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とある世界の少年少女  作者: 橘葵
第一章  一から紡ぐ物語
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第十三話  圧倒的実力差


カンカンと、靴を踏み鳴らす音が響いていた。


「あんまり居ないな。」

「……青葉、慎重に。」


思わず駆け出しそうにあるのを清美があわてて止める。

なぜか見張りの数が異様に少ない。

青葉は駆け出したくなる衝動を抑えるので必死だった。


「っっ!」

「……嘘、そんなこと」


少し油断していた青葉たちの近くに現れたのは、キツネ型の魔獣だった。

この魔獣は、青葉たちの実力だと油断さえしなければ倒す事は容易いのだが、群れで行動するので、せん滅することは難しい。


「何でこんな屋内にやっかいな魔獣が居るのさ!まったくもう。」

「……大丈夫。私が、敵を引き寄せて……仕留めるから。」

「でも、こんなところで魔法放ったらここに敵がすごい近寄ってくることない?」

「……そういう、作戦。」


青葉たちは、余裕そうだった。

まあ、キツネぐらいなら清美だけでも余裕で倒す事ができるだろう。

しかし、いろいろあったので、時間のほうに問題があるかもしれない。


「……青葉、今、何時?」


青葉は、腕時計を見やり、時間を確認した。


「今は十時半。少し急ぎ目に。」

「……分かった。早く片付ける。」

「敵をおびき寄せたほうがいい?」

「……じゃあ、そうして。」


青葉たちには、のんびりしているような余裕はない。

敵はなるべく早く片付け、ボスを倒さなければならない。

清美は、おびき寄せられた敵を全体魔法で一掃する準備を始め、青葉は、敵をおびき寄せるために初級魔法を使った。


「じゃあ、ちょっと待ってて。」


『フレーム』


青葉が使った着火魔法の光に誘われ、キツネがわらわらと集まってきた。

ざっと五十は居るだろう。

後は、清美に引き継いで倒してもらう。

青葉は、清美にこっちに来るように言い、自分は、どこか都合のいい隠れる場所はないかなと辺りを見回した。


「じゃあ、後は任せた。」


青葉が、そういった瞬間、着火魔法を解除し、都合の好さそうな物陰に隠れた。

清美は全体魔法を使わないのか、中級魔法だけで敵を倒しているようだった。


「……何で全体魔法を使わないのさ。」


青葉は、物陰でそうつぶやいた。

ああ見えてかなり物事を深く考えている清美のことだ。何かあるに違いない。


「え……?」


清美が、かなり敵に押されていた。

とっさに青葉が物陰から飛び出すと、清美が焦りを隠せない顔で走ってきた。


「……ごめん。あのキツネの前に居ると、全体魔法が使えない。」


全体魔法以外の魔法の腕は一般人並みの清美は、全体魔法以外の魔法の腕がかなりある青葉に託した。


「おっけ。じゃあ私が倒してくる。」


青葉は、そう言ってキツネが密集しているところへ駆けだした。


「……たく、何で全体攻撃が封じられるような術式を使うのかなあのキツネは。」


青葉は、そう呟きながらも、キツネの前に立った。


キツネたちが炎の球を放ってくるが、青葉はそれをひらりひらりとかわしながら、自らも魔法の詠唱を始める隙はないかと探っていた。

ただ、なかなか中級魔法を詠唱する時間がない。

とりあえず、隙を作ることに集中した。


『ウォーティア』


散りあえず、足止めをして、遠くから安全に敵を仕留める作戦で行こう。


『フローズ』


とりあえず、床に氷の膜を張った。

これで、青葉たちは攻撃されることはないだろう。

もしかしたら、これなら清美も全体攻撃が使えるかもしれない。

淡い期待を抱いて青葉は清美を呼んだ。


「じゃあ、魔法、いきますか。」


キツネが青葉たちのほうに近寄ろうと、氷の上をよたよたと歩いてくる。

そんなキツネの滑稽な姿を傍目に、青葉たちは魔法の詠唱を始めた。


「神よ神よ・炎の神よ・我に力を与えたまえ……」

「神よ神よ・風土の神よ・我に力を与えたまえ……」


「『フレーマー』っ!」

「『ウインディア』っ!」


青葉が炎魔法、清美が風魔法を使ったので、辺りには熱風が巻き起こった。

キツネが成す術なく焼き殺され、断末魔が響きわたった。

その断末魔さえも消えると、辺りは静寂が支配していた。




少し時間を食ってしまったので、青葉たちは小走りで移動した。

どうやら、ここに潜んでいた敵はあのキツネだけらしかった。

