第四話 転機と決意
一応一話からここに飛んでいただいても大丈夫な感じにしております。
上川青葉は、きっぱりと告げた。
「私には人の記憶を視ることができます。そして、他の人に備わっている適性などもある程度は診断することができます。
それを踏まえて、どうやって異世界に転移してきたか、教えてください。」
青葉は、とりあえずは修悟の話を聞いてみようと思った。
しかし、分かり切ったことを話されても困るので、この世界のことを教えながら会話を進めていこうと思った。
「あの…僕は異世界に転移してくるときに…
「だいたいは分かります。あなた、平和を願う神に出会ったでしょう。あの神は、戦の神と対立していて、戦の神をずっとおろしたいと考えている人ですよ。」
「は、はぁ…」
思っていたよりも強い口調で話してしまったらしい。
青葉は、自分は相談屋であったことを思い出して、もう少し柔らかい口調で話してみようと思った。
ただ、相手は同い年である。疲れるのでもう少し砕けた口調で話してもいいのではないかと思い、
「あ…すいません。というより、私のことは青葉って呼んでもらってもいいし、ため口でいいです。私も疲れてきたです。」
青葉は思い切って言ってみた。すると修悟は、
「ああ、よかった。丁度俺も疲れてきたところだったから」
とりあえず、ため口で話していいと分かり少しだけだが気が楽になった。
ただ、修悟を視ていると、この世界ではありえない記憶の数々が全貌を現してきた。
「まあ、修悟の状況は信じられないことが多いけど、私が今まで見てきた事情に間違いなんてなかったし、信じてくれると思ってる。」
「俺も、青葉のことは信頼してもいいと思うよ。なにせ、あの平和の神…だっけか。が俺に教えてくれた人でもあるし。」
青葉はなかなかに今回の相手は視ごたえがあるなと思った。
なにせ、異世界からの転移者だ。青葉の両親がそこのあたりは詳しいと聞いているのだが、だいたい、一年以上直接顔を合わせていない。
青葉は、どうにかして修悟と仲良くなろうとして、言葉を繋げた。
「今、分かってきたことなんだけど、もしかして、平和の神様にもらった能力は、
『二日前まで世界を戻す事ができる能力』でしょう?」
「たぶん、そうだと思う。でも、いろいろ制限があるみたいだけど。なんせ、俺以外記憶が引き継げないらしいし。」
青葉は、少し考え込んだ後、一つの結論を出した。
「それなら良かった。修悟、出会ってまだ一時間くらいしか経ってないけど、仲間になってくれない?。多分、修悟の能力と私の能力、相性最高だと思うのよ。」
「もちろん。というか、多分青葉と組まずに一人でこの世界でやっていけるような気が全くしないから。」
青葉は、これまで三十人ほどの人を視てきたが、ここまで相性のいい人を見たのは初めてである。
修悟だったら、私のこの能力につきあってくれる、そんな自信がどこからか湧いてきたのだった。
しかし、修悟は少し困った顔をして、
「俺まだ住む場所ないんだけどどうしよう。どこに住めばいいんだろう…」
まあ、転移してから一日も経っていないことだ。家がなくてもしょうがないかと青葉は思ったが、家がないと命が狙われる危険性がある。なので、住む家を確保するまでは、この家の一室で寝泊まりしてもらおうと思った。
「それなら、この家に空いている部屋が一部屋あるから、そこで寝泊まりしていいよ。
そのうち、私が役所に申請して、このマンションの空き部屋のどこかを借りられるようにしておくよ。」
「あ、ありがとう!本当に感謝だわ。でも、大丈夫なのか?男と女で一緒に住んでいたら不審がられたりしないか?」
少し、修悟が不安げに青葉に聞いた。
「まあその辺は大丈夫よ。私はそこらへんあんまり気にしない人だし。ずっと一人で寂しかったから。」
普通は男女で住むという事に抵抗があるのだろう。しかし青葉は二年間一人で生活してきたので、寂しさや不安を紛らわせるための何かが手に入ったことが何よりも嬉しかったのだ。
青葉は、どうにかして修悟と友好的な関係を築き、もう少し青葉のような特殊能力者の知名度を上げ、手順を簡略化して人助けに貢献できるような社会を作りたい。
ただ、多分修悟は、この都市の成り立ちなどはまったく知らないと思う。青葉は修悟にこの都市について説明するために口を開いた。
「住む場所の確保は済んだからいいとして、修悟、この都市の成り立ちについて分かったりする?。」
多分、修悟はわかっていない。ただ、青葉は話を唐突に始めないように気をつけていた。
「まったくわからない。魔法による戦争が起こっていると聞いていたのにここは平和だし。」
「じゃあ、まずはこの世界について詳しく説明するね。」
青葉は、まずはこの世界に歴史から説明しないと、都市については理解ができないだろうと思い話し始めた。
まず、この世界では長い間大戦が起こっており、巻き込まれた人々は疲れ切っていた。
大戦は今は小康状態にあるものの、いつ再び始まってもおかしくはない。
魔法を操ることにたけており、戦闘に適した能力を持っている者はもう一つの都市に住んでいる。そして、そこそこ魔法が使えたり、魔法はあまり使えないが戦闘にとても役立つ能力を持っている者は、国のいろいろな場所に散って、国の自治にあたっている。
