界を巻き戻す?それってものすごい能力だよね。」

「もしかしたら…青葉と、相性…最高な人?」


清美に、青葉が思っていることを言い当てられたような気がした。

それと、あまり言いたくないことだったが、保険として一応言っておくことにした。


「今言ったことは全部本当だよ。もし、世界が巻き戻る事があったら、私が修悟の記憶を視て、対策を立てることができるよ。」

「という事は…絶対に失敗しない計画って事じゃん!」

「…菜々葉、楽観視しすぎ…」


菜々葉の楽観視も、いつもは不安に思う事だが、今回に限ってはそれがとても頼もしく思えた。

ただ、あまり楽観視しすぎると確実に痛い目をみることになる。

しかし、時間も時間だったので、明日の作戦を練るために青葉の家に来てもらう事にした。


「今日は、多分情報収集しかできることはないけど、私の家に来てくれない?」

「いいよー。丁度暇だったし。清美もそれでいいよね?」

「…うん、もちろん」


青葉の家は、菜々葉と清美の家よりも二階下にある。

いつもは青葉の家に来てもらう事がほとんどだったので、新鮮な気持ちで自分の家のドアを開けた。


「「お邪魔します」」


菜々葉と清美が家に入った。

その時、


「青葉ー、情報収集終わったー?」


修悟の声がした。

青葉は修悟に、協力を取り付けてきたと言うと、修悟は嬉しそうな顔をして、


「これで人は揃ってきたな。でもさ、どうやって敵を倒そう?」

「それを話し合うために連れてきたんだよ。こっちに来て。」


修悟をリビングに連れてくると、菜々葉と清美は椅子に腰かけていた。


「…その子が、修悟君?」

「この人が、青葉の言っていた人?」

「うん、そうだけど。」


とりあえず、青葉は修悟に菜々葉と清美を紹介することにした。

修悟には、女三人の中で唯一の男となってしまうので、少し気まずい思いをしてもらわないといけなくなる。

青葉は少し罪悪感を感じたが、仕方がないことだと割り切った。


「こっちが菜々葉。人の心を読むことができる能力を持っているの。」


「佐伯菜々葉です。能力は青葉が言ってくれた通りです。これからしばらく、よろしくね。」

「…あっ、よろしくお願いします。」


「それで、こっちの静かそうな人が清美。記憶力に特化した能力を持っているの。」


「…涼風、清美です。…これから、よろしくお願いしま…す。」

「はい。よろしくお願いします。」


どこかよそよそしい雰囲気が漂っていたので、青葉は、その雰囲気を壊すように話し始めた。

しかし、二人とも修悟と同い年であるという事に気づいていないみたいなので、一応同い年であることを伝えておくことにした。


「驚くかもしれないけど、修悟と二人は同い年よ。別にそう気を張って話すべき相手ではないから、気楽にいこ!」


青葉は、事件のことをすっかり忘れているような調子で明るく言った。

ただ、そろそろ本題に入らないと、時間が遅くなってしまう。

そう思い、青葉は、少し強引だが、話を本題に持って行けるように誘導した。