辺りを警戒しながら進んでいると、つきあたりにぶつかった。

そこには金属製の上り階段があった。


どうやら、ここはまだ一階層で、まだまだ先は長いらしい。

青葉たちは、警戒を解かずに、階段を走って上った。


「さすがにここになると人が多いな。私が前にいる敵は一点魔法で倒すから、おびき寄せられた敵を全体魔法で一掃して。」

「……分かった。なんか、今日は青葉がリーダー、みたい。」


確かに、今日は珍しく今のところは冷静な思考ができていると思う。


青葉は、敵を倒すために前に突っ込もうとすると、清美に止められた。


「……ちょっと、青葉、危ない。」

「大丈夫。最近練習していた高速詠唱の力、試す時がきたね。」


青葉は、少し興奮した口ぶりで言った。

この二階層に居る敵はどうやら暗視や、千里眼など、周りを見渡す事に特化した能力者の集まりのようだった。

しかし、一階層の敵に比べると、装備がしっかりとしていて、少し手強そうだった。


そんなことを考えていると、敵のうちの五人ほどだろうか。青菜たちを倒そうと近寄ってきた。

よくよく見ると、魔力の流れが高まっている。


「--っつ!」


青葉たちはあわてて退いたが、少し間に合わなかったようで、魔法をくらってしまった。

少し傷口から血が出ているが、言うほどのものではない。

あわてて体勢をとりなおすと、青葉が小声で高速詠唱を始めた。


「神よ神よ・光の女神よ・我に宿りし光の眷属よ・我に力を与えたまえ、……」


その時間、およそ二秒。

敵は、青葉の高速詠唱に気づいていないのか、全く行動を起こさない。

そして、敵が青葉たちの前から立ち去ろうとした時、


『エナジー・シャイニング』!


青葉の声が響き、光の針が敵たちを貫いた。

この一撃で五人とも仕留めたが、他の敵が青葉たちの動向に気づき、二十人ほどが走ってやってきた。


「……めんどくさいなあ、もう。

じゃあ、これだけいたら全体攻撃で一掃できるでしょ。

清美、タイミングを教えてくれたらすぐに詠唱始めるから言って。」

「……分かった。」


清美は、常に敵に気を配りながら立ち回り、青葉が全体攻撃を打つための隙を見つける。

敵も魔法を放ってくるが、それを初級魔法で威力を相殺。

たまに青葉たちも魔法の威力を殺しきれずに魔法をくらうが、大したダメージでもない。


そして、敵のうちのいくらかが背中を見せた。

その瞬間、


「今!」


清美の声がした。

どうやら、清美はもう詠唱が完了しているらしい。

多分、清美は風魔法を使うだろう。

それなら青葉は炎魔法を使えばいい。

青葉は高速詠唱を開始した--!


「神よ神よ・炎の神よ・我に力を与えたまえ……」


「『フレーマー』!」

「『ウィンディア』!」


少女二人の声が、大きな部屋に響いた--!


今の攻撃で、どうやら十人ほどは焼き殺したらしい。

しかし、いまだ十人ほどは青葉たちの攻撃を受けても生きている。

今の攻撃でまとめて焼き殺そうと思っていた青葉たちの目論見は、見事に外されたようだ。


「思ったように魔法の威力が出なかったみたいだけど、これくらいなら……!

清美、フォローお願い!」


「……うん、もちろん。」


清美は、青葉が何をしたいのか察したようだった。


「じゃあ、あれをぶっ放すから、時間稼いでな。」


青葉がそういうと、清美が敵を引きつけながら立ち回る。

その立ち回り方は見事なもので、敵が魔法を次々と打ちこんでいるが、清美はまったくの無傷だった。


敵が清美に気を取られている間に、青葉は上級魔法の詠唱を開始した。


「神に誓い・神に願え・我とともに歩みし炎の神よ・我に力を与えたまえ……」


ここまで詠唱し終えたとき、青葉は清美にハンドサインを出して、清美を退避させた。

相変わらず、敵は青葉の動向には気づいていない。

これならいける、と思った青葉は、


『ハイ・フレースト』!」


敵のど真ん中に向かって上級魔法を打ち込み、敵を一撃で殺した。




またしても、カンカンという音が建物の中に響いていた。

さっきの敵は、青葉たちであったから倒す事は苦戦しなかったが、この都市に住んでいる人だと瞬殺されてしまうだろう。

衛兵の言っていたことはどうやら間違っていなかったらしい。


「もう、敵は居ないのかな……?」


青葉がそんなことを行った時、


「まだいるのかよ、おい!」


いかにも強そうな敵が現れた。

その敵は、単独で行動していた。という事は、その敵が一人で行動することが許されるほど強いという事を意味しており、もしかしたら青葉たちの手には負えない相手であるかも知れない。

