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とある世界の少年少女  作者: 橘葵
第一章  一から紡ぐ物語
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第十二話  迎えた当日


朝が来た。

昨日とは違って平凡でない朝だった。


まずは、青葉にとって朝に誰かいるという事が普通ではない事態であったのに、それに加えて今日は救出作戦の決行日なのだ。

青葉は、少し気合を入れるという意味でも伸びをしたのだった。


二人分の朝食を用意して、青葉たちは椅子に座った。


「じゃあ、今日は私たち結構ハイになっちゃうと思うから、指示よろしくね。」

「うん。俺も頑張るよ。…もう。」


修悟は、味噌汁を飲みながら、仕方なさそうに言った。


朝食を食べ終えたとき、時刻は八時半を指していた。


「じゃあ、ちょっと急ぎ目に準備するよー。」

「…やっぱ青葉がリーダーのほうが良かったって。絶対。」

「文句言わない。」


修悟はまだリーダーに不満ありげだったが、青葉はきっぱりと言った。


青葉が魔法で戦っている時は、本当に指示など飛ばせないほど突っ走ってしまうのだ。

だから、こういう時は計画だけ立て、それ以外はほかの人に一任することが青葉のポリシーだった。


青葉は、愛用の杖を腰に差し、動きやすい格好に着替え、長い髪を一つに結った。

着替え終わった後の姿を見た修悟は見惚れてしまった。

青葉は、半袖のTシャツの上にベストを羽織り、下はスキニーのデニムを履いている。頭にはしなやかな髪で結われた長いポニーテールが揺れていた。

修悟が見た昨日の青葉の姿とは全く別物であるかのように変貌していた。


「えと…青葉さん?ずいぶんとまたかっこいいです、ね。」


修悟は、驚きが隠せない様子で着替え終わった青葉に話しかけた。

青葉が、そんなの当たり前じゃない、と言わんばかりの顔で、


「まあ、こんなものでしょ。私は動く時は動く人だし。」

「いや、でもさ、青葉って魔法使いでしょ?あんまり動かないはずじゃ…」

「修悟のいた世界の魔法使いがどういう位置づけだったか知らないけど、ここでは魔法でしか戦闘しないからね。動かないと何も進まないよ。」


修悟の世界では、魔法使いは動かない者であったかもしてないが、ここでは違う。

魔法しか攻撃手段がない中で戦うのだ。動かないと逃げられるかもしれない。


「剣があれば、また違ったかもしれないけど…」


青葉の口から思わず言葉が漏れた。


「じゃあ修悟、あなたも早く動きやすい格好に着替えてくること!」

「はーい」


修悟も着替えさせ、本格的に作戦を開始しようとしていた。


「あのさ…修悟。その格好、何?」

「中学のジャージ。」

「…?」




時刻は九時前。青葉たちは自転車に乗ってマンションの前に集合した。

二、三分待つと、自転車に乗った清美が現れた。


「…おはよう。…じゃあ、早速…出発、する?」

「うん。じゃあ修悟、道案内宜しく。」

「はーい。」


青葉たちは、誘拐された先であろう現場に向かって自転車を漕ぎ始めた。




_*_*_*_*_*_*_*_*_*_*


無音が支配する空気を、青葉が打ち破った。


「そういえばさ、あんまりきんな質問したくないけど、修悟、もし死んだらさ、どうなっちゃうの?」



「…青葉、時と場合を、考える。」

「こんな時にやたら不安になるような質問。でも、青葉が必要なら答えてもいいけど…」


「多分、俺が死んだら、世界は巻き戻せなくなると思う。だから、俺は安全なところにいなきゃいけないと…あれ?これ俺いくら強くても戦力外じゃね?」

「死んだら終わりか…まあ、そんな修悟に都合のいいことぽんぽん起こるわけないか。」


青葉が、一番修悟に聞いておきたかった事を聞いた。

まあ、予想はしていたが、死んだら終わりだと戦力外になってしまう。

なにせ、修悟の一番のステータスを奪ってまで戦わせて命を危険にさらす事になってしまうのだ。

青葉はそんな危険なことをしてまで自分たちの勝率を下げることなど、したくはないと考えていた。


青葉は少し考えた後、また口を開いた。


「じゃあさ、今日も一緒に参戦せずに、私たちの帰りを待っていてよ。

こんな話、したくないけどもし失敗した時はまた巻き戻ってもらう事になると思うし。」

「…やっぱり、青葉って…重要な時に、変なこと言う。」

「なんか俺不安になってきたよ?!」


青葉は、本気で心配しているようだが、その心遣いも逆効果だ。

そんな事を話していると、都市を出る門まで出た。


「ちょっとそこのお三方、そこから先は危ないよ。何せそこのあたりで誘拐事件の犯人が潜んでいるからね。」


予想していたが、衛兵の人に止められた。青葉たちは少し退いてしまいそうになったが、青葉が勇気を振りしぼって言った。


「私たちは、その犯人の人を仕留めに行くんです。どうか通してもらえませんか?」


衛兵の人が少し不安そうに言った。


「ああ……そうですか。でも、あの人はかなりのやり手ですよ。