「じゃあ、まずは、ネットで情報を探しますか。」


ネットだと、もしかしたら誘拐先の写真が写っているかもしれない。

そして、写っていたら、清美が場所を言い当ててくれるだろう。

そんなかすかな期待を抱いて、青葉はパソコンを立ち上げ、ローカルニュースを探り始めた。


「あれ、もしかしたら…」


誘拐された先であると思われる写真がアップされていた。

とりあえず、ここがどこであるか、清美に聞いてみることにした。


「ここってさ、どこだかわかったりしない?」


三十秒ほどたった頃だろう。清美はパソコンから目を上げ、何かがわかった様子で青葉に話した。


「ここ、もしかしたら…都市の外の森林?」

「かなり大雑把に来るねー。そこから詳しい場所って分かったりする?」


都市の外の森林は、木が生い茂っているため、詳しい場所を特定することは困難だ。

しかし、清美ほどの能力者ならば、もしかしたらどのあたりまでかは分かるかもしれない。

青葉は、一応、だめもとで聞いてみた。


「でも、そこからは…分からない。…役に立てなくて、ごめん…」

「別にいいよー。あんな木が茂ってるところ、分かるほうがおかしいと思うから。」


分からなくても、探せば見つかると思う。そんな考えを抱いて、青葉は三人に言った。


「じゃあ、明日の十二時集合で、都市の森林あたりを探しに行こう!」


しかし、少し慎重になった菜々葉は反論した。


「ていうか、探すっていってもあてはあるの?」

「清美が、そこにあるって言ってるから、間違いないと思うよ。」

「あー、清美が言っているなら、間違いはないわ。」


菜々葉も、清美の能力は、一年間の付き合いで、とても信頼できるものだと評価している。

青葉は、菜々葉のお墨付きならさらに安心だわと笑い、


「まあ、そんな感じで。できるだけ万全の状態で来てね。」


「多分、敵は私と清美で倒せるから。絶対、梨花と美乃里を救い出そう!」


と、明るく三人に言うのだった。

しかし、敵を倒すプランが何一つ出来上がらない。どうしようかと青葉は考えていた時、


「じゃあ、夕御飯の準備とかあるし私たちはもう帰るわ。」

「うん。じゃあ、明日、がんばろう!」


菜々葉と清美はもう帰らなければならない時間のようだ。

できるだけ、三人を不安にさせてはいけない。

青葉は、できるだけ強気でいるように心がけた。

元気な声と静かな声が部屋に響いた。

「「お邪魔しました」」






菜々葉の、人の心を読む力を使ったら、ある程度はうまく立ち回ることができるだろう。

ただ、魔法を操る能力に特化している者がいない現状で、戦力になるのは、地力がある青葉と清美位のものだろう。


そして、問題は修悟だ。

魔法の適性があると本人は言っていたが、もしあったとしても最低三カ月は練習を重ねないと本来の力は発揮されないし、青葉の見立てによれば、修悟にはそもそも魔法を操る力が普通の人の七割ほどしか備わっていない。


