あっけない幕切れ、そして解決へ
「俺は、此処の管理人……といってもお前らは信じないだろうよ」
男が、そう言い終わった瞬間、青葉は魔法を叫んでいた。
「……フレーマー!」
男は、わずかに反応が遅れたのか少し服を焦がしていた。
「おいおい、なんで俺は平和に解決を望んでいるのに勝手に戦闘態勢をとってくるんだ?」
「――うっさい! 黒幕が!」
青葉は男に向かって叫ぶ。
その声はどこか憎しみが込められていた。
「……でも青葉は、この人に恨みとかってないんだよね。なんでそんなに怒る?」
「この人をそのままにしておくといけない!勘がそう告げているから!」
青葉の勘というものは当たるのかさっぱり清美にはわからないのだが、気迫はものすごかった。
その気迫だけで男を倒せるのではないか、というほどに。
「この男、さっさと倒すから!」
「――俺をなめてもらっちゃ困るぜ、『ウィンディア』」
風の刃が猛スピードで青葉たちに向かって飛んでくる。
それに気づいていなかった清美が、とっさに判断を誤る。
清美の服の裾に風の刃が擦れ、少し破けてしまう。
それを、清美は何とも思わずに反撃を仕掛ける。
「青葉……時間稼ぎ」
そうやら、少し時間がかかるらしいので、青葉はできるだけ男をひきつけっれるように立ち回る。それも、清美を守りながら。
男が風の刃を飛ばす。それを青葉は躱しながらも、自分も風の魔法を起こして何とか相殺しようとする。
ただ、男は風のエネルギーが刃という一点に集まっているが、青葉が大風を起こすことしかできない。鋭称速度は段違いなのだが。
風のぶつけ合いを続けているが、青葉も、男も致命傷となる打撃は加えられない――というよりも、少し青葉が押され気味だ。
腕や足には風の刃によるものだと思われる切り傷が無数にあり、水をかけると滲みて痛そうだ。
それに反して男は、青葉の大風をもろに食らっているが、なかなか傷がつけられない。
「何で、私の攻撃は……」
青葉が悔し気に呟く。そうして、ちらりと清美の方を見る。そうすると、清美は詠唱を終えて、あとはタイミングを見計らっているだけだった。
清美は、ハンドサインを青葉に向ける。
そこには、もう少し削ってからでないと厳しいとあらわされていた。
「でも……私の攻撃、届かない……」
思わずそんなつぶやきが青葉から零れ落ちる。
それは、風の音に掻き消えて清美には届かない。
このままでは負けてしまう、そう青葉たちが思っていたところ――
「ああっ……俺は、もうすぐ、」
男が苦し気に呻いた。
青葉は、それを聞いて少し安堵した。臨戦態勢は崩していないままだが。
「よし……清美、もうすぐ、いける」
そういいながら青葉は清美の方を見る。
男はもうすぐ魔力切れを起こすだろう。
強敵なのに、あっけない幕切れとなる。ただ、青葉たちの魔力貯蔵量が化け物なだけだと思うのだが。
男は、ついによろめき始めた
青葉は、今がチャンスだ、と清美に目線を送る。
『フローディスト』
男は、よけることなくそのまま喰らい、床に散っていった。
「終わったんだ……よね?」
青葉は清美に目線を送る。
清美も、呆気にとられながらも目線を返してくる。
「じゃあ、戻ろうか。修悟、待っててくれてるんだろうし」
「――うん」
青葉たちはゆっくりと戻って行った。
そうして外に出た時、待っていた修悟の顔はどこか疲れていて――
「俺が繰り返した世界は、結局意味なんてなかったじゃん」
二人には聞こえないように、そう呟いた。
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「で、本当はこの後に誘拐だの何だのかんだの起こる予定だったんだけど……」
「俺が先に予知しちゃったから、どうってことなかったな。まあ、それを前にやっていればよかった話なんだけどもよ」
三人は、ゆっくりと自転車を漕いで、自分たちの家へ――
夕風が心地いい。三人は、これからの事や、今回の事件をどうやって警察に報告するかを考えているうちに、もう家はすぐそこに迫っていたのだった。
結局、先手必勝だった、てなだけの話です。
本当は続く予定だったんですけど、ちょっと設定に無理があったりいろいろあったのでここで打ち切りの形になってしまって申し訳ないです。