この都市の警察の人たちだと、太刀打ちできない。今、周りの都市から救援を求めているから、その人たちに任せたほうがいいですよ。」


衛兵の人は青葉たちを止めようとしているようだ。

しかし、周りの都市の救援を待っていたらもう遅い。梨花と美乃里はもう助からなくなってしまうのだ。


「でも、私たちが助けないといけないんです。」


青葉は、瞳に強い意志を宿してそう言った。

衛兵の人が、そんな雰囲気に気圧されたのか、少し態度を変えて言った。


「……では、あなたの名前は?」


「上川、青葉です。多分知っていますよね。」


衛兵の人は、青葉の名前を聞いて驚いた。

名前を聞いた途端、態度が打って変わったように青葉には見える。


「ま……まさか、あなたはあの上川の娘ですか?

青葉さん、と言いましたか。あなたはこの都市でもかなりの実力をお持ちで……

まことに失礼いたしました。どうぞお通りください。」


「あ、ありがとうございます。」

「頑張ってください。期待していますよ。」


青葉たちは、衛兵の人に一礼すると、目的の場所へと自転車を漕ぎ始めた。


「青葉、もしかしたらだけど、青葉ってこの都市でかなりの実力者?」


「まあ、そういう事になるかな。」

「……青葉は、すごい、強い。」


ちなみに、青葉は、戦闘に適さない能力を持ちながら、戦闘能力を持つ人と対等以上に渡り合える、かなりの実力者である。

一年前のとある事件でも、青葉はその実力を生かし、問題解決へ尽力した。

そのせいか、今すぐにでも警察で働かないか、と言われるほど一目置かれる存在であったのだ。


しかし、青葉でも両親の素性をあまり知らない。

もしかしたら、あの衛兵の人は青葉の両親と交友関係のあった人なのかもしれない。

青葉は、少し話を聞いてみたくなった。


「じゃあ、多分ここからは歩かないと行けないから、ここに自転車を止めよう。」

「はーい。」


だいぶ目的の場所に近づいてきたようだ。

三人は気をつけながら歩いていると、周りの雰囲気が一変した。


「ねぇ、何か不穏な空気を感じるんだけど。」

「……確かに、敵が近くに、いそう。」

「……えっ?」


青葉と清美はそんな空気に気がついたようだが、修悟はまったく分からないようだった。

しばらく進んでいると、敵の潜伏場所らしき建物が見えてきた。

どうやら、森の中なのに、えらく大きな建物のようだ。

そこには見張りの人がたくさん立っていると青葉たちははっきりと認識した。

とりあえず、敵から見つからなさそうな茂みを見つけたので、そこに隠れた。


「じゃあ、修悟はここで待ってて。きっと皆を連れ戻してくるから。」


修悟は、一瞬心配そうな顔をしたが、無理やり笑顔を作り、


「じゃあ、行ってらっしゃい。気をつけて。」


と言ったのだった。




_*_*_*_*_*_*_*_*_*_*_*



「じゃあ、行くよー!清美はとりあえず私の補助をして、後は自分の判断で動いて!」

「……うん、任された。」


ちなみに、青葉は対人戦に特化した魔法が中心で、清美は全体攻撃に特化していたので、かなりバランスのいいペアだと思う。


青葉は、とりあえず見張りの一人と向き合い、余裕そうに言った。


「多分、この人たちは属性特化の能力だから下っ端だね。あんまり魔力は消費したくないけど、倒しておいたほうが無難か。」


清美は無言でうなずいて、理解の意を示した。

それを見た青葉は、静かに魔法を唱え始めた。


「神よ神よ・氷結の女神よ・我に力を与えたまえ、『スポット・フローザー』!」


相手もそれに気づき魔法の詠唱を始めたが、青葉の速度には敵わない。

魔力の波動が高まり、空気がわずかに振動した瞬間、見張りの一人が凍りついて、消えた。


「まだまだ行くよー!」


「『スポット・フローザー』っ!」

「『スポット・フローザー』っ!」


戦闘は一方的だった。

敵に隙を見せることなく、青葉たちはは立ち回っていた。

どうやら、今は清美の出番ではないようだ。


青葉だけが魔法を行使し続けて十分ほど経った頃だろうか。

青葉の詠唱の声が止んだ。見張りは一人も残っていなかった。


「じゃあ、この中に入っていきますか。清美、必要があれば破壊しまくってもいいから。」

「……はいはい。」


青葉たちは敵の潜伏場所へと歩を進めた。








逃れられない死へのカウントダウンが始まっていた事は、ボスを除いて誰も知らないようだった。


_*_*_*_*_*_*_*_*_*_*


修悟は、青葉たちの一方的な戦いを見ていて、ただただ驚くことしかできなかった。

自分が昨日使った魔法の威力とは比べ物にならないほどの魔法が、青葉の体から放たれる。

その姿が、修悟の目にはとてもかっこよく映って、青葉が手の届かないあこがれの存在へと昇華した。


「俺も、あんな風に魔法を使えるようになりたいな……」


修悟の口からそんな言葉が思わず出たのであった。



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