第十一話 意味合い
青葉は、とりあえず清美に家に上がってもらい、詳しく話を聞くことにした。
記憶を見ればすべてが解決するのではないか、と思うだろう。
しかし、青葉のその能力はまだまだ不完全であり、使いこなせていないので、こういう緊急を要する時は人に話を聞いたほうが早いのだ。
というのも、青葉の能力は重要な事以外も伝わってくる事が多いので、情報の取捨選択の時間が必要だったからだ。
「…三時くらいに、出て行ってから…まだ、帰ってこない…いつもなら、六時までには…帰ってくるはず、なのに」
清美は、誘拐事件のニュースを聞いたとき、焦りが隠せなかった。
というのも、お昼ごろの一件があってから、菜々葉はどうしてもあの二人を守ろうと二人の元へ行ったようだ。多分、出会ったときに一緒に誘拐されてしまったのだろう。
青葉は、解決策を立てようと口を開いた。
「あれだよね。菜々葉ってさ、梨花と美乃里を止めにいったんでしょ?
多分その時に一緒に誘拐されたんだと思うのよ。」
「…多分、そうだと、思う。」
「あ、そっか。そうしたら助けるのは三人になるのか。俺はどうすることもできないから救出というか撲滅しないときついと思うけど。」
青葉と清美の会話に、お風呂から上がってきたところの修悟も乗っかってきた。
修悟は、まだ幸か不幸か、梨花と美乃里と顔を合わせていない。もしかしたら、的確な意見を出してくれるかもしれない、と青葉は思った。
清美は、少し気を持ち直したのか、落ち着いて作戦を考えたほうがいいと言った。
「…多分、三人は…同じ場所に、いる。…断定、できる。」
「まあ、そうなるよね。そんなに誘拐事件がぽんぽん起こるような治安の悪い都市じゃないし。」
というか、誘拐事件は三年に一回起こるかどうかの頻度だ、と青葉は付け加えた。
「俺さ、大体だけど場所覚えてるんだよな。だからさ、明日は俺がアシストして行っていいか?」
修悟が、自分にできることはないか、と探した結果だと思われる事を言った。
青葉たちは、敵がどこにいるかいまいち把握していない。
否、場所は分かる。行く道筋が分からないのだ。
「あ、そうか。修悟は前の世界でも一回現場に行っていたんだったよね。」
「…道が、分かるなら…教えてもらえると、嬉しい。」
青葉たちは、修悟を信頼して言った。
一度行ったことがあるなら、多分、多少間違えるような事があっても必ず現場に辿りつくことだろう。
「ああ。俺は道を覚えることはすごい得意だからな。多分間違えないよ。」
修悟が、自信ありげにそう言った。
青葉は、もうひとつ。前の世界で知っておかねばならなかったことを、だめもとで聞いてみた。
「あのさ、相手がどうやって爆発させたか分かったりする?」
修悟が、少し考え込んだ後、
「まったくと言って分からないかな。巻き戻すのが俺じゃなくて青葉だったらよかったんだけど。」
と言った。
青葉は、まあ、そこまでは分かるって思ってなかったから大丈夫、と笑った。
というより、青葉がもし世界を巻き戻していたら、感情移入したり、気持ちが揺れすぎてしまったりして、このように事態はうまく動かない可能性のほうが高い。
そんな事を考えている青葉をよそに、清美がきっぱりと言った。
「巻き戻すのが、修悟君でよかったよ。」
どうやら、清美も青葉と同じことを思っていたようだ。
修悟が、いやいや…と言いながらも、照れていたのが印象的だった。
「じゃあさ、その巻き戻した時の記憶を使って、私たちをアシストしてくれたりできる?」
「…そうしてくれると、助かる。」
「私たちは、あんまり詳しい情報まで共有することができないからね。」
青葉たちは、修悟に向かって口々に言った。
そして、青葉は、修悟に一番言いたかった事を言った。
「明日の作戦のリーダー、修悟がやってくれない?」
修悟の表情が凍りついた。
そして、修悟は我に返ったように話しだした。
「いやいやいや、作戦のリーダーは青葉だろ。てか俺、青葉がいないと何もできないよ。
今日も青葉に頼りっぱなしだったし。」
修悟は、そんな事できないと青葉に言った。
清美は、まあそうしないと大変だろうね、と納得している顔だった。
青葉はこう考えていた。
青葉は魔法を使い始めると、人が変わったように男らしくなってしまい、なかなか周りが視えなくなってしまう、という欠点を持っている。
なので、冷静な指示が飛ばせなくなってしまう恐れがあるので、いつもは清美に詳しい指示は任せていた。
しかし、今回は発案者が発案者だ。
しかも、普段は青葉の補助をしているだけの清美も実際に戦う事になるので、魔法を使っている最中は指示を飛ばす事は難しいだろう、と青葉は考えていた。