そして、この都市は、魔法は使えるが戦闘に全く適さない者や、魔法も、能力も戦闘に適さない者が集められているところである。
合理的なやり方だと思うが、家族で持っている能力が違う場合、青葉家族のように住む場所がばらばらになってしまう場合もある。そのようなことが多いので、それぞれの拠点には二十歳未満で、両親が別の場所に住んでいる場合、住む場所を提供してくれる。
ここまで説明し終わったときに、青葉は、
「あなたって、あの平和を願う神に何かお願いされていない?そこだけが私にも視えないんだよね。」
青葉は記憶の中からなんとか役に立つ情報を引っ張り出してきたが、一つだけ分からない点があったのだ。
「俺がお願いされたことは…『こんな世界を変えてほしい』だったな。」
思っていたよりも壮大なスケールだった。
青葉はそのスケールの大きさに苦笑しながら、
「じゃあ、どうやったら世界を変えることができるか聞いた?」
修悟は少し困ったような顔をして、
「多分、戦の神を倒したら世界を変える事が出来るみたいなことを言っていた気がする…。」
もっと無理難題を押し付けられている気がした。
青葉は、平和を願う神なのに争いを推奨するなんて…とすこしあの神に不信感を抱いたが、
とりあえずは何とかして一つ一つやっていかないとな…と思った。
「じゃあ、とりあえずは相談者の悩みを解決することから始めていかないとね。
戦の神を倒すという問題は少し時間をおいてから、じっくりと考えていく問題だと思うのよ。」
「え…そのお願いを無視して生きていくという選択肢はないの…?」
「というか、私もこんな争いばかりの世界はいやなのよ。神様がこんな素晴らしいチャンスを与えてくれたんだから、活用していくしかないでしょう?」
「まあそうだけど…」
と修悟は口ごもる。
普通に考えて神様に世界を変えてくれと頼まれたら、拒否するものだと思うのだが、
青葉はそんな逃げの姿勢を見せる人ではなかったのだ。
「まあ、今日は疲れたでしょう。こんな話は終わりにして、少しゆっくりしていなさいな。部屋はあそこを使っていいよ。」
「俺としては一日でこんな人に出会えて感謝しかないよ。では、お言葉に甘えて。」
「明日は修悟の生活用品をそろえに行くから覚えといてね。」
修悟を部屋で休ませている間、青葉はずっと考え事をしていた。
この世界の成り立ちや、戦の神以外の神についてだ、そして、修悟が転移してくる前に住んでいた世界のことだ。
今日修悟に出会ったことで、とてもたくさんの情報を手に入れることができた。
しかし、修悟の記憶にあって、青葉の記憶にないものがとてもたくさんあった。
「ちゅうがく、って何のことだろう。」
そう。この世界は義務教育が六年間しかないのだ。
この世界だと、義務教育を終えた後、それぞれ能力に見合った場所に配属され、暮らしていく中で技術を磨いていくことになっているのだ。
修悟の世界だと、それが当たり前のようなので、めんどくさいと感じている人も多いようだが、
青葉はそれがとてもうらやましかった。
13歳から両親と離れ離れで暮らす。字面であらわすのは簡単なことだが、そうなってみるととても大変なことだった。
修悟の世界には、そんなことはほとんどないみたいなので、青葉はとてもうらやましかったのだ。
丁度5時になった。そろそろ夕食を作り始めなければいけない時間になった。
青葉は、キッチンに立ち、いつものようにテレビをつけてニュース番組をみながら料理を始めた。
少しテレビに目をやると、信じられないニュースが飛び込んできた。
『14歳と16歳の少女が誘拐された。犯人の身元は不明。誘拐された少女達は戦闘に適さない能力を持っている。おこった場所は、都市3番、マンション付近とのこと。
警察は、詳しい情報を調査している。』
自分が住んでいるマンションの住人が誘拐された。
青葉は、どうにかして救ってやらないとと思った。
ただ、調査するにも一人だけではかえって不審がられるだけだろうとも思う。
青葉や修悟には関係のない話という事ではなかったので、とりあえず修悟にもこの事件のことを話しておくことにした。
「入っていい…?」
青葉は、修悟の部屋になった一室のドアをノックした。
「いいよー。」
青葉は修悟の部屋に入り、さっき入ってきたニュースについて話した。
修悟は驚いたような顔をしたがいまいちピンときていない様子だった。
「そのことと、俺たちに何か関係があるのか?」
「多分、私たちのマンションは狙われていると思う。だってさ、戦闘能力のない人を誘拐することは簡単でしょ?このまま野放しにしておくと、また同じようなことが起こると思うよ。」
青葉は、何とかして修悟と組んで解決できるようにしたいと思った。
「だからさ、私たちで組んで、犯人をやっつけてしまわない?」
修悟は一瞬困惑したが、すぐに笑顔になり、
「もちろん。それが世界を救う、一歩だからね。」
青葉たちは、この段階では、犯人のことを甘く見ているようだった。