青葉は、少し尻込みしてしまった。


「……でも、大丈夫。」


ふと清美の声がした。


「……私と青葉で、菜々葉たちを救うんでしょう。……ここで立ち止まっていたら、絶対だめ。」


青葉は、本来の目的を見失いそうになっていた。

清美の言葉で本来の目的を思い出したのか、青葉は敵のほうへと歩を進めた。


気づかれないように、光魔法の詠唱をしながら、青葉は、敵の後ろ側へと回りこんだ。

どうやら、敵は清美に気を取られており、幸い青葉の動向には気づいていないようだ。


今しか攻撃できるチャンスはないだろう。

こんなときに、菜々葉がいてくれれば、攻撃するタイミングなどが正確に決められるのにな、と青葉は心の中で思いながら、瞬時に魔法の射程距離内に入った。


「『エナジー・ポイント・シャイ二スト!』っ!」


敵の体が、光の針によって貫通していた。

しかし、その穴は見る見るうちにふさがり、傍目で見る限り、攻撃を受ける前とほとんど変わらないようだった。


「やっぱり、なかなか難しそうな相手みたいだな。」

「……二人で、倒さないと。」


どうやら、あの敵には自動で回復する能力が備わっているらしい。

青葉は、面倒くさい相手だな、と思いつつも、久しぶりに強い相手と戦えるので少し興奮した。


「じゃあ、清美は壁作れる?」

「……もちろん、大丈夫。」


敵に少しその会話を聞かれたのか、詠唱を止め、青葉たちの警戒に入ったようだ。


「……っじゃあ、いくよ。」

「おっけ。隠れといて。」


「神よ神よ・風土の神よ・我に力を与えたまえ、『グローディア』」


清美がそう唱えた瞬間、青葉たちの前に大きな土の壁が出現した。

土魔法は、出現させた土の動きをイメージすることで自由自在に形を変えることが可能だ。

突如、土の壁が出現したことで敵の動きが一瞬止まったようだったが、どうやら壁を壊して突入するようだった。


敵の物音がドーム状に作られた壁の中央付近から聞こえてきた。

目を凝らすと、土が少し崩れ始めている。

青葉は、小声で清美に話しかけた。


「じゃあ、私が魔法で壁を壊すから、清美は炎の中級魔法で足止めして。」

「……私、炎苦手だけど、大丈夫?」

「大丈夫大丈夫。私にも、考えあるから。」

「……青葉が、そういうなら。」


清美は、風土の魔法を得意としているが、それ以外はあまり得意ではない。

それなのに清美に炎の魔法を任せる青葉も、何か考えがないと馬鹿なことをしているだけとしか思えない。


「じゃあ、詠唱開始して。声は念のために小さいほうがいいかも。」

「……分かった。」


青葉が光魔法、清美が炎魔法の詠唱を開始した。

青葉は素早く、清美は魂を込めるようにゆっくりと。


「神よ神よ・光の女神よ・我に宿りし光の眷属よ・我に力を与えたまえ……


「神よ神よ・炎の神よ・我に力を与えたまえ……


『エナジー・シャイニング』!」


『フレーマー』!」


二人の声が重なった。


土の壁が壊され、敵が姿を現したと思うと、炎で焼かれた。

敵は困惑して魔法を詠唱し始めたが、青葉はとどめをさすように、相手よりも素早く高速で詠唱を開始した--!


「神よ神よ・水の女神よ・我に力を与えたまえ--


「神に誓い・神に願え・我とともに歩みし神・氷結の女神よ・我に力を与えたまえ--『フローディスト』!」


中級魔法よりも上級魔法のほうが詠唱が長く、行使までに時間がかかる。

しかし、青葉はそれを覆すようにして高速で魔法を相手に放つ。

相手は、てっきり魔法はまだ飛んでこないと油断していたのか、茫然とした顔で氷漬けにされた。


「じゃあ、これでとどめね。」


「神よ神よ・光の女神よ・我に宿りし光の眷属よ・我に力を与えたまえ--『エナジー・ポイント・シャイ二スト』!」


辺りがぱっと明るくなり、今度こそ敵は生命活動を停止した。




「ちょっと強かったけど、ありがと。強い敵はやっぱ不意打ちに限るね。」

「……お役に立てて、光栄。」


青葉たちは、少し安堵したが、目的はまだ果たされていない。

そばに居る敵を倒しながら、青葉たちは上り階段を探してさまよった。

しばらく歩いていると、階段が見つかった。


「じゃあ、ここからが三階層だね。気を引き締めて行かないと。」


青葉が見る限り、この建物は四階層までありそうだった。

多分、四階層に閉じ込められているのだろう。青葉たちは、階段を上って行った。


「ぇ?」


予想に反して天井の高い部屋だった。

部屋の奥にはもしかして菜々葉たちが閉じ込められていると思われる檻のようなものが見受けられた。


「……もしかして、ここがボスの部屋なのかも。」


青葉たちはボスのほうへ歩み寄って行った。










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