しかし、どの道修悟は今日一日では自衛用の魔法を覚えることで精一杯だろう。

まあ、戦力と数えたらいけないかなと青葉は苦笑した。


「あ、そうだ修悟、今から修悟には魔法を覚えてもらうよ。

いくら私たちも頑張るとはいえ自衛用の魔法くらいは覚えといてもらわないと困るから。」


魔法を覚える、青葉がその言葉を発した時修悟の顔がぱっと明るくなった気がした。


「うん。じゃあまず何から覚えたらいい?」


修悟はまだ何一つ魔法について知らない。

青葉は少し迷った後、詠唱の名前とそれの効果を紙に書き始めた。


「じゃあ、まずはこの五つの魔法を覚えてもらいます。大体はこれが基礎になっているから

きちんと覚えること。」

「はーい」


修悟の顔は、今までになく幸せそうだった。

夕御飯を作ってくるからそれまでに覚えておいてねと青葉は言い、キッチンへ立った。

修悟は自室となっている部屋に戻っていった。




修悟は部屋に戻って行った後、考え事をしていた。

この世界は、身近な人が誘拐されても平静を保っていられるような世界なのか。

それよりも、もしかしたら、


「誘拐されることが頻繁に起こっているのか、この世界は…」


もしそうだとすると、修悟は魔法も使えず、能力もお世辞にも対人用とは言い難い。

誘拐犯の格好の餌である。

もしかしたら、自分が一番注意して行動しなくてはならないかなと思い、まあ、とっさの時は青葉に教えてもらった魔法を使えばいいだろうと思った。


そして、魔法を覚えようと紙を見ると、


「こんなもので自衛できるのか…?」


思わず突っ込みを入れずにはいられなかった。

詳しく紙を見ると


『  頑張って覚えてねー


  フローズ  氷付かせることができる

  フレーム  火を着ける事ができる

  ウォーティア  水を少し出す事ができる

  グロード  土を少し出す事ができる。

  ウィンディ 風を起こす事ができる


 ちなみに、これを組み合わせてたらいろいろ使えるから、考えておくといいよ』


青葉はまだ魔法について何も知らない人のためのチョイスなのかとても簡単なものを選んでいたようだった。

というか、これくらいの詠唱なら、覚えるのに一分もかからない。

修悟は、心の中で少し文句を言いながら、まあ、まずは基礎から出し、応用系はまた今度教えてもらおうと思った。


「て言うか、この部屋でも氷付かせる位なら使ってもいいよな…」


修悟は、覚えたての魔法を使ってみることにした。


「この水筒の中身とか、もう絶対に飲めなくなってるし氷付かせてもいっか。」


なにせ前の世界から持ってきたものだ。もしかしたら腐ってしまっているかもしれない。

そんなものに口をつける勇気は、修悟にはなかった。


「フローズっ!」


ぱちぱちと水筒の中から音がした。

修悟はこの世界で魔法が使えるというのは本当だったんだなと思い、少し嬉しくなった。


そんなことをしているうちに二十分ほどたった頃だろうか。

キッチンのほうから青葉の声がした。

修悟はよく思ってみれば丸一日何も食べていないことに気づき、急におなかが空いてきた気がした。


「ごはんできたからこっちにおいでー」

「うん。今行くー。」




修悟を呼ぶと、すぐにやって来た。


今日の夕食は実に庶民的なものだ。

青葉は、ご飯を食べながら、


「修悟、魔法は覚えられた?」


と聞いた。

修悟は、苦笑して、


「あれが覚えられなかったら何もできないだろ…」


と言った。

しかし、魔法の詠唱を覚えることと使いこなす事ができることはまた話が別だ。

そのことを青葉は修悟に言うと、


「まあ、そうだろうね。少し練習しないと大変かも。」


という答えが返ってきた。


「でも修悟、練習するって言ってもどこでするの?」


少し気になっていたことだ。街中で魔法を練習することはできないのだ。

いくら修悟が初級レベルの魔法しか使えないとはいえ、街中で魔法を使うと警察沙汰になってしまう。


「え…ここの前の公園で練習したらダメか?」


やはりそうきたか…と青葉は思った。

本当であれば、この世界の常識を教えてから乗り込みに行きたかったが、残念ながら時間が全然足りなかった。


「こんな街中で魔法を使うと警察沙汰になるよー。」


この世界の常識は何も知らないはずなので、今日一日教えたことだけでも覚えるのが難しいのだろう。

修悟は、少し困惑した顔で青葉に聞いた。


「でもさ、明日は魔法使わないといけないよな…?

青葉たちは大丈夫なのか?」


青葉は、少しぶっきらぼうに言った。


「それは大丈夫よ。都市の外では魔法を使っても大丈夫だから。」

「ならよかった。魔法使えないとどうやっても敵が倒せないもんな。」


どこか納得したようなように、修悟が言った。


都市の外では定期的に戦闘が行われていたりするので、別に魔法を使ったからといって警察が来るというわけではない。

しかし、裏を返せば、青葉たちが戦闘に巻き込まれたり、襲撃されることもあるということであった。


その危険性を修悟にも伝えておかねばならないと思ったが、もし、その危険性を伝えてしまうと、かえって修悟が部屋などで練習しかねない。

部屋で練習され、制御ができなくなられたらたまったものではない。

だから、青葉は敢えて何も言わなかった。


「まあ、明日は朝が早いから早く寝るといいよ。予備の布団ならあのたんすに仕舞ってるから勝手にとって。」

「ありがとう。じゃあお言葉に甘えて。」


修悟は自室へと戻っていった。

話をしながらだったが、ちゃんと御飯は完食してあり、青葉は少し嬉しかった。




「明日、頑張らないと。」


今日だけで何度言ったかわからないセリフを青葉は口にし、決意を固めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