「まあ仕方がないことなんだよ。私と清美は実際に戦う事になるわけだし。魔法を使っている最中はうまく指示が飛ばせないのよ。後は、今回の事をもっともよく知っている人を推薦しただけかな。」
「えっ…もしかして俺って、戦力外なのか?」
修悟が、期待を外されたかのような顔で青葉に聞いた。
青葉は即答した。
「そんなの当たり前じゃない。そんな初級魔法だけだと、敵なんて倒せないよ。」
別に修悟のことを嫌っているわけではない。ただ単に修悟の安全の事を考えての発言だった。
「そんなぁ…」
と修悟が悔しそうに呻いた。
青葉は、今だ、と言わんばかりに、
「じゃあ、そういう事で、修悟、明日はよろしく頼むよ。」
と畳み掛けたのであった。
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そんな話をしていると、もう時刻は九時を回っていた。
もう遅いから、と清美を帰らせ、リビングには青葉と修悟の二人だけがいた。
「…やっぱり、俺ってさ、魔法、うまく操れないのかな…」
突然修悟が聞いてきた。
青葉は、いきなりどうしたのか、と思ったが、明日の事を考えているのだろう。
青葉は、修悟の話を聞いてやる事にした。
「いきなりどうしたのさ。」
「いや、俺はまだ青葉たちの魔法を見た事がないから、詳しいことは言えないんだけど、
今日さ、訓練場に行ったじゃん。その時に、俺より小さい子がさ、俺と比べ物にならないほどの魔法を使っていただろ、なんかさ、それがすごい悔しかったんだよ。」
青葉が思っていたよりずいぶんと変な話だった。
「そんなの、魔法を使い始めてもう七年ほど経つ人と比べてたらいけないじゃない。
修悟は修悟なりのペースでマスターしていけばいいだけの話でしょ。」
思わず語尾が強くなってしまった。
というのも修悟は今日もあまり堂々とした様子を見せていなかった。というか、自信がなかったのだろう。青葉は、修悟のそんな姿を見ていて、情けないな、と思ってしまった。
「だけどさ、俺菜、この世界に転移してくる前、あの神様が、『魔法の素質がある』って言ってくれたんだ。だからさ、なんか神様の期待に応えないといけないなって気もするから…」
青葉の想像以上に、修悟は物事を深くとらえているようだった。
「でもさ、この世界に来て、実質三日なんでしょ?逆にそれで魔法がマスターできたら皆が驚くよ。
しかも、修悟は魔法の知識が何もない、素人なんだから。」
しかし、たった三日で素人が魔法を習得できるほど、魔法は簡単なものでもない。青葉は、その事実だけは修悟に知っておいてもらいたかった。
それを聞いた修悟は、じゃあ、と口を開いて、
「俺って、何かしらの素質があるとか、青葉には分かったりする?」
青葉は、少し考え込んだ。
確かに青葉は人の魔法の素質を知ることができる。しかし、今それを修悟に伝えてしまうと、帰って修悟の可能性をつぶしかねないように青葉は感じた。
「一応分かるし、実際飛び抜けててすごいところもあるんだけど、今それを言ってしまうと、なんか修悟の可能性を潰しそうな気がするから、今はまだ言わないでおく。」
「いや、それすごい気になる言い方。」
「まあ、そんな感じだから、今日は早く寝て、体力を回復させておくこと。今日は魔法を初めて使った日だから、すごい疲れてると思うし、早く寝てな。」
青葉は、これ以上話を長く続けてしまうと、明日の作戦に影響が出かねないと思ったので、
早く話を切り上げ、修悟にはもう寝てもらおうと思った。
修悟は、まだ何か言い足りなさそうな顔だったが、
「まあ、実際今日は疲れたし、早く寝ることにするわ。おやすみ、青葉。」
と、笑顔で言ったのであった。
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修悟も寝て、時計の針が十時を指した頃、青葉は自室で本を読みながら考え事をしていた。
「明日、もし性格が変わって修悟に引かれちゃったらどうしよ…」
そんな呟きが漏れた。
「ていうか、何でこんなに修悟と私って気が合うんだろう…」
青葉と修悟は、まだ出会って一日しか経っていない。修悟にとっては三日だが。
それなのに青葉がこれだけ心を開き、初対面に近い人と会話できたことが、青葉でも信じられなかった。
しかも、青葉は修悟のために何かをしてあげようと必死になっていた。
それは、青葉が相談屋をしていた時でも出したことのない感情がそこにはあったような気がした。
「これって、相談屋としてどうなのかな…」
青葉は、そんな悩みを振り払い、眠たかったのでもう寝ることにしたのだった。




